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第三話「二者択一の世界」

今回結構色々なものが交錯してるので読むの大変かもしれません。

俺たち幽霊研究同好会は、新たな世界に足を踏み入れてしまった。

あれから魔術起動装置のこと、植物との交配のこと、そしてそれらにどれだけの価値があるか。

色々なことを学んだ。


後一年でなんとかしなければ、世界は崩壊する。

それを止めに行こうとしている組織があった。


魔術の森である。


かなり有名なので、流石に耳にしたことがある。夏目と野守が元々入っていた組織らしい。

かなり優秀なメンバーが揃っているようで、明日には染井の闇組織は壊滅らしい。

これで俺たちは敵にされることもなく、研究を続けられる。


と信じていた。



―――次の日



「オルタナティブワールドが完成したらしい。未完成とはいえ、世界の大混乱は必至。犯罪に巻き込まれないよう気を付けるんだ。」


今日も夏目のところに通っていた。

夏目達は元魔術の森メンバーなだけあって、森の何者かと密かにコンタクトを取っているらしい。

夏目が言うには、オルタナティブワールドが完成してしまったらしい。

なにが足りずに未完成なのか、そもそも完成形がどんなものなのかも分からないが、それでも恐ろしいものなのだろう。


「涼太、森は大丈夫なの?」

「森なんてまだいい方だ。染井サイドはそれどころじゃないぞ。あらゆる闇の組織にオルタナティブワールドを奪われようとしている。肝心のホムンクルスは逃走中だ。」


闇の組織は裏で経済や政治を動かしている。

オルタナティブワールド程のものを奪うとなると、相当の戦力をつぎ込む必要が出てくるだろう。

当然表社会に干渉する力は弱まる。

そうすれば混乱が起こり、連鎖して犯罪が多発する。

俺たちがするべきことは何だろうか。


脱走したホムンクルスがどれだけ強力なのかは分からないが、植物と人間の交配で生まれた生物であることは知っている。



「みなさん分かりますか?あちらに魂の量がやたらと少ない人間がいます・・・」



怜理が何か言いだした。

顔には恐怖を浮かべている。

怜理がこんなに感情を表に出すことは珍しい。

相当恐ろしいものなのだろう。



「先に気付かれてしまいましたね。初めまして、染井そめい 佳乃よしのです。」



間違いない、あのホムンクルスだ。

よりによって何故ここに・・・!?



「どこへ向かうつもりだ。」



夏目が強く出た。

怜理が恐れる存在だ。幽霊研究的に恐ろしくても、魔術的にはそうでもない・・・?



