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超能力者の、終わらない夢の物語  作者: 弱腰ギャンブラー
プロローグ
1/7

〈目次〉 プロローグ、序章、または前置き

 初めましてー、あるいはお久しぶりですー。弱腰ギャンブラーの一人、血塗れメアリの侍従長です。

 性懲りもなく再びアカウント使い回してやろうと思います。今回は三人です。僕と『アルタイル』と『黒い白鳥の比喩』でやらせていただきます。

 第一話、というよりプロローグは僕から(他二人から全部丸投げされた結果)です。

 少しでもお楽しみいただけると幸いです。

 さて、物語と言えば、まずはプロローグ、もしくはモノローグから始まるものだが。

 小説であれ、マンガであれ、ライトノベルであれ。すべからく物語はそれらから始まる。世界観の説明だったり、登場人物紹介だったり、主人公の過去であったり、誰かのモノローグであったり。

 一応物語と銘打ったからには、その不文律、お約束に則るべきだろう。特にこの話は、色々と前後して分かりにくくなりそうであるし。

 やはり最初の第一印象というものは、何においても大切なものだ。

 なのでまずは、プロローグのモノローグとして、この物語における簡単な世界観の説明をして行こうと思う。

 この物語の登場人物の一人に過ぎない俺がその役を務めるのも、変な話かもしれないが。

 いきなりメタから始まったが、まあ気にしないでほしい。

 何せこれは、物語であるからして。プロローグ、序章、または前置き。それがなければ始まりすらしないのだから。




 この世界には『能力』というものが存在する。

 十年ほど前に、色々と世間を騒がせるとある大国で確認されたそれは、その国のとある科学者の発表した論文で世界中に知れ渡った。

 一口で『能力』と言っても、それはゲームのステータス的な意味でもなければ、神様から与えられる平等(笑)なものでもない。もうちょい非現実的なものだ。

 物理法則が道を譲り、科学技術が立ち止まり、自然の摂理が通行を許可したそれ。

 言葉で説明しても分かり辛いので、例を挙げよう。

 例えば、数十キロ先まではっきりと見渡せる視力を得る『能力』。

 例えば、自分の周囲に居る他の誰にも認識されなくなる『能力』。

 例えば、空高く飛ぶ鳥のように大きく大きく跳躍出来る『能力』。

 それらが、ここで言う『能力』のことだ。

 物理法則と科学技術と自然の摂理、その他諸々を踏み躙った力を持つ者のことを世界は『能力者』と呼ぶ。

 大仰に言ってみたが、この『能力』とは言うほど派手なものではない。

 よくある、時間の流れを操ったり、万物に働く重力を制御したり、天候を自由自在に動かしたりだとか、そんな中二感満載なことは出来ない。

 本当に些細な効果しかもたらさず、尚且つ代償や副作用、デメリットや制限といったものが存在する。

 さっき挙げた例で言えば、抜群の視力を得る代わりに他の五感が働かなくなったり、誰にも目視されることはなくとも触れられれば効果を失ったり、どこまででも高く跳躍することが出来ても空中に留まることは出来なかったり。

 結局はそんなもんだ。たかだか人間が、そんな奇跡を容易く行使できるはずもないだろう。

 この世に無償の奇跡などありはしないし、無制限のものなど存在しないのだ。

『能力』は後天的に発現するものであり、何故か若者、十代前半から後半にかけての年齢層でのみ発現する。

 だが、これもまた全ての若者が『能力』に目覚めるというわけではない。もしそうだったとしたら、今頃世界は大混乱だ。

 話はこのプロローグの最初に戻る。

 

ある大国の研究者が発表した『能力』に関する論文。彼の論文に記された考察やデータは、どれも確実性が高く、真に迫っていた。故に、後の多くの人々の理解の助けとなった。

 彼の論文には、『能力』が発現する条件として、こう書かれていた。


『精神が不安定な青少年たちが、形成されかけた自己というものを手放す、あるいは根底から覆させざるを得ないほどの強い激情、深い絶望に身を浸した時、彼らの抱いた感情や願望が「能力」という形で発現する』


