これからの身の振り方
目の前にいる親子の久々の対面です。
私は、親子の久々の対面でこんなに酷いものを見たことがない。
主である私は、窓枠に腰を下ろして、細々と酒を飲んでいるというのに、目の前には全裸のエルフとハイエルフが泥酔状態なのに飲み比べ。
酔うに酔えない地獄である。
それに、使用人に相手をさせようにも全裸という変態的宴の場所に入ってくる強者がいるわけもなく、酒やつまみの追加を持ってくるが、ドアから先へ一切踏み込んでこないのでお手上げだ。
昼から飲み続け、もう外は真っ暗で無数の星が輝いちゃってる深夜ですよ。
このハイエルフ泊まる気満々じゃないか…昔から図々しいんだ、こいつ等は。
「おい、そろそろ私は寝るぞ。何度も言うが、服を着たらどうだ?」
「おや、ガロガオンは私の鍛え上げた体に欲情してしまいますかな?」
「何をおっしゃってるんです?ガロガオンは、私の妖艶な体に欲情してしまっているんですわ!」
「………逆に私の態度に欲情しきってるんだろ?変態共がっ!」
「「はうあっ!!!」」
止めを刺してから使用人に引き渡そうと、昔よくやっていたことをそのままこの体でもしてやりました。
見せつけるように上唇を舐めて湿らせ、流し目をしながら吐き捨てるように言うのがコツです。
これで、変態共を成敗できました。
二人とも鼻血を噴いてソファーと床に倒れ込んで気絶。
優しい私は、使用人が入りやすいよう、二人の局部に脱ぎ散らかした服を乗せ、カオス状態の部屋を後にしました。
「ミシェル、応接室の変態共を何とかしておけ。」
「拒否したいです…」
「私は現状ではこの屋敷の主人だ…言いたいことは、分かるな?」
「はい……他の人も使っていいですか?」
「存分に使え。協力しないものが居たら私に報告しろ。」
今日の仕事はこれでおしまいです。
明日は、体調を崩す予定なので部屋に籠る。これは決定事項だ。
二日間も変態弟子の相手をしなくてはならないとか、どんな罰ゲームだ!
折角いい酒を飲んだはずなのに、相手が悪いと酔えないわ、酒の味がまずく感じるわで踏んだり蹴ったりだな。
使用人は、応接室の掃除で忙しいだろうからと、自らクローゼットへ入り、ゆったりとした寝間着に着替えてベッドに潜り込んだ。
はー…この先、私に素敵な人は現れるのだろうか。
この際、女でもいいがまともなのが一番重要だ。
それか、くっそ弱くてもいいから男だな。
酒と弟子へと精神的疲れで、あっという間に夢の中へと旅立てた。
翌日、私は珍しく遅い朝を迎えることになった。
部屋に入ってきたミシェルに、今日は部屋から出ないし、レベッカ親子は勝手に解散して部屋に入るなと伝言しておけと起き抜け一番でお願いした。
見る人が見たら楽園のような状態だったのかもしれないが、いくら美男美女でも好みじゃなかったら、私の下半身は反応しないのだよ。
おっと、朝から下ネタはいかんな。
「はー…今日は、貴族のリストに目を通して、目星をつけてアタックかけるかな…」
夜会に呼ばれないなら、夜会を開いて逆に呼べばいいのだ。
下級貴族なら喜んでくるはず…ってか来なかったら経済的制裁を食らわせてやることも視野に入れている。
それくらい現状厳しい。
行き遅れ一歩手前な上、変態に狙われ、可愛いのに病んでるっぽいお嬢様に狙われている。
更に、この強さ。
詰みかけている。
着替えを終えて、髪を結いあげて机に座り、束ねられている冊子を開いてコーヒーを一口。
レベッカが居ないと静かでいいなー。
私は、リストしか目に入っていない。
絶対に窓の外なんて見ないぞ。
窓の外からレベッカとエリックの気配がビンビン伝わってくる気がするけど、無視を決め込む。
ーガタガタガタガター
窓ガラスや窓枠がガタガタ煩く振動しているが、無視無視。
ーガタガタガタガタ…パリンッ!-
無視無視無視……って、おいおいおいおい…なんか割れたぞ!
「おい、レベッカ。割れてしまったぞ。」
「大丈夫ですわ、これくらい唾付けとけば治ります。」
「治るわけないだろうが!!!!!ちゃんと弁償しろ!!」
この親子は…私は、一か八かの賭けに出ることにした。
本来ならば使いたくなかった手だが、平穏と結婚には代えられないので仕方がない。
親子のことをミシェルに任せ、私は机に備え付けてあるレターセットを広げ、ペンをある人物に向けて走らせた。
この二人が苦手としていて、昔から敵わなかった人を呼び寄せることにしたのだ。
レベッカを失うのは辛い。
身を切るように辛い…っていうのは建前だが、エリックと共に連れて行かれることだろう。
「お嬢様、何を書いていらっしゃるんですか?」
「手紙だ…ソフィアに向けてのな!!転送!!」
「「いやぁあああああ!!」」
魔法陣が書いてある封筒に入れて魔力を流し、呪文を唱えるだけで送りたい相手に届くとっても便利な道具で、どこにいても確実に届く。
ソフィアは、エリックの元妻でレベッカの母親。私の前世の秘書で、二人のお目付け役なのですぐに駆け付けることだろう。
窓の外で親子二人揃って真っ青な顔で四つん這いになっているが、私の手に負えない変態は、引き渡さなくてはな。