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第一話「因縁の対決」

なろう初投稿です。魔術が大好きなので魔術の小説を書きました!


魔術と人間関係をうまく折り合わせた作品です。

魔術好きなら必見!

普段誰も立ち入らないような森。その中に大きな建物が一つだけある。

その名も「魔術の森」。

森全体の名前ではなく、建物、あるいはその建物を拠点に活動している組織の名前だ。

ここはその建物の地下二階。


静かで、どこか不気味ささえ感じるこの部屋。

ここが俺に割り当てられた場所だ。

俺はいつもここで、「ライター」の活動をしている。


「玲音、例の新しい魔術が出来たぞ。」


野守のもり 玲音れおんは、俺のパートナーだ。

十七歳の女。

顔は釣り目気味の大きな目に、筋の通った鼻。そして厚めの唇の口。

髪は明るめの茶髪。

毎日違うヘアピンを付けている。

今日は苺のヘアピンだ。結構女の子らしい所もあるじゃないか。


俺は夏目なつめ 涼太りょうた

二十一歳の男。

切れ長の目が特徴的。

髪は明るくも暗くもない黒で、結ばずに肩まで伸びている。


俺の方が十五㎝程身長が高いが、髪のせいで俺たち二人が並んでいると女二人に見えるらしい。

人によっては一瞬男女が逆に見える、とか。

まあ、三秒も見れば誰でも分かることだ。


魔術の世界では、魔術や魔導書を作る「ライター」、そして魔導書を読み実際に魔術を使用する「キャスター」の二種類の人間がいる。

俺はこの組織、魔術の森に所属するライター。玲音は、同組織のキャスターだ。


「どれどれ・・・? うん、想像してた通りの長さね。でも、なんで今になってこの魔術を?」


魔術は魔術文字と呼ばれる、特殊な文字を用いて書かれる。

魔術とはいわばその魔術文字による文章である。

魔術文字の種類は現在発見されている中では百四十四文字しかないが、その少ない文字数から、作り手によって多種多様な魔術が作られる。


一般的に使用される文法というのは大体決まっているが、形にとらわれない文法というのも当然存在する。

勿論、一般的に使用される文法は優秀だから一般的に使用されているのであって、オリジナルの独特な文法というのは実用性に乏しいものがほとんどである。


だが、あえてオリジナルの文法を好んで使うものもいる。

単にこだわりというだけでなく、ちゃんとした利点があるからだ。


魔術には、リーダーとよばれる種類のものがある。

魔術の発動に干渉して、その発動された魔術の文字列を読み取る、というものだ。

一般的な文法で書かれた魔術なら、大抵の魔術師にはどんな魔法か読み取られてしまう。

独特な文法というのは、手の内を明かさないという利点を持つ。


勿論、それだけではない。

魔術にはもう一つやっかいな、クラッカーと呼ばれるものがある。

それは、魔術の発動に干渉して、その魔術を無効にしたり捻じ曲げたりする。


クラッカーの魔術は、対象の魔術を知り尽くしていないと不可能なので、

独特な文法で書かれた魔術をクラッキングするにはその文法をまず理解しなければいけない。


たとえば、戦闘中に新しい文法を一から理解するのは不可能だ。

我らが所属する魔術の森は"魔術撲滅"から魔術を守る組織。

戦闘を避けられない宿命ゆえ、使用する魔術も主に戦闘寄りのものになる。


「どうも、俺のナイフ一本での戦い方に向こうが慣れてきたみたいでな。」

「それで思いついたのが、ナイフの種類を増やす、ってことなわけね。」

「俺たちはもうかなり心を通じ合っているはずだ。魔術メッセージを飛ばさなくてもどのナイフが適した場面かわかってもらえると思ってな。」

「護身も二人で、ってことね。」


現場に駆り出されるときのほとんどは、キャスターだけでなくその人とペアになっているライターがつく。

ライターは基地で魔術を書くだけでなく、現場でその場に適した魔術を即座に書き、キャスターに渡さなければいけないからだ。

