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帰りたがりの彼 勇者の選択

作者: 石窯小麦

お久しぶりです。 またも短編。 しかもクライマックスから。

「見事だ勇者。 まさかこの私を殺すに至るとはな……だが、ただでは死なん!」


 瀕死の魔王からどす黒い魔力が噴出し、俺の背後に控えていた姫の体に入り込んでいく。


「な、なんですかこれは!? 勇者様、助け……あれ? なにも起こっていないみたいです……?」

 あっという間に魔力が姫の体に染み込むが特に外傷もなく異様な気配もない。


「世界再創生の核をその女に埋め込んだ。 さて、勇者よ、世界を守るのだろう? なら、その女を殺す他無いぞ?」

「そ、そんな……」


「ふははは、さあ、悩め、苦しめ、まあ、そんな時間も残ってはないだろうがな!」

「仕方ありません……勇者様、最期まで添い遂げることが出来ず申し訳ありません。 世界のために、私を――」

「あ、はい、そっすか、じゃあ遠慮なく」

 右手に握っていたやたらめったら眩しい聖剣とか言う自己主張の激しい刀身が肩幅もある鉄くずを回復役やってた女に向かってぶん投げる。

 音を置き去りにしたソレは綺麗に回復役の女の胴体に命中、その瞬間聖剣に溜め込まれたエネルギーが開放され、血も肉片も骨すらも跡形もなく蒸発させる。

 残ったのは融解した石造りの床とその上にカランと音を立てて落ちた空っぽの聖剣だけだ。


「な!? ゆ、勇者、貴様、何の躊躇いもなく」

「いや、時間ねーって言ったじゃんアンタ。 それにたかだか回復役のために悩む必要ないでしょ? 本人も世界のために殺してプリーズって言ってたし」

「いや、貴様は彼女が言い切る前に攻撃したぞ!?」

「そうだけどまあ、時間無いんだろ? 早いほうが良いじゃん。 つーか魔王、お前なんでそんな狼狽えてんの?」

「あの激戦の中必死にあの女を守っていたのはお前だろう!? それに、お前は旅の始まりの日からあの女と一緒に艱難辛苦を乗り越え、時に泣き、時に笑い、信頼と愛を深め合いながらここにたどり着いたんじゃないか!? 昨晩だって宿屋でアレだけ愛を確かめあっていたのに!!」


「うっわ、キモッ!? お前もしかして最初からずっと覗いてたの!? 引くわー。 そういう趣味?」


「違うわっ!? 誰がそんな趣味するか!!」


「えーじゃあ何、なんでさっさと俺殺さなかったんですか? 場所も特定してずっと見てたならさっさと殺せたでしょ貴方」


「それは……アレが私の……その……分身でだな……」


「じゃあすぐ殺せよ、何やってんですか貴方。 あんだけ近くでいつでも殺せるのに馬鹿なんですか?」


「ぐぅ酷い……そりゃ最初は殺す気だったが、貴様が妙な所で感が良くて殺すタイミング逃すし、毒盛っても何でか効かないし、うまく分断して殺したと思ったらすごいサバイバルして戻ってくるし……何なんだよ貴様ぁああああああ」


 思いっきり涙目で睨まれました。


「知らんがな、俺は俺だ。 つーかそれじゃあ戦闘中に回復とかしなきゃよかったじゃんか馬鹿なの?」


「もう無理だって悟ったんだよ!!! 貴様怖い強すぎ!!! 何で毎回毎回死にかけても生き延びて敵を倒せるんだよ!!! 瀕死どころか普通死んでる重症なのに生き延びて後遺症もなくむしろ余計に強くなって戦ってるんだよ!!! 実は旅の途中からろくに回復使ってないんだよ私!? むしろ毒与えてたのに何でどんどん元気になるの!? もうわかんないよ!!!」

「おいおい、少し落ち着けよ。 傷からすっごい血がドバドバ出てるぞ。 その割にやけに元気だけどさ」

「混乱しすぎたんだよ私は!!! もうやだ貴様大嫌い!!! さっきの戦いでも即死攻撃だけは絶対回避するしさぁ!!! 最後に分身使って絶望させようとしたのに即殺だしさぁ!!! うわーん」

「泣くな泣くなみっともない」


「うわーん……げっふぉぁ」

「おー盛大に血を吐いたな」


「ひゅー……ひゅー……」

「瀕死? 瀕死なの? まあ良いや、まず何で殺せたかって、そもそも求められたからソレに答えただけだからだな。 俺にあるのは徹頭徹尾、お前の計画ぶっ潰して帰ってゲームすることしか無かったから」