 自らの全てを変革する、強い激情、深い絶望。つまりはサバイバーズギルトや心的外傷後(PT)ストレス障害(SD)が、形を取って現れたものが『能力』、ということだ。

 ああ、なるほど。俺はそれを聞いて、思わず納得してしまった。

 俺自身もそうだったので、その話はよく分かった。




 ――この物語は、『能力』を持った少年少女が織りなす、ちょっとだけ変わった青春群像劇だ。

 少しだけ普通とは違うけれど、平凡で平穏で平和な俺たちの日常。

 それを、三人の少年の視点から紐解いて行く。

 他の奴らがどうかは知らないが、俺としては、この物語はそう悪いものではないと思う。そこまで暗い、ダークな話ではないし。

 何より全員、多少なりとも救いを手にすることが出来るのだから。

 変わり映えのしない日常の中で、それぞれの問題や過去と向き合い、あるいは希望を、あるいは絶望を手にする。

 これは、そんな物語だ。




 さて、プロローグはこれでおしまいだ。

 物語の概要はご理解いただけただろうか?

 多少なりとも興味を持って頂けたのなら、このままマウスのホイールをコロコロと回してスクロールしてほしい。

 趣味に合わない、と言う方は、画面左端の「←」を押すか、ログイン中の人はユーザーホームに、そうでない人はサイトのホーム画面に戻ることを推奨する。










 ここを読んでいる方は、続きを読んでもらえる、ということでいいのだろうか。

 では、もう前置きも十分だろう。早速、俺たちの物語を読んでもらおう。




§




 六月と言えば梅雨の季節。

 梅雨前線とやらが日本に直撃し、一カ月ほど大雨が降り注ぎ、湿気に塗れてじめじめとした不快な気候が続く。

 こんな季節には家で引きこもって、窓を叩く雨音に耳を傾けていれば安らぎを得ることも出来るのだが、生憎と学生はそうもいかない。

 大雨の中、大して役にも立たない傘を差し、ローファーをぐっしょりと濡らしながら、やっとこさ辿り着いた、県立三津原高校の正門。

 目の前には四階建ての校舎が鎮座し、左横に広めの体育館、そのさらに横に小さな武道館や弓道場が隣接している。

 きゃっきゃとはしゃぎながら、あるいは欠伸を洩らしながら昇降口へと向かう生徒たちに続いて、俺も濡れそぼったローファーを脱いで靴箱に突っ込む。乾かねえよなぁ……。

 嘆息しつつ、上履きに履き替え階段をのろのろと上がる。目指すは三階、二年C組の教室だ。

 廊下の喧騒をさっぱり無視して、目当ての教室の扉をガラガラと開けて教室内に踏み込むと、何人かのクラスメイトが挨拶してきた。


「うーっす」

「おはよー」

「おは」


 軽く返して、俺は自分の席へ向かった。窓際後方。ベストプレイス。

 鞄を横にかけて着席し、俺は何とはなしに窓の外へと視線を向けた。色とりどりの傘を差した生徒たちがぞろぞろと登校してきている。

 中学時代であれば「見ろ、人がゴミのようだ!」とか言って破滅の呪文を呟いたりしたものだが、流石に今はそんなことはしない。今の俺には、そんな気力もないしな。

 溜め息を吐き、ザーザーと雨を降らす灰色の空に思いを馳せる。

 ――ああ、そういえば、あの日もこんな天気の日だったな。

 俺がこの能力に目覚めたのも、そして――アイツに出会ったのも。

 顔見知りの女子生徒の顔を思い浮かべて、思わず笑みがこぼれてしまった。すると、前の席のヤツに見咎められてしまったようだ。


「何笑ってんだ、お前……? 怖ぇぞ」

「ん、悪い。ちょっとな。……おはよう、(とおる)

「おう。グッモーニン、慎也(しんや)


 言って、茶化すように笑う友人――明石(あかいし)徹。

 軽薄な印象が強いが、実は義理堅く、友情を大切にする好青年である。少しばかり女性好きが激しいのが玉に瑕。

 そして、俺――木更枝(きざらし)慎也の一番の理解者にして、親友でもある。


「んで? 何考えてたんだ? やっぱ、夜那(やな)ちゃんのことか?」

「……何でアイツのことになるんだよ」


 図星だった。だったが、素直に肯定するのも恥ずかしいので、一応反論を試みる。

 徹はあっけらかんと、


「いやー……だってお前、いつもそうじゃん」

「何が?」

「お前、いつも夜那ちゃんのこと言ってるじゃん」

「……そうか?」


 ……そうか?

