不届き者
ムケ王国跡地最前線に位置する廃屋の、くっせぇホコリのニオイ立つリビングにて。しがないチョンマゲ男と全身タイツの男が不埒会談に勤しんでいた。全身タイツの男はタイツの右乳首部分が切り取られており、そこからかわいいイチゴ色の乳首ちゃんがこんにちわしていた。しかもその先端からはチロッと何かの根っこの様なものがはみ出ており、しがない男の視線はその部分に釘付けなっていた
「ゴボウくん、ゴボウくん」
「なんでございますか、大潮殿。さては……催しましたな!?拙者があれだけトイレは事前にと……」
「違うって。ちゃんとしてきたし。ゴボウ乳首の話だよ。やっぱり反応無し?」
「あぁ失敬……ダメでございますな。感度ゼロ。アンテナ0本圏外状態にございます」
「そうか……」
赤奴襲来事件から7年後。ムケ王国にて猛威を振るっていた魔障が突然跡形もなく消えた。そこでチョンマゲ王国から調査団が派遣されたのだが、赤奴の亡骸と思われる骨は発見されたものの、自然薯者の痕跡は発見されなかった。その上この7年間ムケ王国に向けてビンビンに反応していた全身タイツ男の根イチゴちゃんも、全く反応しなくなってしまったのだ
「自然薯者……まさか生きているのか?」
「だとしたら、一体どこへ行ったのでございますかね」
しがないチョンマゲ男はため息をつくと、首を横に振った
「お手上げさ。人生わからんことばかりだぜ」
じねんじょ
第3章 BOYS
ムケ王国南部に位置するアニータ・スキスキ王国擁するSASAKURE酒場街の路地裏にて、1人の漢がうねる様に歩いていた。彼は身長160cm程の低身長ながらも体格が良く、見た目体重2tといったところであり、顔面には夜中だというのに石原グラサンがかけられていた。そう、彼こそは峯田ローリングスゥイサイドマン。彼は贅沢なことに、月も見ないで地面を見つめてうねり歩いていた。そのかわり彼の産毛の一本も居座らない見事なてるてるヘッドには月光が反射しており、その神々しさはまるで自身が地上の月であると主張しているようであった
彼がうねり向かうは、屈折酒場「くびき」である。彼はこの屈折精神所有人間の溜まり場的酒場の常連屈折漢なのだ
ドアが開けられ、轢音が響く
「これはこれは。峯田ローリングスゥイサイドマン様。ようこそいらっしゃいました」
出迎えるはこの卑屈酒場のマスター、チューチュートレナイである
「おうおうマスター、今日はあの野郎はいねぇのかい」
「ええ。今日はまだいらしておりません」
「そうかい、そうかい。そんじゃあま、アレだ。とりあえず一杯頼もうかい」
「かしこまりました。本日はいかがなさいますか」
「妬け罰開けとくれ」
「かしこまりました」
米酒「妬け罰」
非常に辛く、口に含んだ瞬間渋みが怒涛の如く押し寄せる玄人向けの酒である。峯田ローリングスゥイサイドマンは、何か特別なことがある時には必ずこの酒を飲むと決めていた
チューチュートレナイはカウンター席にどっかりと(それはまるでこの場の主であるかの如く堂々としていた)座る峯田ローリングスゥイサイドマンの前に、ヤケにしなびた野菜が盛られた皿と、くたびれた湯呑みを優しく置いた。そして妬け罰の瓶を手に取り、丁寧に封を切るとその中身を湯呑みに向けて発射した。どぷんどぷんという音と共に、発酵した米の香りが辺りに広がる。その香りはチューチュートレナイと峯田ローリングスゥイサイドマンの気持ちを少しだけ上向かせた
「今日は何かお祝い事でも?」
「わかるかい」
「ええ。いつもより頭頂部の発光が辛辣なもので」
「そうかい、そうかい。ワシのヘッドも喜んどるかい」
嬉しそうにニヤけりつつ黙り込み、妬け罰をススる峯田ローリングスゥイサイドマン。その姿を見たチューチュートレナイは、頭脳の中で舌打ちをかました。お祝いエピソードを教えろよ、と思った。しかしその脳内悪態を現実世界にブッ放す勇気は持ち合わせていないご様子であった
しばしの沈黙
「来ねぇな、あの野郎」
「気まぐれですからね、あの方は。来ない時もありますし、閉店間際に来て荒らしていく時もありますし」
「そうかい、そうかい。ま、いいわい」
峯田ローリングスゥイサイドマンは胸ポケットに手をやり、ガサガサと音を立てた。そしてそこからシワくちゃの封筒を取り出すと、テーブルの上にドンッと勢い良く置いた
「アイツに渡しといてくれんか」
「コレは……」
「遺言じゃ」
「ご冗談を」
チューチュートレナイは知っていた。目の前の漢、峯田ローリングスゥイサイドマンは不敗不倒不屈の不死身者であると。彼はこのアニータ・スキスキ王国魔族討伐部隊の元総隊長であり、数多の武勇を世界各国に振りまいた伝説の猛者である。現在は魔族討伐部隊を除隊しているが、その理由は束縛を嫌い自由を愛する彼の身勝手によるものであり、断じて体力の衰えなどという詰まらない理由ではないのだ。その為チューチュートレナイには彼の前言が出来の悪い冗談にしか聞こえなかったのだ
「じゃあワシはこれで。世話んなったな、マスター」
「え、あの」
「聞いても無駄だぜ、マスター。男は黙って去るものだ」
「いや、お代は」
「……ツケといてくれ。あの野郎に」
「かしこまりました」
峯田ローリングスゥイサイドマンは席からうねり上がると、ウネウネと立ち去った
「……もう出てきても大丈夫ですよ」
チューチュートレナイが言葉を発した数秒後、カウンターの中に身を潜めていた男がにゅるりと顔を出す。その男はスーツ姿にハットをかぶり、丸型のサングラスをかけた高身長の危険人物であった。その目線はサングラスに隠されてはいたが、その他の顔のパーツの動きからだけでも、この男が数多の修羅場を乗り越えてきた猛者であることを察することができた
彼の名はキャロットマン。社会の闇を生き抜く便利屋である
キャロットマンは面倒くさそうにアァアァ唸りながら、先ほどまで峯田ローリングスゥイサイドマンが座っていた席へと腰をかけた
「まったくあのオッサン勘弁してくれよコノヤロウ殺す気かコノヤロウオイ」
「まぁまぁ。落ち着いてくださいよ。貴方も隠れることないでしょうに」
チューチュートレナイはしゃがれた野菜が盛られた皿と、くすんだグラスをテーブルに置いた。そしてグラスの中に氷を入れ、安いウィスキーを注いだ
キャロットマンはグラスを手に取り口にあてがうと、その不味いウィスキーを少しだけ摂取した
しゃがれた野菜もまた不味い(それはまるで土を食べてるような感覚に似ている)が、キワどい形をしたキャロットマンには、その不味さがお似合いであった
「だってあのオッサン、毎回俺に面倒事を押し付けて帰ってくんだから参るぜ。ああいうヤカラには居留守が一番よ」
「でもいいんですか?なんか今日は様子が違いましたが……」
「あぁん?まぁ……そうだな。遺言とか何とか言って。あのオッサンも遂に脳までハゲてしまったか」
「とりあえず読んでみたらどうです?この手紙」
「そうだな……」
キャロットマンは不満そうにしながらも、テーブルの上で少し寂しそうにしているシワくちゃのお手紙を手に取ると、一切の躊躇無く封を切った