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のらねことアップルパイ

作者: 一日三文

 ある街に、のらねこのリクが一匹住んでいました。

 リクはお父さんとお母さんがいません。

 おうちは路地裏のダンボール箱。

 帰っても、誰もいません。

 ただいまと言っても返事は帰ってきません。

 リクはいつも一人ぼっちでした。

 けどリクにとってはあたり前のことでした。


 ある日、リクがお腹をすかせて街を歩いていると

 優しいパン屋さんがアップルパイを一切れくれました。

 リクは『ありがとう』とお礼を言ってうけとります。

 お腹がぺこぺこだったリクは誰もいない木の陰でそれをほおばりました。

 甘くおいしい、幸せな気持ちになる味でした。

 けれどアップルパイはあっという間に無くなってしまいます。

 リクは思いました。


『こんな美味しい食べ物を毎日食べれたら幸せだろうなぁ』


 いつか美味しいアップルパイをたくさん食べれるようになって幸せになろう。

 リクは心に決めました。


 それから数か月たった夜、リクはアップルパイを持ってお家にかえります。

 悪い事ばかりするネズミを追い払ったお礼にと、もらったアップルパイでした。

 お家について段ボールに入ろうとすると、キラリと光る物が二つみえました。

 リクはびっくりして後ずさりします。

 じーとよく見ると、それは眼だと気づきました。

 リクのお家にしらない小さなクロネコがいたのです。


『きみはだーれ?』


 リクは聞きます。


『誰でもないの』


 変な返事が返ってきます。

 リクは意味がわからず、首をかしげました。

 クロネコはリクを見ようとせず、ボロボロと涙をながしていました。

 何か悲しい事があったのかもしれません。

 けど、リクには分からない事でした。


『泣かないで、僕の幸せを分けてあげるから』


 リクはアップルパイを二つに分けて、片方をクロネコにあげました。

 半分になったアップルパイは小さくお腹いっぱいにはなりませんでしたが、クロネコは泣き止みました。

 とても寒い夜だったので二匹はダンボールの中で一緒に寝ることにしました。

 クロネコは何も喋ってくれませんでしたが、隣にいるだけで暖かい気持ちになりました。


 その日からリクはクロネコと一緒に暮らすようになりました。

 名前を名乗らなかったクロネコを、クロと呼ぶようになりました。

 クロはいつもリクの後ろをチョコチョコとついていきます。

 リクはクロがはぐれないように、ゆっくりと歩きながらたまに後ろを振り返ります。



 クロと暮らすようになってしばらく経ったある日。

 いつものパン屋さんがクロに話しかけました。


『君はだぁれ?』


 クロは元気に笑顔で答えます。


『わたし、クロ』


 嬉しそうな笑顔でした。

 それを見たパン屋さんはニッコリ笑ってアップルパイを一切れ、リクにくれました。

 2匹は『ありがとう』とお礼を言って、誰もいない木の陰でそれを2つに分けます。

 小さなアップルパイはすぐに無くなりましたが、あの時食べたアップルパイより美味しく感じました。


『幸せって、大きければいいって思ってた。違うんだね』


 クロは首をかたむけて、リクを見ました。

 リクが微笑むとクロは笑顔で返してくれます。


 クロは、あの時もっと欲しいと思った幸せが満たされた気がしました。




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