「牧野宅の桜の木です。そこにいる少女の幽霊に用があります。」


「素直に話すってことは、もしかして協力を求めているのかな?」


「話が早くて助かります。幽霊とのコミュニケーションの手伝いと、治安部隊その他邪魔者の排除をお願いしたいです。」


「私の出番のようね。初めまして、内池ないち 浩美ひろみと申します。」

「研究所の護衛担当、大橋おおはし 瑠音るねです。」



内池さんは怜理が幽霊相手にやらかした時に居た人だ。

大橋さんは初めて見た。護衛担当ということは、相当強いんだろうな。



「ここで私を殺せばオルタナティブワールドは消滅します。でもそれをしないってことは、国の治安よりも大事なものがあるのでしょうね。」


「生憎俺たちは国から認められてない存在でな。さくらに危害を加えないのなら何だって協力するよ。」


「では、先を急いでもよろしいでしょうか。」


「ああ、構わない。同好会のみんな、お前らはどうする?来るか来ないか。お前らが決めるんだ。」



ここは人生の大きな分かれ道だ。

今ならまだ引き返せる。

この研究者達がすべてを解決すれば俺たちが暗殺されることはなくなるだろう。


「私は行きます。」


怜理が行くと決めた。なら当然、答えは一つ。


「僕も行きます。一生怜理についていくと決めましたから。」

「私たちも行きますよ!ね、ひでくん?」

「ああ、当然だ。」



幽霊とのコミュニケーションを担当するのは、俺、怜理、内池さん、そしてホムンクルスの染井佳乃。

邪魔者への対抗を担当するのが、越村、村上、夏目さん、野守さん、大橋さん。

魔術を使った戦闘なんて初めてだ。

しかもそれがこんな大きなな戦いだなんて。


戦闘では俺は怜理についていくことしかできない。

でもコミュニケーションなら別だ。

俺は怜理の理解者であり、怜理も俺のことを理解してくれている。

戦闘になったら足手まといにならないようにすればいい。



―――桜の木がある家



幸いながら、道中には邪魔者はいなかった。

だが桜の木の前に四人ほど怪しい人物が立っている。

ここは俺たちの出番ではない。下手に出るべきではないだろう。



先陣を切ったのは大橋だ。


魔導書も無しに強力なバリアを張る。

流石は護衛担当だ。


そして向こうが攻撃してきた瞬間に夏目と野守が先陣に出る。


バリアの横から回って攻撃してくる二人に野守が魔術弾を発射する。

それに合わせるかのように夏目がナイフ二本を巧みに操り攻撃を繰り出す。


野守の魔術弾で出遅れた向こうの銃撃よりも早く銃自体を破壊し、相手が間合いを取る間もなく蹴りを入れて気絶させる。


もう二人は詠唱を終えバリアを破壊しようとするが、バリアは非常に頑丈だった。

大橋は後ろで待機していた銃撃部隊を牽制。


その間に越村の魔術によって二人は圧倒される。



これでひとまず落ち着いた。


ここからが本当の勝負だ。

幽霊とのコミュニケーション。



染井佳乃が桜の木に近づき、交信を始める。

桜の木の近くで見守る内池さん、そしてその後ろから警戒しながら見守る怜理。

内池さんは何やら宝石に願いかけている。


野伊のい 千夜ちよ・・・」


ん?なんだ?怜理が謎の言葉を放った。

どうやら内池さんは知っているようだ。


「怜理、何が起こっているんだ。詳しく教えてくれないか。」

「事が済んだらね。今から戦いが始まるよ。」

「谷崎さん、私たちは離れましょう。」


なんだと・・・?

