砂漠のプリンセス、参上
砂漠の中を、二人の人影が進む。
片方はあどけない顔立ちの少女。好奇心を感じさせる瞳に、せわしなく動く手足。その幼い印象には似合わないほどの落ち着いた表情が、時折ベールの中からのぞいている。
太陽の陽射しに晒されているにもかかわらず、その肌は驚くほど白い。風が吹くたびにきらめくピンク色とも紫色ともつかない髪は、まるで灼熱の地に現れたオーロラのようだった。
もう一人は落ち着いた顔立ちをした女性で、20歳は軽く超えているように見える。切れ長な瞳に、褐色の肌。肩ほどの長さでまっすぐに切りそろえられた黒い髪。
ふと彼方へと目を向け、隣を歩く少女に声をかける。
「お嬢様、ご覧くださいませ。あれがベルクリアです」
「あれが……!」
少女が、驚きの声を上げる。
そして勢いよくベールを脱ぎ捨て髪をほどくと、大きく右腕を広げて叫んだ。
「ようやく姿を現したわね! さあ、この私に跪きなさい」
後に続いたのは、乾いた風の音だけだったーー
「で、そのベルクリアのことだが」
落ち着いた印象の黒髪の青年が、神妙な面持ちで口を開いた。
とある学園内の、小さなカフェスペース。
その中の円形のテーブルに、二人の男子生徒と一人の女子生徒が座っている。とは言っても、年齢はそれぞれ違っているように見えた。
テーブルの上には薔薇の花をあしらったティーセットが置かれ、窓からは穏やかな光が差している。
どうやら優雅なティータイム、といったところだろうか。
「最近、妙な噂が多いですね。また出たんでしょう? 失踪者」
まだ幼く見える黒髪の女の子がそれに応えた。しかしその顔立ちからは、隠し切れない利口さが現れているように見える。
「ま、べつにいいんじゃね? その後すぐ見つかったんだし」
派手と言うよりはチャラいといった外見の男子生徒が口を挟む。
「お前は口を開けばいつもそれだからな」
そう言って黒髪の男子生徒はため息をついた。
「はいはい、お説教はいいですよ。そんなことより、もっと面白い本とか探そうぜ」
「まったく、真面目なんだか不真面目なんだか……」
彼は紅茶を飲み終えると、ジャケットを羽織って席を立った。
「まあ、全く無関係ということはないだろう」
彼の後ろには、古めかしい棚にズラリと本が並んでいる。
「この世界にあるあらゆる知識を管理する……それが『図書館委員会』の役目だからな」
砂漠の中の少女は髪をかき上げ、その小柄な体に一身に風を受けながらつぶやいた。
「これからが楽しみだわ。ねえ、エルバ」
彼女が彼らと出会うのは、もう少し先の話--。