闇と仲良しレベッカ
先ほどまでの煌びやかで優雅なホールは一転して、人の叫び声や呻き声、我先に逃げ惑う人々。
その中心に血に汚れ、泥や獣臭い私と美しいままのマーガレット嬢。
何とも不思議な光景で私は、不覚にも笑ってしまった。
これでは、前世の繰り返しではないか。
前世の私は、虎獣人族の中でもずば抜けて強く、初めは腕試しに挑戦してきたり、強さを利用しようと近づいてくるものがいたが、強くなればなるほど周りからは距離を置かれ、挙句の果てはモンスターと変わらない扱いになっていた。
血に濡れて喜んでいる訳でも、人が呻く声や肉に埋まる拳の感触も骨や岩を砕く感触も好んでいる訳ではないのに。
強くなれば弱きものを守れる。
森に棲む獣や畑で採れる作物だけで暮らしていくことだって可能だ。
飢えて苦しむことはない。
そう思って毎日修行して強くなったのに、十代の後半からは山に一人で籠る生活を余儀なくされた。
山の麓にあった村でモンスターが大量発生した際に、たまたま助けを求めに来ていたエルフを助け、その延長線で村を助けるところから、また人生が変わっていったが…その頃には五十代に差し掛かっていた。
あんな孤独なことは、もう耐えられない。
今回も迫害されるようならレベッカを連れて籠るとしよう。
覚悟が固まってきた時に、重量のかなりある荷物を勢いよく降ろしたような地響きがした。
ホールの一片を覆っていた大きめの窓ガラスが一斉にビリビリ揺れ、割れ残っていたガラスが飛び散った。
新たな敵かとも思ったが、ホールの入口をみて表情が引き攣る。
般若の面のような顔をしたレベッカが、自分の身長よりも何倍も大きいモンスターの残骸を引きずって近づいてきていた。
「ガロガオン!!貴方という人は!!私にモンスターの相手をさせて貴方は可愛いお嬢様とイチャイチャして!そのだらしない顔を何とかしなさい!!!!」
逃げ遅れていた者たちが、モンスター登場よりも迫力あるレベッカの登場に時が止まったように固まっていた。
ラスボスです。私にとってラスボスです。
「昔の名で呼ぶのはやめてもらいたいのだが…」
「何か言いました?」
「すいません。ホントマジで。」
「シャーロット様?この方は?」
「えっと…私の侍女です。」
口にして思ったけど、こんな侍女どこ探してもいない!
魔王の侍女って言った方がしっくりくる気がする。
マーガレット嬢も首を傾げちゃってるし。
「本当に?」
「こんな汚れた格好で申し訳ございません。私は、シャーロット様と前世から結ばれているレベッカと申します。」
「嘘と真実を織り交ぜるんじゃない。マーガレット嬢、彼女は弟子みたいなものです。」
「あら、そうでしたの。私は、シャーロット様と生涯を共にします、ダイヤモンド・クンツァイト・マーガレットですわ。」
二人の間に火花が見えます。
そんなことしてる場合じゃないでしょうに…
二人の間に立って、同時に頭を撫でて微笑みかけ、今やるべきことを告げようと思います。
「二人とも、今やるべきことを終わらせてからゆっくりお話ししましょう。」
「「分かりましたわ。」」
おお、ハモりました。しかし、そんなツッコみはしません。
埒が明かなくなりますから、二人から離れて外へ向かって足を進めます。
「レベッカ、モンスター使いはどうなった?」
「逃げ出しましたが、私の可愛い子たちに後を追わせています。」
「うへぇ…そりゃ、相手が災難だな。」
レベッカの可愛い子達とは、獣でもモンスターでもありません。
エルフ特有の精霊や妖精を指しています。
しかし、レベッカは普通と違って、かなり本質が病んでいるので火、水、土、風、光、木の精霊や妖精とは話すことが出来ず=仲良くなることができません。
唯一仲がいいのが…闇です。
闇の精霊ってまだ綺麗なんです。妖艶なんです。
妖精が…その…怖いんです。ほぼ姿的なものはないんですけどいるんです。存在しているんです。
それに後を追わせているとか呪いレベル。背筋が寒くなりました。
レベッカの話だとモンスターは粗方倒したという事で、屍を門の前へと積み上げる作業に入りました。
放っておくと腐敗してアンデット系モンスターになってしまうから対処は早めにしないといけません。
マーガレット嬢は、ケガ人の確認と手当を順調にこなしているようです。
流石、国でも名高い医療術家系。恐らく、その中でもマーガレット嬢は上のクラスでしょう。
可愛くて医療系が強く、スタイル抜群なんて天は幾つも授けているようですね。
チラッとレベッカを横目で見ると恐ろしい位笑顔で私を見ていました。
これは、色々覚悟しておいた方がいいかもしれないな。
一通り詰み終わると、それを陰で見ていた兵士たちがやっとこさ顔を出してきました。
前世だったら咆哮と共に吹き飛ばしてやるレベルだな。
「あ……有難うございました。」
「貴方が隊長?」
「は……はい。」
「貴様らは何を訓練しとるんだ!!!警備は手薄!客人を誘導せずに逃げ出すなど言語道断だ!恥を知れ!!」
「あー…貴方の怒号を久し振りに聞いて胸が高鳴ってしまっていますわ。」
「レベッカ!!」
怒号も発情したように身を撓らせ、頬を染め上げているレベッカの色香で台無しだ。