表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超能力者の、終わらない夢の物語  作者: 弱腰ギャンブラー
丹羽火灯編
5/7

一話 凄惨の清算

どうも。黒い白鳥の比喩です。

また楽しく合作をしようかなと思います。

ではどうぞー

 俺には誇りがある。いちいち宣言するほどの事でもないのだが、俺にとっては何よりも大切なものだ。


 そんなことをぼーっと考えていたのは、学校が終わり、日が暮れたころ。夜の街に繰り出し、煙草を吸いながら歩いていたときだ。いつもだったら、すぐに行きつけのバーに行くのだが、今日は何だか歩きたい気分だった。


 俺はいわゆる不良学生だ。まだ高校生であるにもかかわらず煙草を吸うし、酒だって飲む。学校の授業は寝て過ごすか、サボって屋上に行き、煙草を吸っているかだ。こんな不良学生、高校側は早く退学にしたいだろうにそうもいかない理由がある。だってこの学校は超能力者を保護する学校で、俺は超能力者だからだ。


「こんなことを続けても長生き出来ないぞ」、と親に言われたことがある。その時は確か「長生きしたいわけじゃねえんだよ」と俺は返した。俺は知っている。全てを放棄したくなるくらいの苦痛を。そのなかでも輝く誇り高い意思を。そんなものを知ってしまった後は、長生きするなんてくだらないことには執着出来なかった。俺はあの出来事で変わったのだ。いいほうに変わったのか悪いほうに変わったのか俺には分からないが、いいほうでも悪いほうでも関係はなかった。俺には掲げる正義が出来た。虚偽でも欺瞞でも偽善でもない。俺が掲げる俺の正義だ。


 一本吸い終わり、指で煙草の火を消した時に、俺は行き付けのバーにたどり着く。そのバーは薄汚れていて薄暗い。見るからに悪そうな店だ。普通の人なら大概こんな店は遠慮するだろう。まあ、確かにこの店には非合法が集まる。そういう俺も未成年の飲酒。違法だ。


「こんにちわ」


 俺は扉を開けて、店の中に入る。中に入ると強い酒の匂いがした。だが、今日はまだ誰も来ていないみたいだった。髭をはやしたマスターが「よう、いらっしゃっい。昨日ぶりだな火灯かとう」と僕に、地面が震えそうなくらい低い声で、話しかけてくる。何回店に来たら常連客になれるのか俺には分からないが、名前を覚えられたのだし、俺はもうこの店の常連客と言ってもいいのではないだろうか。


「よっす、マスター」

みやこはまだ来てねえぞ」


 俺はカウンター席に座って、師匠を待つ。師匠とは今さっきマスターが話した京のことだ。彼女は俺の恩人で、誰よりもかっこいい女だ。俺は師匠と出会えたこと自体が誇りに思えるくらい師匠に夢中だった。それは恋とか愛とかじゃなくて、多分憧れだ。


「マスター、あんた何年前からこの店やってんの?」

「あー、そうだな」


 マスターはグラスを拭く手を止め、考え込む。十秒くらい考えたあと、マスターは口を開いた。


「もう、十五年くらいなったかな」

「はあ、意外と長いな」

「そうそう、あの頃は客も多かった」


 そういうとマスターはゆっくりと十五年前の話を始めた。要約すると、十五年前はまだ警察の取り締まりが厳しくなかったから大麻などを吸っている人が多く、密売所として繁盛していたが、今は厳しくなってあまり人がこないといったところだ。


「お前、大麻吸ったことある? うまいぞ」

「いや、学生にはちょっと高いから。もっと年とってからだな」


 マスターは満足したからか、またグラスを拭く作業に戻っていった。俺はしばらく店を眺めた。カウンターの奥に沢山のお酒のビンが置いてあった。これでこそバーだよな。


 しばらく店内を眺めていると、師匠がやって来た。彼女は俺の隣に座ると、ジーパンのポケットから煙草を取り出した。


「よっ、昨日ぶり。元気?」

「よっす、師匠」

 

 僕は師匠の煙草を見つめる。すると、煙草の先に火がつく。これが俺の超能力。しょーもない能力だが、意外に便利だ。ライターだって高いからな。ああ、言い忘れていたけど煙草以外の物には火をつけることは出来ない。