キャスターは魔術によって自身を守ることができるが、キャスティング能力が低いライターは、武器などで自分の身を守らなければいけない。

俺は魔術の森に誇るライターだが、キャスター能力も持ち合わせている「ハイブリッド」ではない。

故に、護身術を身に着ける必要がある。


俺が使用している護身術は、まず玲音の魔術による体全体に張られた膜。

これだけで大抵の武器や魔術は防げる。

そして、ナイフ。これにも魔術による強化がなされており、俺の使用するナイフの特徴としてクラッカーの魔術に特化している、というのがある。

汎用性のあるクラッカー魔術、それでクラッキングできない場合、俺が現場で即座に魔術を考え玲音に発動してもらう。


クラッキングにナイフを使用する利点も当然ある。

クラッカーは対象の魔術の発動地点に接触する必要がある。

炎などの基本的な攻撃魔術、あるいは単純に魔術による糸で接触するのが一般的だが、それだと対象に接触する前に防御系魔術で防がれることが多い。


そこで俺は、俺自身で防御を破壊し、近接武器であるナイフでクラッキングを行う、という手法を取っている。

いわば捨て身特攻だが、「やられる前にやる」が基本の魔術戦闘では、案外理にかなった戦法だ。


「ああ、お互いがお互い自身を守る時期はもうとっくに終わっている。これからは、お互いがお互いを『守りあう』戦法を取るべきだ。」

「その通りだと思うよ。案外、私が涼太に助けられる場面も多いもんね。」

「ほとんどは俺が助けられる側なんだけどな。」

「ライターにしては頑張ってるじゃない。」

「これから銃のほうの新魔術の開発に取り掛かるつもりだ。」

「あんまり根詰めすぎないようにね?」


ああは言ったものの、正直これ以上銃のバリエーションなんて思いつかないんだがな・・・


俺の護身術は、ナイフだけでなく銃も使用する。

銃はリーダーの役割を果たしている。

銃でリーディングして、ナイフでクラッキングする。

遠距離武器と近距離武器の役目と完全に噛み合った使い方だと思っている。


「ねえねえ、実験室いきましょ。」

「おお、早速試すのか。玲音は魔術の理解が早くて助かる。」


独特な文法の魔術というのは普通、書いたもの以外には到底理解しがたい。

だが、玲音のような実力者で好奇心旺盛な人なら、俺のような独特な魔術でも身にすることができるらしい。


俺が自分特有の文法を確立し、ぶれずにその文法で書き続けている、というのも一因だろうか。



――――――――――魔術の森 地下四階



地下4階には実験室がある。

音を遮断する魔術がかけられているので、うるさいほどに静かだ。

慣れない者はとても違和感を感じるが、俺たちはもはや何も感じない。


「実験室ついたよ!ここの部屋が空いてるみたい。」


よく科学に使われる実験室とは程遠い、木造建築の実験室。

でも魔術による防護のおかげで、強い衝撃にも耐えられるようになっている。


「うわぁ!玲音と涼太じゃない!」

「天見姉弟も実験してたんですね。」


こちらは天見姉弟。

姉の天見あまみ 晴菜はるな

二十二歳の女。

暗い黒髪を三つ編みのポニーテールにして肩から下げている。


そして、弟の天見あまみ 日影ひえい

二十歳の男。

姉と同じ暗い黒髪で、短髪にカットしている。


二人とも、よく似た顔をしている。

垂れ目、黄金比とも言える美しい鼻、薄い唇。


晴菜は俺の上司にあたる人で、日影は俺の友人だ。

二人とも魔法の森の超エリート。

いつも助けてもらっているため、正直頭が上がらない。


「お前らも実験か。まさか例の件、下の方に漏れてるんじゃないだろうなー?」

「相変わらず口が軽いですね、日影さん・・・」

「明日誰か駆り出されるから言ったんだよね?ひえいくーん?」

「あ、ああーそうだとも!」


「さあ、実験にいきましょ?」


三人が盛り上がっている中、玲音だけ憂鬱な面持ちをしている。

玲音は色々事情があり、魔術師同士の争いが好きじゃないのだ。


「ああ、行こうか。そういえば、天見姉弟は何の実験をしていたのですか?」


