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第40話 ファンクラブ&部長

 学院からやっとのことで手に入れた部室。何千人もの生徒達からの入部希望者が殺到し、現在では何百人規模の部活になってしまった。さて、今からその部活の会議を始めるところなのだが、この部活の活動内容が果たして本当に部活らしいものかは疑問だが、これから始まる会議の内容はこの部員にとっては極めて重大な事なのである。


「では、会議を始める。まずはレイ、今回の会議の内容を」


「はい、部長。今回の会議では[アウル様とゼレシアがくっ付き過ぎている件]について話し合いたいと思います。ではエミリー」


 ん? 彼女達が言っていることが全くわからない。


「まず、アウル様はこの学院に先月の月曜日、魔法学院の入学式と共にこの学院生徒と同じように、ご入学されました。そしてアウル様がこの女と出会ったのは入学式の放課後。その後、二人は学院のどの寮にも行き来する姿は目撃されず、どうやら二人だけ別の部屋で一緒に生活をしているようです。二人を追跡するように追手を付けたこともありますが、毎回学院の第一階段周辺で姿を消し、数十回もの追跡により、毎回学院の第一階段周辺で確認不能になることを確認」


「アキレア帝国にいた時点では二人に進展は無かったようですが、一昨日の土曜日に開催されたアウル様の優勝お祝いパーティーへと日にちが近づくと共に、二人はクラスや学院の中でもイチャイチャとするようになったという報告を数百件、受信。その後、数回アウル様とゼレシアが急接近したようなので、調査員が至急二人を襲撃。ですが何者かに先を阻まれ、二人の関係の進展を許してしまいました」


「レイとエミリー、ありがとう。ということで、今回の議題は[これからのゼレシアでの対処]です。レイ、皆に資料を」


 ということらしい。まずストーカー行為、個人情報の無断提供(流出)、ターゲットへの襲撃。これは普通に犯罪なのではないだろうか? 前世の世界なら確実に逮捕されるような内容だが、どうなのだろうか?そして数時間もの話し合いによってゼレシアをどう対処するかが決まったようだ。


「というわけで、今回の議題に対しては様子見ということになりました。また、二人の関係に何か進展がありそうになれば、少々の対応は許可するということに決定しました」


 いや、「それ全然様子見では無いよ! 絶対何かあったら襲撃するだろ!」と、突っ込まれそうな感じだが、部員はほとんど全員それで納得している。だが、唯一今回の会議にての決定に不賛成の者がいた。それは部長だった。アウル・シフォンズファンクラブ第一期生、ファン番号1番、リリー。実は彼女はアウルが育った森、[禁断の森]の近くにある町の冒険者ギルドのギルドマスターの一人娘なのだ。アウルがその冒険者ギルドに通い始めてからすぐに彼の事が気になるようになり、彼が通い始めてから一年が経過する頃にはいつの間にか森へ彼が戦闘をしているのを木のそばから眺めるようになっており、ある日、リリーが森でいつものようにアウルの後を追いかけていると…。


「グルルルッ…」


 アウルがフォレストウルフを狩った後を付いていくと突然隣からアウルにやられたはずのフォレストウルフが立ち上がり、リリーに飛び掛かって彼女を襲った。そのフォレストウルフはアウルに斬られたはずの首を元通りに回復しており、リリーは死を覚悟した。その鋭く尖った牙が自分の顔を引きちぎろうとした瞬間、フォレストウルフは「キャイン!」と鳴き、体ごとリリーの顔に覆いかぶさった。


「君、大丈夫? 一応、冒険者ギルドのギルマスの娘だから今まで黙っていたけど、やっぱりここは危ないし、いくら俺でも君を助けることが出来ない時だってあるかもしれない。今回のようにね!」


「あ、ありがとう。あと、ごめんなさい」


「うん、わかってくれればいいんだ。ではギルドに帰ろうか」


「うん!」


 その後、私は父の元へと引き渡されたけど、結局それからアウル様の側にいることは許されず、私はアウル様にある思いを残したまま、その日以来はその冒険者ギルドに来ることさえなくなってしまった。そう、私はその日アウル様に助けられたことによって、恋をしてしまったのだ。


 そしてそれから何年も経ち、魔法学院に入ると、丁度アウル様がこの学院に入学したことを知った。私はすぐさま彼に近づこうとしたが、残念ながら私にはアウル様と同じクラスに入るような魔法の才能は無かった。そして彼に近づく最大のチャンスの放課後にでさえ、私よりも下のクラスの女子生徒、ゼレシアに彼を盗られてしまった。こうして私はアウル・シフォンズファンクラブを立ち上げ、せめて私達の手が届く範囲では全力で彼らの恋の邪魔をしようと決めたのだ。


 こんなの逆恨みにも程があるが、それでも私は許せない。ゼレシアを。そしてあの時、アウルを目の前にして彼に話しかける勇気が無かった自分に。


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