「じゃ、じゃあ、今まで見せた初な反応や、笑顔や涙は……」

「ん? 演技じゃないぞ、あるがまま生きてるからな。 ああ、ところで、もう世界再創生の術は消えたのか?」


「……く……ひゅー……ひゅー……」

「その涙目見る限りは消えたっぽいな、うむ、分身でも癖は継承されているってことか」

「……っぅうう」

「はっはっは、まあアレだ、ぶっちゃけ見た目だけなら本体のほうが美人だし俺好みの容姿だぞ魔王。 だが、だからと言って殺せないわけでもないがな」

「……私は……かなり本気で貴様のことが……好きになっていたんだぞ……凄くショックなんだぞ……」

「そうか、俺もお前のことは嫌いじゃないぞ? だがまあ、帰りたいからな。 こんなクソつまらん世界に骨を埋める気は欠片もないし、実のところ老化で劣化する三次元はNGなんだ!」

「貴様なんか……大っ嫌いだ」

「ああ、そうかい。 盛大に嫌ってくれ、そして恨んでくれて構わんぞ。 なんせ俺はお前の敵だからな」


 魔王は事切れたようだ。 返答は返ってこない。

 そして俺の全身が淡い光に包まれ始めた。

 召喚されたあの日と同じように。

 足元に幾何学模様の魔法陣が現れ、視界が徐々に白く塗りつぶされていく。

 この召喚で成すべき仕事は終わったのだ。



 意識が戻った。

 三年前の召喚の日に居た場所だ。

 あの時と同じ放課後の教室。

 あの時と同じ茜色の夕日。

 そう言えば、鎧姿で戻ったがこれは不味くないか?

 だが、確認してみればあの時の学生服のまま、なんなら向こうで壊したスマホまで直った状態でポケットに入っている。

 スリープモードを解除して時間を見れば、三年前、召喚当日の日付になっている。

 もしかして、俺は夢を見ていたのだろうか?

 アレだけ長く一緒に居た姫さんの顔も、最期を看取ったあの美人魔王の顔も思い出せない。


 懐かしいホーム画面を眺めながらぼんやりとあの三年間を思い返すも、まるで幼少期に読んだ物語のように大雑把な内容しか思い出せない。

 滅多に見ることのない着信表示が出る。

 番号通知のみで一体どこの誰からかかったのか判らない。

「もしもし」

 とりあえず出てみた。 なんとなく、そうした方がいいと思ったからだ。

「出たな? さあ、私が誰だか貴様には解るよな? 旧校舎の屋上に来い直接会って話そう」

 余裕と自信に満ち溢れた凛とした声で要件だけ告げてさっさと切られてしまった。

 誰だったんだろうか?

 似たような声に聞き覚えがある気もするが、アレはもっと泣きながら悲鳴あげて余裕もない感じの残念な感じの声音だった気がする。

 ふむ、とりあえずこちらからコールしてやろう。

「む、何で出ないんだ」

 いくらコールしても出る気配がない。 もしや屋上で直接会う以外で会話する気がないんだろうか?

 もしこれ間違い電話だったらどうするつもりなんだろう。

 まあいいや、取り敢えず行ってみて、間違い電話だったら盛大に笑い者にしてやろう。



 普段は施錠されている屋上へのドアは鍵が開けられていた。

 このドアの向こうに電話の主が居るのだろう。

 ノブを回しドアを押し開ける。

「待っていたぞ、勇者……いや、元勇者という方が正しいか?」

 思いっきり逆光で容姿がよくわからん。

「おう、来てやったぞどこの誰だか知らないやつ! 取り敢えず逆光でお前が誰だかわからん、少し位置を考えろ」

「あ、ああ、そうか、済まない」


 俺とシルエットの誰かが徐々に距離を縮める。

 艶やかな腰までの長い黒髪、白く瑞々しさを感じさせる肌、紫色の瞳を持つ切れ長の目、紅色の唇、鼻筋の通った顔立ち。

「うーむ……誰だお前は!!!」

「な!? ふ、巫山戯るなよ貴様!!! この私の顔をもう忘れたというのか!?」

「うーん……驚くほど美人で俺好みではあるが、少なくとも知り合いには居ねぇなぁ」

「そ、そうか、貴様好みの美人なのか私は……っていやまて、知り合いだぞ私たちは!!!」

「いやぁ……そもそも俺に女の知り合いって居ねぇしなぁ」

「まてまてまて、もしかして貴様、記憶まで戻っているのか? ほら、私だ、魔王だ!!! 貴様に最期を看取られた魔王だ!」


「うええええ!? ウッソだぁ!!! アイツもっと血色悪かったし角とか翼とか尻尾とか生えてたし!!!」

「こっちに来る際に失ったのだ。 というか顔立ちとか髪とか目の色そのままだろうが!!!」

「え、つーかなんでいんのお前」

「リアクションの切り替え早いな!? ま、まあいい、話が早い分には問題ないからな。 簡潔に言えば、偶々だ。 何の因果か貴様の居た世界に迷い込み、そこで別の生を受けて生きていたのだ。 魔王としての記憶が蘇ったのはついさっきだがな。 電話番号は寝ている貴様を見つけてちょっと演出してやろうとスマホを見させてもらった。 その、なんだ、私が家族以外の異性で初めての電話帳登録だ、やったな、こんな美人の番号が初めてだなんて!」