「ああ、クラッカーの実験だよ。まあ、ここの実験室ってそういう実験をするところだしな。」

「こちらは護身術の新しいナイフの実験です。」


「そちらもクラッキングの強化かしら?」

「いえ、クラッキングではない魔術武装の追加です。」


「姉さんから一つアドバイス!ここ最近は、クラッキングが重視されてきてるのよ!」

「おい姉貴、このタイミングでそれを言うか・・・?まあ気持ちは分からんでもないが」


「・・・」


玲音の機嫌が悪くなってきている。早く実験に向かわなければ。


「こちらは早速実験に向かいます。貴重な情報ありがとうございました。」


そう言って、足早に実験室に入る。



「ねえ、最近上層部の様子、変じゃない?」


機嫌を取り戻したように見える玲音が言う。


「俺も感じている。情報の隠蔽、クラッキングの話・・・ 新勢力と見た。」

「私も同じことを考えていたよ。明日の派遣は誰が出るんだろう・・・」


「そんなことより実験をしよう。」

「涼太も乗り気になったのね。」

「俺は最初からやる気満々だ。」


なんか立場が逆転しているようにみえるが、まあ俺たち二人はいつもこうだ。


「じゃあ、早速始めるよ!まずは一つ目!」


玲音がそう言うと、玲音は魔導書を持って精神を集中させる。

その後、玲音の正面に強い光が現れる。

その光の形状がナイフへと変化し、俺がそれを手に取ると、それは完全にナイフになっていた。


「じゃあ、早速使用するぞ。実験用パペットを作ってくれ。」

「了解!」


玲音が実験室に置いてある魔導書を読み始めると、ステージに案山子が現れる。

俺はステージに上がり、案山子に先ほどのナイフを向ける。


「玲音、俺の体に強化膜を頼む!」

「はいよ!」


玲音は魔導書も読まずに魔術を発動する。

その直後、俺の体は魔術の力に包まれる。


「せいやっ!」


俺はナイフを案山子に思いっきり投げた。

すると、ナイフは案山子に当たる前に爆発した。


「ここからがこのナイフの肝!」


ナイフの爆発は、たちまち防護の膜へと変わる。


「さあ、新作の防御力はどんなもんかな!?」


俺は、体術でナイフによる防護膜へ何発もダメージを与える。


「十発耐えたか。玲音、あとどれくらい耐えるか調べられるか?」

「あと十三から十五発耐えるよ!」

「さすが玲音だ。既に耐久性を確認する魔術を施していたか。」

「これくらいできないと、二人で護身なんて無理でしょ?」

「ああ、そうだな。」


俺と玲音は、その後も実験を続けた。

計三種類の新しいナイフの実験、そしてそれの戦略について。

そして二人での護身についての話。

こうして二人で実験しているだけで、俺たちの仲がより深まっていく気がする。

友達関係でも恋愛関係でもない、だけど職業柄の関係だけではない。

そういう不思議な関係が、とても心地いい。

こんな日々がずっと続けばいいんだ。

魔術の森という、素晴らしい組織で。




――――――――そして、次の日・・・




「ふぅ・・・ 間に合った。」

「もう、日影ったら。」


日影はいつものように時間ギリギリに来た。

大事な時は余裕を持って行動する彼だが、昨日の夜に何か練習でもしていたのだろうか。


「全員集合したか。それでは、本日の仕事について発表する。」


彼は野守のもり 宗一そういち。魔法の森の創始者であり、野守玲音の父である。


「敵は、魔術撲滅組織の"雲散霧消"だ。現在の向こうの戦力は二人。」


玲音の顔が険しくなる。

今日のヘアピンは青を基調に白い線の模様が入っているものだ。

間違いない。今日の玲音は本気だ。


牧野まきの 咲人さくと野伊のい あきらの二人と確定している。」


玲音の表情が戦慄へと変わる。

玲音が戦いを好まないから、という理由だけではない。この二人は、何故なら・・・



「今回前線に出てもらうのは夏目涼太、野守玲音、以上二名!」




――――――――そして、その時間がやってくる。



「いくらこっちが忙しいからって、二人は危なっかしいよなー」

