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第五話「桜花の守り人」

ついに第二章完結です。

新しいオルタナティブワールドを作る計画はもう終盤に差し掛かっていた。

俺たちライターが担当している大型魔術も、今はミスがないか見直ししている段階である。

皆にとって初めての共同で行うライター作業だったが、最初は躓きも多かったものの夏目さんがうまく指揮してくれたおかげでスムーズに進んだ。

キャスター組も、会議でライター組が伝えた魔術文法の特徴を実践形式で練習したり、複数人による同時詠唱の練習も行っている。


今、世界がどうなっているかは外部からの情報によって知っている。

経済の乱れ、犯罪の増加、政府への不信感、そしてオルタナティブワールドによる敵組織の破壊。大混乱状態だ。

オルタナティブワールドが完全なものと化し闇の組織が勝てなくなったので、もう既に攻撃は一方的なものと化している。

当然オルタナティブワールドを奪おうなんて輩はいなくなった。

闇の組織は政府と裏の関係を持っていることが殆どだ。

オルタナティブワールドを作りあげた染井サイドも例外ではないが、あくまで政府の中の一部と繋がっているだけの為、政府内でも染井サイドの敵との内部分裂が起こってしまうのだ。


今更オルタナティブワールドを破壊したところで持ち直すのは難しいだろう。

もはや国内だけの問題ではなく、敵国からもとっくに目を付けられている。

夏目さんが言うには、染井のオルタナティブワールドを破壊した後、自分たちのオルタナティブワールドが世界を統治する必要があると。

統治なんて軽く言うが、そんな簡単なものではないと思っている。

既にその計画まで会議されており、しばらくは魔術の森会長が統治の主任を担当することになるらしい。

夏目さんはリーダーシップが強いとはいえ、21歳の頃から10年も隠居生活を続けていた身。

組織のいろはなど分かるわけがないのだ。

俺、怜理、村上、越村、夏目さん、野守さん、大橋さん、内池さんはオルタナティブワールドが完成したら移住を計画している。

その他は現実世界に残って活動することになるが、魔術の森の会長だけ統治の為一時的に移住することとなる。

いずれは夏目さんが統治をするようになる予定だ。



薄明かり灯るベッドにて。


「明日はついに本番だな。今日は早く寝て明日に備えようか。」

「そうね、でもちょっとだけ。」


怜理が俺を抱きしめてくる。

怜理から求めてくるなんて珍しいじゃないか。

彼女はすっかり恋に染まってしまった。


「怜理、顔見せて。」


怜理の色気づいた顔にキスする。

いつもより深く、満たされるまで。


怜理は別に淫乱なわけではない。

多分、生きる意味を俺に見出してしまった以上、恋に執着せざるを得ないのだろう。

オルタナティブワールドでの活動に精を出すようになれば、少しは落ち着くと思っている。

今まで濃く絡んでいた分俺は寂しさを感じるかもしれないが、怜理が生き生きしていれば俺はそれで満足なのだ。


「おやすみ、怜理。」

「紳介、おやすみ。」


怜理は儚げな顔で眠りにつく。

さすがに疲労が溜まっていたのか、俺も怜理もすぐに眠りにつくことができた。



ついにその時はやってきた。

桜の木に向かって大勢で向かっていく。

周りからしたら異様な光景だろう。いや、俺からしても違和感があるくらいだ。

治安部隊は未だに佳乃を追い続けている。

幸い計画遂行中は一度も襲ってくることは無かったが、外はそうはいかない。

もし襲ってきた場合、佳乃とライター組がすぐに片付ける。


桜の木につく頃にはもう何人倒したことか。

当然命を失った者もいるだろうが、今は何よりも大事なことがある。

牧野家の家族は今はこの家にいない。

それは好都合なのだが、家の中に誰かが潜伏している可能性があるのだ。

夏目さんと内池さんが家の中をチェックしにいく。

キャスター組は位置につき、魔導書の最終準備。

家の中から何やら物騒な音が聞こえるが、あの二人がそう簡単に敗れることはない。


「どこかから作戦が漏れている可能性がある。どれだけの戦力が襲ってくるかは分からない。ライター組と佳乃は全力でキャスター組を守ること。」


キャスティングにかかる時間は十~十五分。

ものすごい量の魔術だが、精鋭をこれだけ集めればすぐに終わる量だ。

短い時間とはいえ舐めてはいけないが、魔術起動装置を付けた兵が来たとしても佳乃なら簡単に片づけられる。

問題は染井のオルタナティブワールドからの兵だろう。

オルタナティブワールドから直接現実世界に魔術を放つことは一応できるが、染井のオルタナティブワールドの出口とこの桜の木はあまりに離れているため、直接攻撃することは不可能。

