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実技の時間と、ある男子生徒

チャイムが鳴る5分前には、ほとんどの生徒がグラウンドに集合していた。

「はい。それじゃあ次は体を前に。1、2……」

背の高い女性教師が、凛とした声で号令をかける。

司書業務の実技を行う前には、まずはストレッチが欠かせないらしい。もっともこんなことをしている図書館司書を、アリーシャはここに来てから今の今まで見たことがない。


「そういえば、アリーシャは図書館委員会に入ったんだよね?」

アキレス腱を伸ばしながらリーノが尋ねる。

「そうよ。図書館運営にも関われるみたいだし。なかなかに楽しみだわ」

アリーシャは実際とてもとても楽しみなのを抑えながら話す。気になることもあるが、ここで話すことではないだろう。

「そうなんだ。

「リーノも楽団に入ったのよね」

「うんっ。ちょうどフルート担当が足りてなかったみたいだから。頑張らなくっちゃ」

言いながら、思いっきり体を前に倒す。

「あっ⁉︎ ……いたたた」

「ちょっと、大丈夫⁉︎」

「えへへ、ちょっと張り切りすぎちゃった」

リーノはへらりと笑いながら腰を撫でた。

「もう、気をつけてよね」

まだ知り合って少ししか経っていないはずなのだが、アリーシャは自分でも意外なほどリーノと話せていることに気付いた。

アリーシャはそれなりにこの学園の雰囲気に馴染んでいた。もっともそれはクラスに一人友達がいて、委員会にも入ったというだけの話なのだが。人見知りも、少し改善された気がするし。アリーシャはそう思った。


書誌情報を引き出すのには、二つの能力が要る。一つは、資料の情報や分類法を学び、得た知識。もう一つは、その知識をコードとして読み取り、理解するための力ーーその人が持つ魔力である。

魔力とは大昔大地によって人類に与えられたとされる力で、世界が持つエネルギー——生命力のようなものを、人間が扱えるように変換したものである。何千年も前から知られているにもかかわらず、まだ未知の領域が多い。そのこともあって最近では科学の影響力も大きくなってきてはいるが、いまだに研究が進められている。この学園にも、研究所というものがあると聞いたことがある。

能力の程度・種類にはかなりの個人差があり、力の弱い者はペンタクルなどの魔道具を補助的に使用する。あくまで補助的にであって、やはり本人の実力によるところが大きい。だからこそ、このような授業が行われているのである。


「この授業では、まずは魔術の基礎。そして魔術による書誌情報の管理方法を学んでもらう」

先生は名前をエレンスというらしい。クールで落ち着いた語り口に、ゆるく巻いた髪が少しミスマッチな印象も受ける。

「それじゃあ、まずはこの資料を読み解いてもらおうか。やりたい者……はいないな」

話しつつ、生徒達をぐるりと見回す。

「当たらなくても、いずれは全員にやってもらうからね。先にやっといた方がお得だぞ」

「じゃあ俺、やるっす」

後ろの方から、声が聞こえた。

「君は……テオドア君、だったね?」

「はい」

呼ばれて、その男子生徒が立ち上がる。

少し赤みがかった茶色の髪に、少し細めの釣り上がった目。背はさほど高くない。

その容姿は、一見地味にも見える。しかし、その妙に意志の強い瞳が、見る者に何らかの印象を与えるようだった。


彼が右手を、本の表紙にかざす。とたんにふわっと明るい光が溢れ、風が彼の前髪をなぞる。

「管理番号09-0107235。タイトルは『植物観察日記』

著者はアルフレッド・パーセル、都市歴235年の作。ジャンルは物語(国内文学)で、この本自体は374年発行の改訂第11版です」

淀みなく、すらすらと述べる。

「よくできました。ちゃんと勉強してきたんだな。魔力の量も十分だし、コントロールもできているようだ」

男子生徒は表情を変えず、そのまま席に座る。

(すごい、ペンタクルもなしにここまでできるんだ)

アリーシャはただ、あっけにとられていた。アリーシャはペンタクルがなければ、ほとんど魔力を発動することができない。そう、アリーシャは実技においてはそれなりに劣っているのである。

(やっぱペンタクルに頼ってばっかじゃダメだよね。限界があるし)

アリーシャはそっとポケットに手を差し入れた。

(ん?)

しかし、そこには何入っていなかった。

(あれ……⁉︎)

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