「会長は二人の強さを信頼してあの判断をしたんだと思うわ。二人を信じましょう。」


天見姉弟が見送りに来てくれた。いつものことだが、今回は二人もさすがに心配の表情を隠しきれていない。


「玲音は絶対に死なせない。」

「ねえ涼太、二人で二人を守るんでしょ?」


俺が呟くと、玲音が冷静に答える。


「ああ、そうだったな、すまない。二人で、無事に生還しよう。」


「うちの組織はなによりも人命重視よ。二人とも無理はしないように、お願いね。」


その後別れの挨拶をして、俺たちは現地へ向かった。





――――――――魔術養成学校「シャイニングストーン」



「ねえ、本当に裏口からで良かったの?」

「奴らは正門から入るって情報があっただろ、なら好都合だ。

裏口は魔術の森と同じ方向にあるし、正門から向こうが襲ってきても、こっちは学校全体が味方だ。おまけに国内王手の魔術養成学校。向こうとこっちの戦力差は圧倒的。」


今、俺たちは魔術養成学校の裏口にいる。

魔術撲滅組織"雲散霧消"の二人が今どこにいるかは不明。

時間的には向こうはもう着いていてもおかしくはない。


「サーチャーが強力な魔術の反応を見つけたよ。」


サーチャーとは、近くで魔術の反応があったときに反応する魔術だ。

サーチャーの魔法は対象からは絶対に気付かれないが、リーダーの魔術と組み合わせないと魔術の強さしか判定することができない。

リーダーの魔術を使うと、対象に気付かれてしまう。


「リーダーの魔術を使ってくれ。後、盗聴も頼む。」

「攻めに行くのね。まあ・・・仕事だもんね。」

「どうせいつかは気付かれる。それならこちらの戦力を晒してでも、先に手を打つべきだ。」


俺は仕事だろうが何だろうが、全力を尽くす。それだけだ。

そして、誰かを守る。それが魔法の森という組織。


「向こうの魔術は多少変わっているから、クラッキングを再構成して。」

「分かった。今から作業に向かう。」

「あと、さっきの反応はおそらく威嚇に使われた魔法。盗聴の内容からしても、あいつら武力行使に出るつもりよ。」

「相変わらず無茶しよる奴らだ・・・ まあ、それがあいつらの組織の在り方なんだけどな。」


魔術を撲滅活動から守る組織や魔術の治安を守る組織というのは、国から援助を受けることができる。

魔術の森が立派な建物なのは、お金があるから。

一方、魔術撲滅組織は国から援助を受けられない。

故に、廃墟を基地にしていたり、金の出どころが不明だったりと怪しい組織が多い。

雲散霧消はしっかりした組織だが、おそらくなんらかの闇の組織と繋がっているだろう。

お金はあるが、上下関係やノルマは厳しいらしい。

それゆえに、無茶な行動は避けられないのだろう。


「奴らからメッセージが届いたよ。先にお前ら二人を潰したい。二対二の戦いを申し込む、だそうで。」

「そしてもう一通。こちらは養成学校から。助けてくれ。生徒が一人人質にになった、って。」


「どうせ自演なんだろ。奴らにそんな力があるとは思えない。」

「人命優先でしょ?人命って、私たちのことだけだと思ってないよね?」


玲音は人の命に敏感だ。そのことになると、前が見えなくなる。

学校の人を巻き込むのも悪いし、二対二も悪くない。どうせ戦力はこちらが上だ。


「まあ・・・ 必ず誰かを守るってのが俺たちのポリシーだからな。クラッカーの魔術はできあがったぞ。二対二の戦い、俺は申し込むに賛成だ。」

「だからって、自己犠牲は必要ないんだからね?戦い、申し込んだよ。」




玲音は相変わらず、未だに犠牲なしに勝利を得られると思っているんだろう。

「アレ」を乗り越えないと、玲音は一人前の魔術師にはなれないんだろうな。

玲音が命にここまで執着する理由。それは、かつて魔術の森に所属していた玲音の母が、玲音の父を守るために命を失ったから。

その頃はまだ俺はこの組織に所属していなかったから詳しくは知らないが、敵は雲散霧消の会長である東雲、そして今回の敵の牧野と野伊らしい。

玲音が今日つけている青と白の色のヘアピン。これはかつて母が愛用していたものだ。