 首を傾げる俺に、徹は無駄にはっきりと頷く。


「そういや、ここんところどうなのよ。『お悩み部』の活動の方は」

「どう、って言われてもなぁ……。とりあえず、昨日来たお悩みは、家出した猫探しと、無記名ラブレターの送り主探しと、あと校舎の戸締り、だな」

「マジでただの便利屋じゃねぇか、お前ら」

「やっぱそうだよなぁ……。けど、ウチの部長が全部引き受けちまうもんだから」


『お悩み部』。正式名称『あなたのお悩み解決部』。ちなみにこのセンスの欠片もない部名を付けたのは俺じゃない。そして、これで受領した学校側の正気も知れない。

 部員は、何故か副部長を押し付けられた俺と部長に、あと数名というごく小規模な部であり、どちらかと言うと同好会かサークルみたいなもんだ。

 三津原高校の生徒のお悩みを聞き、その解決のために全力を尽くす、というのが活動内容だ。ざっくり言えば、徹の言った通りただの便利屋である。

 持ち込まれるお悩みも、ほとんどがくだらないものばかり。

 やれなくしたハンカチを探してほしいだの、やれ壊れた機材を直してほしいだの、やれ好きな相手が自分をどう思っているのか聞いてほしいだの、やれクッキー作りを手伝ってほしいだの……。


「お前らの部って、メンツ濃いしな」

「あー……」


 さらに言えば、ウチの部は部長含め全員が問題児だ。マトモなのは俺だけ。周囲から言わせれば、俺も大概マトモじゃないらしいが。解せぬ。

 そして――俺を含め、部員の全員が能力者(・・・)なのである。

 三津原高校に在籍する能力者が集まって立ち上げた部活――それこそが、『お悩み部』なのだ。

 能力の存在が世に知れ渡ってすでに数年が経つとはいえ、やはり世間が能力者に向ける視線は冷たい……と言うほどでもないが、少し痛い。

 学校という小さな箱庭の中でさえ、能力者(俺たち)はどこか敬遠されている節がある。

 そんなはぐれ者の寄り合い所帯こそが『お悩み部』。

 もちろん、目の前の友人のように、能力者であっても普通に接してくれる者が居ないわけでもないのだが……。


「はぁ……」

「……お疲れ、副部長」


 苦笑しながら慰めてくれる徹の優しさが心に沁みる。

 何せ全員、一癖も二癖もあるヤツばかりで、まとめ上げるのが大変なのだ。部長はその筆頭だし。胃痛薬と頭痛薬は必須。腰痛に備えて湿布もだな。


「でもま、なんだかんだ言って、ウチのヤツらは仲がいいからな。部内で険悪な空気に、とかはならずに済んでるよ」

「それなー。マジ針の筵だぜ。気を付けろよ」

「おう」


 遠い目になった徹が呟いた忠告に、素直に頷いておく。どうやら経験がおありのようだ。

 とそこで、教室のドアが開き、担任の教師が教壇へと上がってきた。それと同時にチャイムが鳴り響き、生徒たちが大慌てで席に着く。

 担任がホームルームの開始を宣言するのを横目に、今日は一体どんな依頼が持ち込まれるのだろうか、と考える。

 どうせまたくだらないものなんだろうが……なんだかんだ言って、俺もあの部活が気に入っているのだ。

 どんなお悩みであろうと、部長が断るはずもないし、部員たちは結局一緒になって楽しむだけ。時折尻拭いで働かされることもあるけれど、それでもやっぱり、嫌いじゃない。

 部活動を行う放課後のことを楽しみに思っていると、ついまた、笑みがこぼれた。

 次も僕になるか、それとも他の二人になるかは定かではありませんが、これからもよろしくお願いします

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