怜理はすぐに詠唱を開始し、バリアを張る。


「糠烏怜理。空っぽの人間。私の敵になるのね。」

「空っぽなのはあなたもでしょ。私たちはさくらの敵を倒せと言われてるの。」


空っぽ・・・?何がだ?それより今はこっちを何とかしなければいけない。

治安部隊の後続がものすごい数やってきた。


俺だってライターだ。いずれ必要になる体術を少しは心得ている。

でも武器の扱いにはまだ慣れていないし、せいぜい敵の攻撃をうまく受けきるのが限界だ。


「谷崎さん、あなたは私の後ろに隠れてて。無理に戦闘しないこと、いいね?」


今度は内池さんが俺を守る。

早く俺も戦えるようにならなければいけないと強く思う。

内池さんは魔術を一切使えないのに俺を守るだけの強さがあるのだ。

少しだけでも魔術を使える俺なら、もっと強くなれるはず。



「やつらの目的は桜よ!瑠音、後衛を頼める?」

「分かった。村上さんと越村さんは中衛でお願い。」

「了解っ!」

「村上は初めての実戦だろ?無理すんなよ。」

「悪いけど、今回はひでくんに頼っちゃいそう。」

「構わんぞ。村上の行動はお見通しだからな、任せとけ。」



治安部隊は俺たち全員に向けて魔術弾を大量に撃ち込む。

こちらを混乱させるのが目的だろう。


「みんな自分の身を守ること最優先で!」


野守さんが叫ぶ。

越村はバリアで防ぎ切ろうとするが、複雑な軌道の弾が混じっているせいで全て守り切れない。

村上がバリアで防ぎきれなかった分を体術で破壊する。

複雑な軌道の弾は、軌道修正に魔術の大部分を使っているため脆い。

だが破壊するのにその分の技術が必要になる。


「破壊はできるけど、胸が揺れて痛いよぉ!」

「Fカップだもんな。サラシを用意する。全自動で巻いてくれる魔術だ。」

「何そのセクハラ魔術!」

「防寒用の応用だ。」


ライターは男性が多く、キャスターは女性が多い。

キャスターはあまり俊敏な動きをしないが、ライターは戦法によっては俊敏な動きが求められる。

村上は珍しい優秀な女性ライターで、しかもかなりの巨乳だ。

あまり耳にしない問題だが、こういうこともありえるということだ。

ちなみに内池さんもかなり大きい。

でも胸の大きさを強調するわりに揺れにくい装甲のおかげで、俊敏な動きができるようになっている。


そして次は大橋さんだ。

バリアに反撃機能がついており、特殊な軌道の弾を破壊してくれる。

それでも破壊しきれない弾があるので、それは内池さんが破壊する。

最初の二発は刀による斬撃で破壊。

二発も正確に破壊できるのは流石だ。


そして治安部隊の戦法は当然変わってくる。


上空からのビームと正面からの特殊軌道弾だ。

ビームを防ぎきるには分厚いバリアが必要。

でも正面からの攻撃も防ぐにはバリアを薄く広くする必要がある。

なかなか考えられてるじゃないか。


「上空からの攻撃は私に任せて!」


瑠音が叫ぶ。

薄く広いバリアが次々と張られる。何重にも。

そして越村は前方へとバリアを張る。

村上は自身と越村の守りに専念。


そして内池さんが数十もの魔術弾を斬り裂く。

刀は一本しか見えない。

でもその三~四倍は斬っているだろう。

見えない刃・・・なのか?


内池さんが一発斬り逃してしまった。

向かう先は俺・・・ ではなく桜の木だ。


一発ならなんとかなる。

練習した体術を思い出し、魔術弾を破壊する。


破壊できたが、結構な衝撃だ。痛みも結構ある。

村上はこんなのを何発も破壊しているのか。


「私も腕が落ちたものね、歳かしら。」


相当手馴れた刀捌きだったが、これでも腕が落ちたらしい。

全盛期は今じゃ考えられないほど強かったのだろう。


桜の木の方は今どうなっているのだ・・・?


「谷崎さん、まずいわよ。糠烏さんが染井の味方に付こうとしてる。フォローをお願い。」


なんだと・・・?


「怜理、お前染井の味方に付くつもりか?正気なのか!?」


「紳介、内池さんの牽制をお願い。私と内池さん、どちらを信じるかは任せる。」



ちょっと待て・・・ 嘘だろ、おい・・・

怜理が敵になる・・・!?

考えてる暇はない。俺が行く道は一つ。



「ちょっと、谷崎さんしっかりしなさいよね。糠烏さんを説得してちょうだい。時間が無いのよ!?」


「時間が無いのはこちらも同じだ。俺はいつでも怜理の味方。まずは怜理より俺の説得をするんだな。」


「三秒あげる。ここで死ぬか、私に従うか。」


俺は怜理を見る。俺に向けて安心して、という表情。


「残念ね、ここで死になさい。」


目に見えない速さの斬撃。だが俺には届かない。

これは誰の魔術だ・・・?


「さくら・・・!?何で!」



治安部隊が急に撤退し始めた。



「糠烏さん、私はこれからどうしたらいいのでしょう・・・」


今までの感情を失った人形のような染井佳乃はもうそこにはいなかった。

そこにいるのはまるで普通の人間のような佳乃。


「佳乃、まずは落ち着くのよ。」


怜理が佳乃を抱きしめる。


「私は・・・ 私は・・・! どうして、涙が止まらない・・・」

「いきなり感情を得たから混乱してるだけよ。いまは私の胸で思い切り泣きなさい。」


二人はどうなってしまったんだ・・・?