せいぜい極限まで魔術武装をして攻めてくるくらいだろう。


「全員位置についたな?糠烏の合図で開始だ。」


この作戦において糠烏は最重要人物だ。

さくらと交信ができるのは糠烏、佳乃、内池さんの三人だけ。

糠烏はその中でも唯一のキャスティング担当なので、さくらとの魔術連携は糠烏が担当する。

この作戦はオルタナティブワールドの鍵であるさくらも魔術を使う必要があるからだ。

さくらの未知の魔術は夏目さんが研究していたので、キャスター組の魔術との連携が可能となっている。

怜理はこのわずかな期間で新たな魔術文字と文法を会得した。

もちろん彼女の特性あってのものだが、努力も並のものではない。

後は彼女を信じるだけ。


怜理は魔導書を開く。それに合わせてキャスター組全員が魔導書を開く。


「さくらの魔術が準備できました。みなさんもうキャスティングの準備は完了したようですね。では開始!」


キャスター組にものすごい集中が走る。

ライター組も気を抜いてられない。

未知の敵からの攻撃から彼らを守りきらなければいけないのだ。


最初に襲ってきたのは少女兵士の軍団。

間違いなく魔術起動装置だ。

奴らはもっとも適正のある「少女」に起動装置を付けているのだ。

本当に下劣な奴らだ。でも彼女らの命を守っている余裕なんてない。

ここは心を鬼にして死者が出る覚悟で立ち向かわなければいけない。


ここはこちらの作戦通り佳乃が全て片付ける。

当然、こちらの作戦を読んでの向こうの作戦だろう。

だが、相手の作戦を読んでいるのはこちらも同じ。


予想通りだ。次は魔術武装兵が一気に攻めてきた。

これは佳乃だけではどうにもならない。

俺たちの出番だ。


先陣を切ったのは夏目さんだ。

降り注ぐ魔術弾を二刀で斬りながら進み、次々と敵に斬りこんでいく。

内池さんも同じく前衛に立って手数で攻めるタイプだ。

見事な刀捌きで敵をなぎ倒していく。


そして後衛に立つのが天見兄弟の弟、日影ひえいと牧野だ。

日影は投擲を使って攻撃するタイプを取っている。

彼はキャスティングもできるため、身に染み付いた武器生成魔術を魔導書を使わずに詠唱し、絶え間なく武器を投げ続けられるのだ。

そして牧野はキャスターと同じ戦闘タイプを取っている。ハイブリッド型は中途半端になりやすいというのが定説だが、彼の能力はそれを超えている。

しっかりと後衛の役目を果たしてくれているのだ。


そしてその後衛を守るのが、俺と村上だ。

戦闘に不慣れな俺たちにはそれくらいしかできないが、とても重要な役である。

後衛がいないと前衛が大変になり、俺たちがいないと後衛が大変になる。

魔術戦闘において重要なのは連携やチームワークなのである。

俺が最初に魔術弾を破壊した時の衝撃と痛みは強かったが、先輩達から教えてもらった体術をある程度会得してからは驚くほど楽になった。

村上は実は空手の経験があったため、俺とは違い初戦から何発も破壊できたのだ。

今回はちゃんとサラシをきっちり巻いているから彼女の機動力も問題ないだろう。


十二分と数秒経った頃だろうか、詠唱が完了した。

オルタナティブワールドが開いた。

俺たちはすぐに中へと入る。


そこに広がっていたのは、この世のものとは思えないほどとても清らかな森だった。

こんなに綺麗な空気を吸ったのは初めてだ。

オルタナティブワールドとは、無限に植物が生い茂る世界。

無限の魔力を内包する世界なのである。


そして最大の特徴は、世界樹と呼ばれる木である。

これがオルタナティブワールドの心臓であり、これが枯れるということはオルタナティブワールドが消滅するということ。

しかし、この世界は理が反転した世界という名の通り、現実世界とは全く違う世界の理を持っている。