「火灯の能力は便利だ」


 そう言うと師匠は俺に「テーブルに移ろう」と提案してくる。俺は断る理由もなかったので快諾した。


「マスター、いつものください」

「あいよ、嬢ちゃん」


 僕たちはテーブルに移る。師匠と俺は向かいに座った。師匠は煙を吐き出す。


「火灯も吸う?」

「吸う」


 俺は師匠から煙草の箱を受けとる。 ずっとポケットに入っていたせいか、少し煙草の箱は温かくなっていた。俺は箱から一本取り出すと自分の能力で火をつけた。俺がいつも吸っているやつとは違って渋い味がした。


「うまいな」

「でしょ。じゃあそれ、あげるよ」


 俺はありがたくいただく。ありがとうと言おうと思ったが、師匠はありがとうと言われるのが嫌いなので、俺は、何も言わなかった。


「なんで師匠はありがとうって言われるの嫌なの?」

「その前に師匠って呼ぶの止めてよ。私、まだ20歳だし、女の子だよ。みやこって呼んで」

「そんで、どうなの? 師匠」


 師匠はわざとらしく大仰なため息をつく。


「優しさって見返りを求めたら、いけないでしょ」

「いけないってことはない気がするけどなぁ」

「じゃあ、格好よくない」


 確かに、格好よくはない。俺は頷いた。


「それで、ありがとうって言われるとその言葉が欲しかったみたいになるから嫌い。ありがとうは見返りだし」


 格好いい。俺は素直にそう思った。俺は師匠のこういうところに惚れたのだ。何回も言うがこれは異性にという意味ではない。人としてという意味だ。


 師匠は可愛い。いや、可愛いというか綺麗って感じだ。お姉さん系だ。だが、俺は彼女を異性として見ていないようだ。だって俺の姉御で師匠だ。俺は彼女の隣に立ちたい訳ではない。彼女みたいになりたいのだ。


「相変わらず格好いい」

「そりゃあ、師匠だし。弟子の前では格好もつけるし、虚勢も張る」


 師匠は、あははっとひとしきり笑うと、煙草を吸い天井を見上げ煙をはいた。俺も天井を見上げる。十五年も使われたバーだけあって、天井にヤニが染み付いていた。


 その時、カランと扉についていた鈴が鳴った。目の赤い黒井さんが入ってきた。黒井さんは、ニット帽を深くかぶっていた。目が赤いのは大麻を吸っているからだろう。いつも通りだ。


「こんばんは、お嬢ちゃんと火灯くん」

「ども、こんばんは。黒井さん。また大麻吸ったの?」

「こんばんは」


 俺は、黒井さんが座った席の隣に座った。その隣に師匠も腰掛ける。


「久しぶりだね。お嬢ちゃんに火灯くん。あの後はどうなったんだい?」


 あの出来事を言っているのか。確かあの時は······。


「ぶん殴ってやりましたよ。あんなのはこの町にはいりませんからね」


 師匠が代わりに答えてくれた。そうそう、悪ぶってるわりに、草すらも吸わない根性なしがいたからぶん殴ってやったのだ。まあ、あれだけ喧嘩弱いのに、喧嘩売ってくるほうがわるいよな。


「はいよ、お二人さん」


 マスターがカクテルを持ってくる。相変わらず美味しそうだ。


「二人とも無茶するな。若いころを思い出すぜ」

「捕まらないようにだけは気を付けて」


 黒井さんは心配している。大麻を吸っている黒井さんの方が危険だというのに。まったく何を言っているのか。俺たちなんて捕まっても補導されるくらいだろう。


 その後は四人で雑談をした。俺は大概こんなもん。仲間と酒を飲みながら遊んでいるだけだ。十分幸せだ。だが俺は常にこの幸せな状況を見て、不安がっている。これは昔の出来事が影響しているのだろう。だって楽しいことは永遠には続かない。俺は気づいてしまった。楽しいことが長く続かないということに気づくということは、とても不幸せなことだと。果たして俺は幸せなのだろうか。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