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試合に勝って勝負に負けた

ちょっとお色気ありです。


気合を入れていった夜会が、モンスター使いの登場により惨敗する形で幕を下ろした。

この日の為に3年という月日を費やしたというのに…なんだかしばらくは何もやる気がしない。


「お嬢様、髪をしっかり洗わないと血が固まって絡まります…なんなら、私が洗いますよ?」

「ああ…そうしてくれ…もう、こんな長い髪切ってしまいたい…」

「ヤサグレ方が半端ないですね。」

「ヤサグレたくもなるだろ!夜会にいったのに、モンスター退治だぞ!この3年何だったんだ!それに、あの夜会に来ていた若造共はなっとらん!何のための魔法だ!マーガレットの方が落ち着いて行動出来て数段凄かったじゃないか!」

「はいはい、おじいちゃん血管切れますよー。」


夜会で大立ち回りをしたおかげで帰りは、皆、腫物を扱うかのようにお礼を言っていき、門に積み上げたモンスターの残骸を燃やし尽くすのを見てから、顔色が土色と化している執事が連れてきた馬車に乗り込んだ。

馬車に乗っている間は、私もレベッカも無言。

帰り間際に、マーガレットが私の唇を無理やり奪っていったことが原因です。

馬車でとんでもないお仕置きが展開されるかと身構えてもいたんですが、何もないまま屋敷に着き、いつものように風呂に湯を張って、私好みの香油を垂らして準備してくれていました。

ここまで何もないと恐怖です。

そして現在、風呂に浸かりながらレベッカが丁寧に私の髪を洗ってくれています。

人に洗ってもらうってなんて気持ちよくて幸せなんでしょう…マッサージ効果もあり、ウトウトしてきてました。

瞼を閉じてしばらくして、閉じた瞼越しにあった明るさがなくなったと思ったら唇に柔らかな感触が。

目を開けるのが本当に怖いです。

すぐに離れるかと思っていたら、今度は舌の感触がっ!


「何をやっとる!ムラムラするからやめろ!」

「いいじゃないですか!ムラムラするなら…私はいつでも受け入れますよ!準備万端ですよ!」


慌てて湯に潜ってその場を離れ、ザブッと勢いよく浮上してから、恍惚の表情で見てくるレベッカを叱りますが効果がありません。

それどころか、忍者のようにメイド服を脱ぎ捨てて、赤い総レースの勝負下着と思しき姿で襲い掛かって来るではありませんか!

ピンチです!


「私は準備などしていない!というか、お前はなんでそんなエロい下着を着てんだ!」

「毎日が勝負だからですわ!マーガレット嬢で良ければ、私だっていいじゃありませんか!」

「マーガレットもお前も女だろうが!!子供が作れん!」

「でも、結婚は出来ます!」


そうなんです。私が死んでいる間に、世界が変わり、同性、異種の婚姻が大々的に認められ、重婚も認められたんです。

下着姿のレベッカと全裸で無防備な私…逃げ場がありません。

虎の頃だったら全裸でも獣フォームになって逃げられるのに…何とも困ったものです。


「落ち着け…というか、お前が大人しかったのはこれを狙っていたのか!」

「その通りです!もう、来世なんて待ってられません!相手が男なら諦めようかと思いましたが、女まで貴方を狙っているんですから待ってる場合じゃないです!」

「くっ!肉食女子め…」


目の端に映った体を拭くために用意された布へ転がり、サッと体に巻いてドアへと走り出し、伸びてくるレベッカの手を避けて廊下を猛ダッシュ。

嫁入り前の肌を使用人に見せるなど言語道断ですが…背に腹は代えられない!


「お嬢様!なんて格好で!」

「煩い!事情があるんだ!頭ごなしに注意してくるな!」


乳母のメイプルへ普段は決して言わない言葉を投げかけると、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で立ち尽くしていた。

すまん!緊急事態だし、気が立っているんだ。

数人に見られはしたが、無事に部屋まで辿り着き、水が滴る体と髪を拭きながらクローゼットへ続く扉を開く。

とっとと服を着て、レベッカに備えなくては…

私が、レベッカに襲われたなどと使用人に言っても通じないことは過去の出来事で学習済みだから、私自身で対処しなくてはならない。

今日はドレスではなく、脱がせ辛そうなパンツスタイルにするか。

本来、シンプルで動きやすいものが好きな私は、数着男性ものの服を用意している。

ここ数年は、袖を通すこともなく廃棄していたが、計画が崩れたんだから今日から着ても問題ないだろ。


計画を練り直さねばならない。

肌触りのいい白い綿の下着を身に付け、黒いパリッとした新品のシャツに腕を通し、ベルベットのような素材で出来ているスラックスを履き、肩に布を垂らして、乾いていない髪からシャツを濡れないように対策し、クローゼットを出る。

うん、何もなかったようにレベッカっているね。


「麗しいお姿ですわね。」

「私は、お前の早着替えと気持ちの切り替えの早さに驚いてるんだけど。」


侍女としては本当に完璧なんだけど…婚活とレベッカ対策に頭を悩ませる毎日になりそうだ。

テーブルにある暖かなコーヒーを飲んで、窓から見える山をなんとなく見てしまうよ。


「そういえば、報告が遅くなったんですが、父がこちらに遊びに来ます。」

「うげっ!……なんで来るんだ?」

「私が務めてお世話になっているから、一度お礼と様子見にと…あ、ガロガオンのことは伏せてあります。」

「そうしてくれ。」

「もちろんです!お父さんが、貴方のことを知ったら絶対結婚を迫るに決まってます!ライバルを増やすようなことしません!」


レベッカの父は、私の最後の弟子のエルフで、とても美しいのだが…中身がレベッカそっくりなんだ。

確かに前世の私は、来るもの拒まずだったが、弟子には手を出さなかった。秩序が乱れるからな。

それなのに、親子揃って連日猛アタックだったからしんどかったのをよく覚えている。

あれが来るのか…今日は気が重くなることばかりだ。

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