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クラスメイトと、未来への考察

「あーあ、疲れたー!」

教室を出るなり、隣でリーノが思いっきり伸びをした。

「あれ? どうしたの、アリーシャ」

アリーシャは珍しく猫背がちに、ぼんやりと歩いていた。

「疲れたわ……」

「ふふ、頑張ってたもんね」

自分としては頑張ったというよりも、気疲れしたというのが正しいのだが。全く、学校ってなんでこんなに大変なんだろ。

「それにしても、アリーシャってばしょっちゅう注目されちゃって。やっぱり、すごい人なんだね」

そんな声がして、アリーシャはふと顔を上げた。間近にある、リーノの曇りない瞳。それを見てもう一度視線を落とす。

「すごいっていうか、変なだけよ」

本当のところ、自分はけっこうすごいのではないかと思い始めていた……むしろもともとそう思っていた。しかし、謙遜は大の得意である。

「うーん、そうでもないと思うんだけどなー。あ、でもやっぱりちょっと変わってるかも?」

「えっ、どこが?」

「ほら、ずっとベールかぶってるところとか」

「ああ。これは、私の地域では普通だったんだけど——」

言いながら、ふと前を見やる。そこで、二人は足を止めた。


目の前に、見覚えのある男子生徒が分かりやすく立ちふさがっていた。両手を腰に当て、鋭い視線でこちらを見つめている。

確か、さっきの授業で最初の方に答えてた人だ。名前はえーと、誰だっけ。分かんないや。

よし、無視しよう。

アリーシャはめったにないほどの決意で足を進め、さりげなく横を通り過ぎようとした。

「おい」

しかし、ちょうどすれ違ったところで肩をわっしと掴んで呼び止められる。

「何で無視するんだ」

「も、申し訳ありません…気付きませんでしたわ」

できるだけ丁寧に、しかし小声で早口でアリーシャは答えた。肩越しに伝わるオーラが怖い。頼むから手をどけてほしい。

「気付かない訳があるかよ」

アリーシャはベールを払い、その表情を見上げる。

「えっと、あなたは」

ぎこちなく、アリーシャは尋ねる。普通に話そうと思っても、どうしてもぎこちなくなってしまうから仕方ない。

すると彼は親指をぐっと自分の方に向けた。

「俺はテオドア。ここベルクリアで生まれ、ここで育った。覚えとけよ」

「は、はい」

「そんなにかしこまんなよ。そういえばアリーシャは留学生なんだろ?」

「そうだけど、なんで私の名前」

「なんだ。同じ科の奴の名前くらい、覚えてて当然だろ」

「えっ」

アリーシャは、思わず声を上げた。

「で、そっちはリーノだよな」

「うん、よろしくね」

まだ授業が始まって2日だ。先生も名前を呼ぶことはあまりないし、どうやら相当記憶力がいいらしい。

「さっきの授業、すごかったな」

「ええ、まあ」

「あれってさ、本当に自分の記憶だけなのか?魔力で記憶力を補完してるとかじゃなくて?」

「違うわ。ずっと住んでいた家に、図書室みたいなのがあったの。それから、暇な時は街の図書館に通っていたから」

「そうなのか、すげーな」

「そもそも、記憶力を補完するほどの魔力なんてないし」

自分で言いながら、なんとなくみじめな気持ちになる。

「それもそうか」

テオドアはそう言ってカラリとした笑顔を見せた。


「待てよ。ってことは、魔法で登録された書誌情報を引き出す必要がないってことだろ?それってすごいことなんじゃないか」

他の者が魔術でその都度データベースにアクセスして得ているものを、彼女は実際に読んだり見たりしたものから得ているのだ。

もちろん、この世に存在する膨大な書籍からしたら一部に過ぎないだろう。しかし小規模の図書館なら、もしかしたら十分なくらいかもしれない。

魔術が発達した、今のこの時代に。自分の記憶。なんてアナログなのだろうか。

「でも魔術を使った方が正確だし、これからの図書館はそれだけじゃやっていけないでしょ」

魔術を使わないメリットは、体力の消耗が少ないこと、それからデータベースにアクセスする手間がかからないこと考えられる。しかし、魔力のごく少ないものがやっていけるとは言い切ることができなかった。

「まあな。今後の図書館は、全部魔術がベースになるっていうし。けどまあ、そういう能力が生かされることもあるだろ」

テオドアは無責任にそう答えて、アリーシャに背中を向ける。

「ま、頑張れよ。じゃあな」

そして、手をひらひらさせて歩いていった。


「結局、何が言いたかったんだろう……」

「さーね。まあ、悪い人ではないんじゃない?」

「そうかしら」

よく分からないけど、面倒なタイプの人なのは間違いなさそうだ。アリーシャは一つ息をついて、またリーノとともに歩き始めた。


テオドアは一人、二人の後ろ姿を見送っていた。

(なんだ、この感覚)

あいつには違和感がある。そう、今まで一度も会ったことのないような。

いや。それはきっと、あいつが留学生だからだろう。そう思って、かかとを返す。もうそれ以上、気に留めることはなかった。

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