遺物ではないが、本気の時は同じものを付けている。


俺は二年前の十九歳の時にこの組織に入った。

その時はまだ、俺は周りになじめなかった。

なんせこんなライターだ。性格以前に、魔術をまず理解してもらえない。


そこで、上司の天見晴菜が俺に玲音を紹介してくれた。

玲音はまだ十五歳で、まだパートナーがおらず、一年前に母を失った身だ。


最初は俺のことを恐れていたが、俺の魔術を見た途端、玲音は一変。

俺の独特な魔術が玲音の好奇心を刺激し、玲音はたちまち俺のパートナーとなった。


それからずっと、友達でも恋愛でも仕事柄でもない、不思議な関係を続けてきた。

でも、一つだけ分かり合えないこと。それは命に対する考え方だった。


どちらも間違いではない。でも、これだけは一つ言える。


魔術師にふさわしい考えをしているのは、この俺だ。




――――――――――廃墟 地下1階。




「僕の誘いに乗ってくれたんだね、二人とも。」


野伊のい あきら


年齢は三十歳、身長は百六十五㎝くらいだろう。

髪は赤茶色。

雲散霧消に所属している、優秀なキャスター。


通称、雲の「姫」。

なぜなら、その女性的な顔立ちと華奢な体。


まあ、俺らからしてみれば魔女なんだがな。



「玲音の性格を利用してあんな自演をするなんて、下種な野郎共め。」


「そちらも、長年の恨みを果たしたいのではないのか?」


牧野まきの 咲人さくと


年齢は二十代後半、身長は百八十㎝ほど。

髪は黄緑色で、短髪。

晶とは対照的に、男らしい顔立ちに屈強な体をしている。

雲散霧消に所属している優秀なライター。

キャスターとしての才能もあるハイブリッドだ。


通称、雲の「庭師」。

咲くに人という名前だけでなく、その名の通り花をこよなく愛している。


魔術師は植物を信仰するから、魔術撲滅とは相反しているのだがな。



「涼太、護身術のキャスティングは私に任せて。」

「ああ、分かった。俺ら二人ならきっとできる。」


「あの二人、相変わらずラブラブね。僕たちもあんな感じになれたらいいのに。」

「今はそんなことを考えている場合じゃないぞ晶。戦闘の時間だ。」



牧野と野伊は付き合っているという噂がある。

というか、見た目や言動からして確実にそうなのだろう。


ライターとキャスターのペアで恋愛関係というのは珍しくもなんともない。

彼らは同性愛だが、それも同性愛が珍しいだけで魔術界隈だから珍しいなんてことはない。。

むしろ、同性愛のペアというのは異性愛に比べて有利だという意見もある。

同性愛こそが真の恋愛だと唱える人もいるように、同性同士のほうが実際心が通じやすい。

脳の構造が同じなのだから当たり前なのだがな。


だが、俺たち二人の絆も負けてられない。





「お嬢ちゃん、君は僕が相手するよ。」


「残念だが、お前の相手は俺だ。そして玲音が牧野を相手する。」

「涼太の言う通り。そこの庭師、かかってきなさい!」


普通に考えればキャスターはキャスター同士、ライターはライター同士戦うのが一般的だ。

ライターがキャスターと戦う場合、どうしても先手必勝になってしまうので、運の要素が強くなってしまう。

だが、俺たちは二人で一つと決めた。


お互いの戦闘位置を離さずに戦い、お互いにお互いを守りあう。

守りさえあれば、あとは先手を打つのみ。

圧倒的にこちらが有利だ。



「そこの魔女!先手を打たせてもらう!」

「遅いっ!」


野伊の前に強力なバリアが生成される。


「せいっ!やぁっ!たぁっ!」


俺はそれに向けて体で三発打ち込む。

そしてすかさず銃を取り出し、撃つ。


タァン!と甲高い音が鳴る。


銃弾がバリアに命中した頃には、野伊はもう攻撃魔術の詠唱が終わっている。


「喰らえ、我らが誇る最強の炎魔法!」


野伊は範囲の広い魔術を撃ってくる。

俺は一旦廃墟の地上一階へと退避。俺に続いて玲音も上がってくる。