「ぐおおおおお、どうやってロック解除しやがった貴様ああああああ」

「む、昔、貴様が分身の前でスマホを弄って画面開いてただろ? その動きを思い出して真似したんだ」

「ファアアアアアアッック!!!! 昔の俺ファアアアアアアッック!!!!!」

「な、なんだ貴様、テンションが全然違うじゃないか」

「そりゃそうだ! 個人情報の塊だぞアレ、それを見られちまったんだ畜生……何でこの可能性に思い至らなかったアホがアアア」


「まあまあ、姉さんも悪気はありませんでしたし、電話帳の内容しか見てませんから」


 唐突な第三者、柔らかくほんわかしつつも何処か芯の強さを感じさせる声音。

 声のする方を見れば、金髪碧眼のふんわりストレートヘアーをした可愛らしいお嬢さん。


「まてまてまて、テメェは誰だ!!!」

「そ、そんな、酷いです勇者様、あんなにあちらの世界では愛し合ったではありませんか!!!」

「なんでテメェまでいやがんだよ!? つーか魔王の分身体だろお前!?」

「こちらでは姉妹なんですよ? それに分身体ですけど、一応ある程度の意識はありましたので!」

「マジカヨ魔王」

「ああ、本当だ。 四六時中本体から意識割いてとか面倒だし危ないだろう?」

「まあ、それもそうか……で、何の用だよ、アレか、復讐か? ならかかってこいよ、まとめて畳んでやらァ!!!」


「貴様、かなりキャラ変わってないか? 一応言っておくが別に復讐とかする気はないぞ」

「ええ、私もかなりやっつけな殺され方しましたけど別に恨みとかはありませんよ? ええありませんとも、あんなに愛して差し上げて、愛してくださっていたのに、見せ場でセリフを言い切る前に全身蒸発させられたことなんてこれっぽっちも恨んでませんよ?」

「恨んでるよね絶対!? ものすごく恨んでるよね!?」

「恨んでませんよ? ええ、痛みも何もなく一瞬でしたので」

「おい、妹よ、流石に目だけが笑っていない満面の笑みでそれは私でも怖いぞ」

「仕方ありませんね、からかうのはここで終わりにしておきましょう」

 そう言ってあの恐怖の微笑みを引っ込めた。

「でだ、話を戻すと、私たちは復讐なんてものは考えていない。 ただ、元々の人格も貴様の事を気にしていたのもあってな、これから一緒に青春を謳歌しないか? というお誘いだ」

「言ってしまえば私達姉妹と恋人になりませんか? というお誘いですね♪」


「え、なにそれ怖い。 なんで自分が計画踏みにじってぶっ殺した二人から告られてんの? まじ怖い」


「マジなドン引きはやめてくれ……あの時言っただろう? 貴様のことが好きになっていたと」

「えー百年の恋も冷めるレベルの行動した自覚あるんだけど」

「それでもやはり好きになったものは好きなんですよ? それに、勇者様はあの瞬間をちゃんと楽しんでいたのでしょう? なら、問題ありません! 敵対しなくていいこの世界で三人でいっぱい平和に愛し合いましょう?」

「そ、そもそもボクチン劣化する三次元はNG……」

「大丈夫だ、多少の魔術は使える。 永遠に若さを保つぐらい余裕だ!」

「周りの目や映像や写真なんかはいくらでも幻術で騙せますよ?」

「「さあ、私達の愛、受け止めてくれるか(ますか)?」」


 すっかり日が落ちたというのにどちらかがいつの間にやら発動させた光源の魔術で明るくライトアップされた二人。

 姉は挑発的で自信満々な笑みで、妹は深い慈しみと悪戯っぽさを含んだ笑みで、手を差し出して来た。


 さあ、俺は一体どんな選択をしようか?

 ここできっぱり二人をフッてしまうか?

 それとも二人の手を取り、三人で楽しく愉快に青春を送るか?

 はたまた、片方だけの手を取り歪な人間関係を築いてみるか?


 何、本当は最初から決まっている。

 俺の答えは――

はい、ご試読ありがとうございました。

このような駄文に付き合っていただき感謝感謝です。

脳味噌の整理のために思いついたのはちゃちゃっと簡単に書き上げてあげてしまっておく備忘録みたいなもんでもありますね。

途中からはまあ蛇足ですかね。

切り分けて書いちゃっても良かったような気がしないでもないですがそこはそれ。

やっちまったもんは仕方ないです。

ではまた、いつの日か、ごきげんよう。

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