いよいよ決戦の舞台
この世界の貴族は、夜会の場で交友関係を広めますが、同時に婚約者探しも兼ねます。
私の様に宝石の家名を持つものは、大体貴族の中でも真ん中くらいです。
王族や上の方の位のある貴族は、ゴールド・プラチナ・シルバー・ブロンズ・アイアン。
そんなに多くはいらっしゃいませんが、ここから分家に分かれていくので、家の名前が二つ以上ついている方には要注意。
とんでもない地位や家柄です。
大体、本家に近い分家だったり、重要な役を持っている家柄だったりします。
例えば、プラチナ・ダイアモンド・○○とかですわね。
そうすると柵が大変で自由が利かなくなってしまいます。
結婚して可愛い子供を授かったら、自分の自由に育てて愛でてて成長を見守りたいですわ。
深緑にカラーリングされた馬車に揺られながら、まだ見ぬ旦那様へと思いを馳せます。
男らしい方がいいですわねー。
その方が、守られている感を感じられたりして…そうなんですよ。
私は、長い間守る側だったので守られてみたいんです。
さて、私の夜会デビューでは、どんな素敵な方がいらっしゃるんでしょう。
馬車の揺れが止まり、開かれたドアからはいつもよく見ている執事が、緊張しながらも私が出るのを待っています。
分かりますわ。私も緊張しますもの。
スッと手を出して、執事へ手を取るように促し、手を取られてゆっくりした動作で馬車から、この胸の高鳴る感情を噛みしめるように降ります。
俯いていた顔を上げるとそこには光魔法でデコレーションされた綺麗な館がありました。
この館は、本日の夜会の主催者であるブロンズ家の夜会用の館でとってもゴージャスです。
5大名家の一つですから、お金持ちですし交友関係も広いので沢山の人が集まります。
私と同じくらいに到着した方も沢山いらっしゃいますから、早く入って場所を確保しなくてはなりません。
…壁です。
私は、交友関係がほぼないに近いので、壁の花になって声をかけて頂けるのを只々待つしかないんですわ。
幼少の頃は居たんですよ?
ですが…私、少々力加減が出来なかったので、相手の方々を驚かせてしまってから交友を断つことにしたんです。
怪我させたら大変ですし、悪い噂が立って嫁に行き遅れたら最悪ですから。
絨毯の敷かれた階段を上がり、開かれている扉を執事と共に通り抜けると絵画で見たような世界が広がっていました。
因みに、王族主催の夜会以外、エスコートは執事でも大丈夫なので、それもこの夜会でデビューをしようと決めた理由の一つです。
エスコート役の兄弟もいませんし、友人もいませんし、お父様は…修行の旅に出ているのでいませんし…
仕方がありませんよね。
あ、お父様は私に負けたから修行に行っているんじゃないですからね?
お母さまに剣術で負けて、強制的に修行の旅をさせられているんですよ!
両親が居なくて羽を伸ばせると思ったら、レベッカが居ますから余計、羽を根元から縛り上げられています。
いっそ捥いで貰いたいくらいです。
何とか食べ物に近い位置の壁を確保できましたわ。
誰にも声を掛けられなかったら、食に走ろうと思っていますからね。
ワイングラスを片手にホール内を見回します。
執事は、エスコートが終わったので喜び勇んで馬車へと帰りましたから暇なんです。
皆さん、可愛かったり、セクシーだったり素敵なドレスに身を包んでいらっしゃいますね。
私はなんて地味なんでしょう。
カーテンを体に巻いても変わりないんじゃないかと思ってしまいますわ。
おや、隣に私と同じく壁の花を決め込んだお嬢様がいらっしゃいます。
私とは対照的な方です。
タンポポの様に可愛らしいのに、胸は私の4倍はありそうです。
勇気を出して話しかけてみることにしましょう。
「ごきげんよう。私、夜会が初めてでよく分からないので少しお聞きしてもよろしいかしら?」
「え…ええ。私もそんなに出ないので分かる範囲でしたら…」
「有難うございます。私、エメラルド・シャーロットと申します。」
「私は、ダイヤモンド・クンツァイト・マーガレットですわ。シャーロット様は、あのエメラルド家の本家なんですのね。」
あのエメラルド家…きっとあまり良い意味ではないような気がします。
その証拠に夫婦揃って領地ほっぽり出して剣術修行に行くような家ですから…
「ほほほ…お恥ずかしいですわ。」
「何も恥じるようなことはございませんわ。とても立派なお家柄じゃないですか。私の方がお恥ずかしい。」
「そんなそんな!ダイヤモンド家の分家の中でもクンツァイト家は、医療魔法に特化しているじゃないですか。」
「お褒めいただいて…有難うございますわ。」
え…お嬢様ってこんなに可愛らしく恥じらいながらお礼が言えるんですか?
お花が飛んだようにも感じましたよ?
同性なのにドキドキします。抱きしめたくなりますよ。
3年じゃ早すぎたか…もう2年はお嬢様修行をするべきだったか…
危うく手を伸ばしかけた時に、事態が動きます。
「マーガレット…ようやく来たんだね。」
「レオ…貴方がお父様に言ったからですわ!」
おや、マーガレット様の様子が変わりましたわ。
このレオという青年は、獣族で人狼のようです。尻尾がふっさふさで可愛らしいですわ。
「マーガレット様、お知り合いがいらしたようだから失礼致しますわ。お話しして下さって有難う御座いました。」
「お待ちください!…レオ、私はエメラルド家のシャーロット様とお話ししていましたの。貴方は遠慮して下さる?」
「マーガレット…シャーロット嬢は遠慮して下さるんだから…」
「嫌よ!貴方が遠慮して!」
「マーガレット!」
えーっと…修羅場です。
私、婚活第一歩として夜会に来ているのに、修羅場に遭遇して途方に暮れています。
だんまりを決め込んでいてもどうにもなりませんし、手首をガッチリとマーガレット嬢に掴まれているので逃げることもできません。
ここは、腹を決めてマーガレットに加勢しますか。
マーガレット嬢は、大きな目を潤ませて本気で嫌がっているようですしね。
「あの、この場は私に免じて引いてくださらないかしら?貴方も悪目立ちはしたくないでしょう。」
「シャーロット様!」
掴まれた手首を利用して、マーガレット嬢を自分の体へと引き寄せて、扇子で口元を覆いながら一睨みしてみます。
何故かマーガレット嬢が、歓喜に満ちた表情で私に抱き着いてくるのが気になりますけどスルーします。
「…分かりました…」
レオは、尻尾が垂れ下がったと思ったら股の間にシュルッと入って、少し怯えているようです。
捻気が少し出てしまっていたのかもしれませんね。
捻気とは、拳聖だった頃に編み出した独自の力で、前世では常に捻気の調節を心得ていたので今も身に付いてしまっています。
お嬢様なのだから必要ないんですけど、長年の癖は抜けない物です。