「玲音、俺はクラッカーの魔術を書くから、後ろでバリアを張り続けてくれないか。俺が前衛に立って二人を牽制する。」

「涼太が言うなら勝算はあるんでしょうね。ほら、このナイフ二本でしょ。」


玲音は、俺の想像していたのと同じナイフを作り、俺に渡す。

今までナイフは一種類だったが、今は四種類。

ナイフの利点である、二刀流ができるというのを今なら最大限に生かせる。


「野伊はあのバリアを破壊することに専念しろ。俺があの小僧を相手する。」


俺たちの独特な魔術は向こうには理解できない。

だから、向こうはクラッカーを使わず正面から突破するしか方法がない。

俺たちが魔術の性能を落としてでもこの独特な魔術を使い続ける理由はまさにそれだ。


野伊が俺らの戦法に乗ってくれたということは、あとは俺がこいつを足止めするだけだ。


「ではいかせてもらうよ。野伊特製、洗練されたレーザー光線。」


「くっ、強いっ!」


玲音は思ったより苦戦しそうだ。お願いだ、耐えてくれ・・・

俺は牧野と間合いを取ろうとするが、彼の魔術弾がそれを許さない。


「その程度の護身術、俺の魔術でも突破できるがな!ぐはは!」


「そちらが魔術に頼るなら、魔術と体術の両方を駆使するこっちが有利だ。」


牧野は早速、魔術による電撃を放ってくる。

俺は、すかさず右手のナイフを投擲する。

ナイフは電撃に触れた瞬間爆発。そしてバリアに変わる。


「新しいギミックか。見世物じゃないんだから、そんな凝る必要ないだろうに。」


「では、このままもう一本のナイフで攻めさせてもらう。」


「この電撃の中を、か?投擲するような構えではないみたいだが。」


俺は、残りの左手のナイフで先ほど俺が生成したバリアに触れる。その瞬間。


「なんだと・・・?玲音があの状態でナイフを・・・?いや、まさかお前が作ったのか?」


「見世物ではない。だが、一切無駄はないギミックだ。」


先ほどナイフが爆発した時、ナイフの"素材の元"になるものは既に俺の手の中にあった。

そして、バリアに込められた魔力がもう一本のナイフの魔術と反応し、

ナイフを具現化させる。元と全く同じものを。

これを繰り返せば、キャスターの敵の懐に忍び込める。



「さあ、これでバリアは六つ。九つ破壊されたが、破壊より生成のほうが早いようだな。」


「野伊、戦法を変えるぞ!先にこいつを処理する!」

「情けねえな咲人。任せときな。」


「では、こちらも戦法を変える。俺が魔女の相手だ。」


そういうと、野伊はバリアを三重に張った。

俺は、銃弾をバリアの方へ壁の反射を利用しながらそれぞれのバリアに一発ずつ、合計三発打ち込み、その後牧野の方へナイフを二本投擲する。


「不意打ちとは卑怯な真似を!」


牧野が気付いたころには、野伊が魔術攻撃でナイフを破壊している。


「咲人、帰ったら説教だからね?」


俺は、玲音に魔術メッセージを送る。

すると、玲音は俺にナイフを渡す。

右手に二本、左手に一本。

慣れない戦い方だが、どうせこのナイフは使い捨て。


「いくぞ魔女、そんなバリア、一瞬で破壊してみせる!」


「させるか小僧!」


「涼太は私が守る!」


玲音が俺を守ってくれる。俺は玲音を信じ、自分のすべきことをするだけだ。

牧野が玲音のバリアの破壊に苦戦している時、俺は既に野伊の懐に忍び込んでいる。


「一つ目、二つ目、三つ目!」


ガラスが砕けるような音が三回鳴り響く。

野伊の張ったバリアは三つとも違うものだが、基本はどれも一緒。

同じクラッカーで全て対応できるのだ。クラッカーを作るのに長い時間をかけた甲斐があった。


「次はお前だ!」


「あと一秒早ければこの炎に勝てたのにね。」


俺は、既にポケットからナイフを取り出すと同時に、野伊に向けていた。


「おい野伊、四本目に気付いてなかったのかお前!」


その瞬間、野伊の正面にものすごい強い光が発生する。


「何が起こった・・・?」


ナイフはバリアの硬さにあっけなく砕け、炎はバリアに遮られた。

俺は冷静さを失わずに銃弾をバリアに放つ。


「なんだこの文字は!?」