現実世界では絶対不可能な、無限の命があるのだ。

世界樹の寿命は無限大。

理をひっくり返すほど大きな魔力攻撃でも与えない限り枯らすことはできない。

要は無敵なのである。


「新世界へようこそ。」


そこには小柄な黒髪の少女が立っていた。

これが・・・ さくらさん?


「あら、千夜さんじゃない!さくらはどこにいるの?」


内池さんが言うなら間違いないだろう。彼女は500年前に埋められた千夜だ。


「さくらは霊体なので、この世界に受肉した時点でオルタナティブワールドと現実の出入り口は塞がれてしまいます。」

「え?じゃあ、さくらは一生現実世界で一人だっていうの!?」

「そういうことです。さくらとの交信は私、あるいはこの世界樹を通じて行えるので、さくらを独りぼっちにさせないであげてくださいね。」

「そんなこと言ったって・・・ さくらは・・・ ううっ。ああああぁっ!」


内池さんが泣き出してしまった。

無理もない。恋人が一生、世界の神という役割に縛り付けられるのだ。

孤独な幽霊少女は一生孤独から逃れられない。なんて残酷なんだ。

でも今は悲しんでいる場合じゃない。あと一つだけ、絶対にやり遂げなければいけないことがある。


「俺と玲音と千夜と野守会長はオルタナティブワールドを守る。他のメンバーは作戦通り染井の研究所に向かってくれ。」


俺たちはオルタナティブワールド内で作られた最強の魔術防護膜を身にまとい、染井の研究所へと足を踏み入れていく。

佳乃を先頭に邪魔者を潰しながら向かい、無事到着する。


「良い?入り口が一番危険だから、そこを全速力で駆け抜けるの。入ってしまえばこちらのものだよ!」


玲音の言葉に続き、皆が全速力で駆ける。

ここまで近くなると、オルタナティブワールドからの攻撃が降り注いでくる。

佳乃が全力でフォローするが、防ぐことはほぼ不可能。

ただ避けながら突進するしかないのだ。

たとえ命失おうとも、佳乃だけは絶対に守らなければいけない。

世界を守らなければいけないのだ。


「怜理、危ない!ぐぁっ!ううっ!」


俺は右腕を失ってしまった。

他の人もかなり負傷しているが、死者はいないと信じたい。

どんな傷を受けようと、あの世界に入ってしまえばすぐに完全治癒できる。


「紳介、私はいいから佳乃を守りなさい!」


最もな意見だ。だが怜理を死なせるなんて絶対にさせない。

あともう少しで入り口だ。

キャスター組の高速詠唱によるものすごい風圧によって一気に入り口に入る。

風圧で明らかに内臓がやられているが、そんなことはどうでもいい。

真っ黒の空間の割れ目を抜けた先にあったのは・・・



枯れ木の森。全員無事に生き残り、各自行った治癒魔術によって肉体は完全回復する。

枯れ木しかないからよく分かる。世界樹の輝きが。

ここは不完全なオルタナティブワールドだったのか。

迫り来る敵は佳乃が全て消し去るように吹き飛ばす。


「神に逆らうなんて、随分大層なご身分じゃない。」


前と違い完全に自我を持った彼女は、世界樹の前に立つ男を睨みつける。


「よう、我が娘。父を裏切り父を殺す、か。最期に言いたい言葉は・・・ そうだな、失敗しかない人生だった。」


染井そめい 尚史ひさし。赤っぽい黒のくせ毛にメガネをかけた太ったおじさんだ。

人を騙し続けて昇進し、染井グループとして染井魔術塾などを支配していた男。


こんな男から佳乃のような美少女が生まれるんだから、世界は不思議だ。


「失敗しかない、ね。でもお父さんのホムンクルス生成は成功した。私に命をくれてありがとう。でも、あなたは死ななければいけない。多くの人を苦しませた罪を償いなさい。」


