第50話 実家へ2
「あ…ファイヤだ」
現在俺達は町から出発した後、実家への道のりの途中にある広大な森を歩き進んでいた。その時、ジークは魔物、“ファイヤ”を見つけ、その方向へ向かおうとしたのだが、ファイヤはゆっくりとこちらへ向かい、少しずつその周りから数多くの種類の光が現れてきた。
「あ、ファイヤだ。でも凄い数だね」
「では、私が」
エイリが攻撃態勢に入った。その印として彼女の体からは薄いオーラの様が放出されており、体から数センチ離れた所から彼女を囲むようにそのオーラを身にまとっていた。やはりそのオーラからは何の魔力を感じることが出来ないため、多分あのオーラの正体は魂術なのだろう。ファイヤの集団となるとそれはかなりレベルの高いクエストとなる。その理由はファイヤの特性にあり、数が多いほど力を連携し強化していくということだ。そしてファイヤは魔物の中でも唯一、水以外の魔法からの攻撃を完全無効化するという水魔法を使えない魔法使いにとってはかなり厄介な魔物の一つとなる。その上、ファイヤは自爆攻撃を主な攻撃方法とするため、水魔法使いはそれらからただただ逃げることしかできない。だが、他種の魔法を使う魔法使いにとっても移動速度の速いファイヤを的にして魔法を放ち、対処することはかなり難しい。
「ギガ・ウェイブ!!!!」
…….。ちょっとやり過ぎ。
エイリはビルの高さをも超えそうな巨大な津波を放った。津波はファイヤの集団を飲み込み、共に周辺の木々、地面の土、生き物などほとんど全ての物を流した。確かにファイヤが集団で襲い掛かってくるとこういう風な広範囲に攻撃が出来るような魔法でちゃちゃっと片付ける方が楽なのは楽なのだが、やっぱりそれ以外の物にも影響を与えてしまうような魔法はちょっとその後がまた面倒臭い。
ザブン…ザザザザ…
津波の波が収まった時には周り一帯は綺麗さっぱり。まるでそこに森が無かったかのようで、あたり一面が湖のようになっていた。
「や、やりすぎました…」
はっ、とエイリは我に返り顔をこちらに向けた。
「だね」
どうしたらいいのだろうか…? この湖と消えた森。もちろんのこと俺はエイリの言うガイン博士のように魂術を使えるわけでもないので、この次元を別次元と入れ替えることも出来ないし…。
「これどうします?」
「これは私の出番のようだね」
ロリ長は空へ飛び詠唱をし始めた。
「&#$‘#%&$……..」
それはこの国やアキレア帝国にも無い言語。そもそも発音の仕方がこの世界のものとは全く異なるもの。詠唱は数分にも続き、それが終わると魔法が地面に向かって放たれた。すると水で埋もれてしまっている地面から魔法が放たれた場所を中心にちょこちょこと若い芽が生え始め、数分するともうそこに以前あった湖は無くなっていた。水分は多分、若い芽によって吸い取られたのだろう。景色はエイリが[ギガ・ウェイブ]を放つ前に戻った。
「よし、戻ったようだな」
「あれは何の魔法?」
「えっとだな…。あれは古代魔法で正式な魔法名は無いが、要は色々な種類の果物を作るという魔法だ」
なるほど。地下にあった果物で出来た森はこの魔法で作られていたのか。古代魔法には正式名があまり無い。理由としては古代魔法が一般的に使われていたのが数千年前ということだからだ。だが、このように正式名は知らずとも使える者がいる。
「ということは学院地下にある果物の森はロリ長の魔法だったんですね」
「そういうことだ。他にも色々と他の魔法を掛けて美味く作ろうとはしているが、私が使える古代魔法はこれともう一つで二つだけだ」
「二つということはもう一つはどんな魔法ですか?」
「もう一つの魔法は教えることが出来ない。”禁術”ということだけは言っておこう」
禁術。どんな魔法なのかが気になるな。
森に入って数時間。魔物とは数匹ほどしか遭遇していない。そして勿論のこと、俺達はそれを何の問題も無く対処してきた。
「なんか楽しいですね。いつも私達、戦闘ばかりしていたからこういう風に皆で喋りながら森の中であるくのって良いですね!」
今俺達は森の中を喋りながら歩き進んでいるのだが、そう言われてみればこういった感じで仲良くゆっくりと歩くということはあまりしたことが無かったかもしれないな。いつもは時間停止や光速で移動した方が効率が良いなどという理由から普通に場所から場所へ移動したことは無かった。唯一ゆっくりと出来たのはこの国、セントラル王国からアキレア帝国まで馬車で学院の生徒と教師達で移動した時だけだ。
だが、その時は行先の途中でハンマーヘッドの集団と出会ってしまい、その後はロリ長がやられて少し騒ぎになったからあまりのんびりは出来なかった。だが、今回は十分に楽しんで移動出来ていると言えるのではないだろうか。それに俺の実家まではそこまで時間が掛からない。多分、2~3日ほどすれば到着するだろう。
「そうでござるな。某も和国ではそれほど人とは喋らず、ひたすら森や川などで修行をしていただけでござるからな」
「そうなんだね。僕はいつもアリスといるからそこまで珍しくは無い。それに二人で森の中をゆっくりと歩くのはいつものことだからね」
「私はいつも施設でガイン博士に付き添っていたので今は、全てが新鮮で全てが楽しいです!!」
「それを聞いてよかった。やっぱりこういった感じでゆっくりとした時間を過ごすことは良いことだな」
「うむ。そうだな」
そのまた数時間後、俺達は森を抜けたようで俺の実家への道のりにある町へ到着した。この数時間に何か起こったかと言うとそれほど何も無かったと思うのだが、まあ普通の人からしたら複数のランクBの魔物から囲まれたり、巨大な津波で森を全壊させたりなどで大変な一日だったと感じるだろう。だが、これは俺達にとって日常的…よりもっと穏やかでささやかな出来事に過ぎない。そして俺、自身も今日はさしぶりに休日と言えるほどの時間を過ごすことが出来たのではないだろうかととても満足している。