見たことのない魔術文字。独特な魔術を謳っている俺でも、一般的に使われている百四十四文字以外の使い方は知らない。

だが、この魔術はそれを完璧に使いこなしている。それも一種類だけでなく、魔術の文節のほとんとが未知の魔術文字を含んだもので構成されている。


牧野と野伊もこの魔術を読み取ったらしい。


「まずいことになったな、俺たちは本部に報告しにいかなければいけない。こちらから仕掛けてしまって悪いが退散させてもらう。」


牧野がそういうと、二人は早急にこの場を去ってしまった。



「もうすぐで勝てたのに、残念だったな。」

「勝ち負けなんて関係ないでしょ。生き残るのが最優先。そう言ったじゃない。」

「ああ、でもな、敵討ちをしたくて。」

「もう、涼太にはそんなこと関係ないでしょ?いい加減自己犠牲はやめて。」



「玲音、俺たちは人間でもあるが、それ以前に魔術師なんだ。あいつらを放っておいたら苦しむ人が増えるし、命を落とす人だっているだろう。そんなやつらを俺は放っておけない。魔術師として生きていくっていうのは、命を懸けて戦う覚悟が必要だと思うんだ。」


「そうね、それが魔術師としての生き方。魔法の森の一員としての生き方。私も当然分かってる。でも怖いの。大切な人が命を落としてしまうことが。もう二度とあんなことは繰り返したくないの!」


「玲音はさ、一人前の魔術師になりたいと思うか?それとも今のまま、人間でもあり魔術師でもある、そんな生き方のほうがいいか?」


「そんなの決まってる。私は一人前の魔術師になりたい。だって、涼太がそうなんだもん。涼太はいつも冷静で、ちゃんと計画を立てて行動することができて、私はただ涼太に頼ってばかりだった。でも、本当はそんな私のことがあまり好きじゃないの。」


「玲音がそう思ってくれていて、良かった。玲音は俺の大切なパートナーだ。俺と同じ志を持ってくれて、とても嬉しい。玲音、二人で一流の魔術師を目指していかないか。」


「うん、目指しましょう!説得してくれてありがとう。少し元気がでたよ。」


「さて、そうと決まれば次の行動だな。

あの強力な魔術を追うか、あるいは一旦森に帰るか。」


「さっきからサーチャーがこの近くにものすごい強力な魔術を感じているの。恐らく戦闘中よ。」

「行くかどうかは、玲音に任せる。」

「そんなの、決まってるじゃない。涼太は行きたいんでしょ?」

「ああ、もちろんだ。」



玲音は、自分の弱さに打ち勝つ強さを手に入れ始めていた。

これで、俺と玲音はさらなる高みを目指すことができる。

この頃から俺と玲音の関係は、より深いものに変わっていくのである・・・





――――――――ビル 地上一階。



「誰もいないようだな。」

「崩すお金がないから放置されてる建物ってやつ?ここもいずれ廃墟ね」

「魔術の気配を感じる。銃弾を撃ち込んでもいいか?」

「待って、ここの魔術は尋常じゃない。第六感で感知できるくらいよ?先にバリアを張らせてちょうだい。」

「ああ、頼む。」


玲音がバリアを張った後、俺は銃弾を撃ち込む。その瞬間、ものすごい炎が襲ってくる。


「なんとか耐えたわね。トラップでこれって、尋常じゃないよ。」

「リーダーによると、野伊に使われたあのバリアとは全く別の魔術だ。」

「強力な魔術師が二人いると考えてもおかしくない状況ね。」


俺たち二人は銃とバリアを駆使しながら建物の中を進んでいく。

トラップでさえ相当強力なものだ。魔術師自身は想像をはるかに超える者なのだろう。

偵察だけして、危険を察知したらすぐ逃げられるように安全な道を魔術で確保する、という作戦で二人は建物の中を進んでいく・・・

最後まで読んでくれてありがとうございました。

用語が多くて難しかったと思います。

これ以上用語は増えないので、二話以降を読まれる場合は、すんなり読めると思います。

二話もそのうち投稿するので、読んでいただけると嬉しいです!

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