「てっきりホムンクルス研究を憎んでいると思っていたが、違ったようだね。一つでも成功があれば、それは素晴らしい人生だ。」


「私は命を授かって幸せだった。私に直接お父さんを殺すことはできない。だからこうする。」


天から世界樹にめがけて漆黒の槍が落ちてくる。

世界樹の反発により染井はどこかに吹き飛んだ。

俺たちまで吹き飛ばされそうになるほど強い風が来る。

そして、世界樹は終わりに向かう。


「急いで、早くここを出ないと閉じ込められる!」



世界樹は最後まで反発し続けたため、全員出ることは容易だった。

染井を除いて。

彼は娘の作り上げた世界に一人残されて何を想い、力尽きるのだろうか。


そして、娘はこれから何を思い生きていくのか・・・




―――――数か月後



「夏目くん、後は君に任せるよ。僕はそろそろ魔術の森の管理に戻らなければいけない。」

「組織の管理など、いろいろ勉強になりました。桜花の守り人のリーダーとしてこれからも最善を尽くしていきます。」

「涼太、あんまり無理しないでね?私もいるんだから。」

「幸せな世界を願っているぞ。それではまたの機会に会おう。」


あれから世界の均衡は少し取り戻すことができた。

この調子で行けば、俺らが同好会やってた頃よりもずっと平和な世界ができそうだ。

あとは夏目次第。

勿論、俺たちの努力も必要だ。

でも俺たちは問題ない。仲間がいるから頑張れるのだ。


多少の木を切り倒して俺たちは数個の建物を作った。

たとえば、今俺がいる家。

この家は俺と怜理の二人暮らしだ。

もう完全に同棲という雰囲気で暮らしている。

こんな素晴らしい世界で、しかも怜理と同じ家で暮らせるなんて夢のようだ。

しかも俺たちには役割が与えられている。

俺たちには生きる意味がちゃんとあるのだ。


ちなみに、ほかの家は村上と越村の家、夏目さんと野守さんの家、千夜と大橋さんの家、内池さんの家がある。

内池さんの家は世界樹の近くに作られているため、内池さんはいつでもさくらと交信できるのだ。

体で触れ合うことはできないが、これが今できる最大の交流なのだ。

彼女達は精神的に強い繋がりを持っている。だから耐えられるのだ。


他には、実験用の建物や研究用の建物、書庫などがあるが、最低限の数に留めるようにしている。

いくら植物の数が無限といえ、建物を乱立してしまっては現実世界と何も変わらない。

それに、この世界のおいしい空気はできるだけ保ちたいのだ。


現実世界にいる人達はうまくやっているのだろうか。





「咲人が僕のことを愛し続けてくれるなら、僕も賛成だよ。一度は失敗したけど、これは僕たちの命題だもんね。」

「二人であまり揉めないようにな。何よりも子供優先だ。」

「うん、僕にも育児、関わらせてね?」

「ああ、可能な範囲でな。」


「好きよ、咲人・・・」




生きる意味とは何なのか。

生物は子孫を残すことで存在を残し続けてきた。

人間も当然生物である。

しかし、人間ほど知能が発達した生物には子孫を残す意外にも生きる意味がある。

それは、文明を築くことである。

文明というと大きな表現になってしまうが、ちっぽけなものでいいのである。

塵のような努力や優しさが大きな文明を生む。

八百万の神という言葉があるように、すべての物に命は宿っている。

大事なのは、自分が生きた証を残すこと。

それでも、子孫を残すことにこだわる人間は存在する。

子供を作る理由は様々だ。


「肯定」のために子供を作る者もいる。




「やはり、子供は可愛いわね。」

第三章のストーリー構成はもう完成しているので、すぐに書き始めます。

目指せ前章完結!

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