後ろの皆も呆然としている。




佳乃がある程度落ち着いてから、内池さん、怜理、佳乃は何が起こっていたのか皆に説明した。


佳乃の目的は桜の木から魂を分けてもらうこと。

何故それが必要かというと、佳乃は半分植物のため、魂が普通の人間より足りていないらしいのだ。

最初に生まれた半分植物の人間、さくらは母である桜の木から魂を分け与えてもらったことによって人間の感情を持っていた。

桜の木自身には魂を分け与える能力はない。

そこで仲介の役割を果たしたのが、五百年以上前に桜の木の下に埋められた野伊のい 千夜ちよという人物だ。

彼女は純粋な人間でありながら、植物と深い交信ができた。

短命だったが、死亡後は桜の木の下に埋められ、幽霊となって植物と交信し続けながら五百年以上存在し続けている。


佳乃の魂についてだが、佳乃は本来オルタナティブワールドの鍵になるには不完全な存在だった。

一年早く機械から取り出された弊害は精神年齢、肉体年齢だけ。

完全なオルタナティブワールドを作るにはそもそも魂が足りていなかったのだ。

それが先ほど満たされてしまった。


当初、さくらと怜理は佳乃に反撃していたが、佳乃は戦いながら千夜とさくらの二人と交信をしていた。

千夜は、佳乃に魂を分け与えることに賛成。さくらは反対。

そして、怜理は千夜の意見に賛同していた。


佳乃に綺麗な魂を分け与えれば、佳乃は綺麗な心を得る。

そうすれば、佳乃は世界を救う力になりえる。

千夜と怜理はそういう考えらしい。


一方さくらは、それは確実では無いうえ、オルタナティブワールドの完成によって数多の犠牲者が出る。

リスクと代償を背負ってまですることではないと。


リスクと代償。そして犠牲によって生まれる絶対的平和。

怜理なら間違いなく、犠牲による絶対的平和を取るだろう。



俺たちがこれからするべきことは何か。


「私は、私の持つオルタナティブワールドを破壊したい。だから私を殺して。」

「佳乃、落ち着いて。今あなたが死んでも訪れるのは世界の混乱、そして破滅よ。」


もちろんそうだろう。ただでさえ世界は混乱に満ちていた。

今破壊したところでどうという話でもない。

甘い蜜を知ってしまった人間はそこから離れられない宿命。

ディストピアを作ってでも無理に新たなオルタナティブワールドが作られるだろう。

皆が呆然と立ち尽くしていた時。


「そのオルタナティブワールドさ、もう一つ作れるだろ?なあ、そこの幽霊。」


まさかの越村の発言。とても冷静な発言だ。


オルタナティブワールドの鍵は植物と人間の交配によって生まれた生物。

もう一人いるじゃないか。

魔術は脳で発動してるんじゃない。魂で発動しているんだ。

なら幽霊だって構わない。

後必要なものはなんだ?


「オルタナティブワールドを作るのに必要なのは鍵と優秀なキャスター達。染井の場合、染井佳乃と魔術起動装置によるキャスターだったな。」


夏目も乗り気のようだ。


「とりあえず、一旦安全な場所に移動しないとね。」




野守さんの提案により、俺たちは一旦別の場所に移動した。

安全な場所に。



「へぇ・・・ 基地ってこうやって作るんですね。」

「小説で見たのよりすごいよ!?事実は小説より奇なりってやつ?」



野守さんと大橋さんが魔術で地下に要塞を作っていく。

一般的な魔術による建築との大きな違いは、早さと作る場所。

地上に建物を作るのは、魔術の進化によって容易になった。

その為、作るだけ作られて廃墟になった場所が山ほどある。


ここも廃墟の一つだ。

普通、地下に建築する場合、地下を掘ってから行う。

しかし、彼らの建築方法にそんなものは必要無かった。

土を圧倒的圧力によって圧縮し壁を作り、さらにコンクリートの壁を作る。


こんな力技、相当強力な魔術じゃないと無理だ。

彼らは今までこういう風に基地を作っていたのか。

そりゃあ闇の組織達から逃げ切れるわけだ。



「あっという間に完成してしまったな。」

「佳乃、調子はどう?」

「良くなってきました。ありがとうございます、糠烏さん。」


「サラシ取るよ?ブラが完全におかしくなってるし。」

「内池さんみたいな装甲を今度作らないとな。」


色々なことが一気に起こりすぎて混乱していたが、皆落ち着きを取り戻してきた。


「なんか揺れてない?急いだから建築ミスかな・・・」

「玲音、これは地震だよ。建築は完璧。」


このタイミングで地震か・・・


「ちょっと、揺れ酷くなってない!?うわぁっ!」

「双葉、転ぶなよ・・・」


「皆怪我しないように!」

「バリアを張ったので落下物は大丈夫です!」



地震はしばらく続いた。

大橋さんのバリアによって落下物による怪我はなかったが、これは建物の修復が必要そうだ。



「恐らくオルタナティブワールドからの攻撃です・・・」


佳乃の発言によって皆の表情は疑心から恐怖に変わった。



「これは早めになんとかしないとまずいな。玲音、瑠音は大丈夫だな?あと越村、糠烏にキャスター役を手伝ってほしい。」


「任せてください。」

「人数はこれで足りますか?」


「恐らく足りないだろう。俺と玲音で魔術の森へ行く。そこからなんとかしてキャスターを引っこ抜いてくるよ。」



基地の警護は大橋さん、怜理、越村、そして佳乃がいるから大丈夫だろう。

俺たちは絶対に世界を守ってみせる。


絶対的平和を掴むのだ。

二章は六話構成の予定から五話構成に変更しました。このペースで行けば三月中に三章書き終わるはずです。

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