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05 戦いの申し出

 三人が俺の顔をじっと見つめてくる。


 だが俺には返す言葉がなかった。なぜなら俺自身にも分からないんだからな。しかし改めて人間かと問われると、だんだんと俺は自信がなくなってくるのを感じていた。


 だがあまり驚く様子もなくヴィロサ嬢は納得してしまう。


「まあ少しくらい……他の人間と違うところがあるのは仕方がないわね。そもそもが、この世界に毒耐性のある人間がいなくて異世界まで探す範囲を広げていたのだから。異世界人と言う時点でこの世界の人間とは違うものね。変な転生癖があるくらいなら許容範囲と言えるかしら」


「……珍菌さんは珍菌さんですので。これからもし毎日生まれ変わったとしても、私は驚かないのですよ」


 完全に人間とは違う生き物として認識されてしまった気がする。っていうか毎日転生とか嫌だな。そんな特異体質になってるものとは俺自身が思いたくない。


「でもそうなると……あなたには他にも人と違うところがあるかも知れないわね。しかも話を聞く限り、あなた自身が自分が何者か把握も出来ていない様子」


 少しの間を置いてから、ヴィロサ嬢はそうつぶやいた。


「これは少し問題ね。あなたが一体何者で、何が出来て何が出来ないのか。私達がそれを知りたいのはもちろんだけど、あなた自身も、自分が何者なのかをきちんと理解する必要があると思うわ。とりあえずはそうね……まずはここで、私と軽く手合わせでもしてみない?」


「突然何を言い出すんですかヴィロサ様!」


 ヴィロサ嬢が突然物騒なことを言ってくる。思わず羊子ちゃんがツッコミを入れるレベルだ。


 だがヴィロサ嬢が言った言葉には、確かに考えさせられる物がある。


 俺が一体何者になってしまっているのか。それは俺自身、強く知りたいとも思っている事柄だった。さらに言えば、生まれ変わってから俺はやけに体が軽いと感じている。


 俺は単に毒が効かなくなっただけなのか? 俺の本能は違うと俺に告げていた。


 俺自身が、自分の今の力を知りたいと全身で感じている。だから俺は、その気持ちを正直にヴィロサ嬢に伝えた。


「ヴィロサさんみたいな綺麗な人と手合わせするのは少し気が引けるが、そちらがいいのなら俺の方からお願いしたい。でも俺自身、今の力がどれだけあるのか謎なんだ。もちろん手加減はするつもりだが、まずかったらすぐに言ってくれ」


 俺が答えると、ヴィロサ嬢は楽しげな笑みを浮かべて返してくる。


「人間に手加減するとか言われるなんて、この世界に来て初めての経験よ。でもそうね、なら私はあなたを同じマイセリアドーターと見て相手をさせてもらうわ。あらためて言っておくけれど、私達マイセリアは身体能力も人とは全く違うのよ。……この世界を七日で平らげた私達の力。あなたにも少しだけ体感させてあげるわ」


 期待に満ちた目で、ヴィロサ嬢は俺の顔を見つめていた。



 そうして俺とヴィロサ嬢は、部屋の中央へと移動する。

 この王の間はかなりの広さがあったので、少し距離を取って俺はヴィロサ嬢と対峙した。


 そうして位置取りを決めた後、ヴィロサ嬢が俺へと話しかけてくる。


「じゃあさっそく始めようと思うけど、素手で戦うのも味気ないわね。私は元々そういうタイプじゃないし。よければ武器を用意しようと思うのだけど構わないかしら? もちろんあなたの方にもつけるわよ」


「武器か……そうだな、あんまり危ないのはなしにしたいが、刃物じゃなければいいと思うぜ。武器があれば直接体を殴らなくても力を見れるしな」


 俺が答えるとヴィロサ嬢は満足げに頷いた。そしてヴィロサ嬢は奥に離れていたヴェルナと羊子ちゃんにも確認を取る。


「二人もいいわね」


「もう好きにすればいいのです。……でも危なくなったら止めるのですよ。せっかく異世界まで行って珍菌さんを連れて来たのに、初日で死なれては私が困るのです」


「僕も紳士さんが死んじゃったら悲しいよ。死なないように頑張って!」


 ヴェルナと羊子ちゃんの確認も取り、改めて俺はヴィロサ嬢と対峙した。


 そして、ここで驚くことが起こる。


 風が吹いているわけでもないのに、ヴィロサ嬢の背中に生える羽の一部が宙へと舞ったのだ。その羽はさらに細かな粒へと分解し、みるみる内にその姿を変えていく。


 そしてほどなく、真っ白な一本の大鎌と長い棒状の物体が姿を現した。


「私は大鎌を使うつもりだけど、あなたは棒で良かったかしら? もちろん大鎌の方も切れないよう先は丸めてあるけれど。リクエストがあれば言って頂戴。銃火器のような複雑な物は無理だけど、剣とか槍にならすぐ変えられるわよ」


「いやそのままでいいよ。刃先がないなら一緒だし、それならむしろ棒の方が使いやすそうだからな」


 俺は答えながらも内心すごく驚いていた。


 これがヴィロサ嬢の能力か。ヴェルナの能力も大概だったが、ヴィロサ嬢の能力もかなりすごそうだ。


 俺の力を確認するのが手合わせの目的ではあるが、俺はある種油断していた心を引き締め直す。


 そう思っている内に、ヴィロサ嬢が棒の方を俺の前へとゆっくり飛ばしてきた。その棒は俺の目の前でぴたりと止まり、当然のように宙へと浮かんでいる。


「これが私の概念能力、《創造(クリエイション)》よ。私達マイセリアは、多くの娘が個別のキノコやキノコそのものの特性にちなんだ能力を持っているわ。私の《創造(クリエイション)》は羽の形状に溜めてる胞子を操って、構造の単純な物なら何でも自在に造り出せる能力よ。もちろん、この大鎌や棒にも強い毒の力が備わっているわ。だからその棒も、普通の人間が触れれば死んでしまうような代物なのだけど……どうする? やっぱり普通の武器を用意しましょうか?」


 ヴィロサ嬢が尋ねてきたが、俺は迷わず目の前の棒を掴み取った。


「思い切りがいいのね。そしてやはり……私の毒もあなたには無効というわけね。でも油断はしないで頂戴。毒が効かず、刃先も丸めてあるから致命傷にはならないはずだけど、それでも当たれば痛いわよ」


 そう言ってヴィロサ嬢は大鎌を構える。俺もヴィロサ嬢を真っ直ぐ見据えて棒を構えた。


「じゃあ開始の合図は、羊子にお願いしようかしら。ヴェルナもいいわね?」


「分かったのです。……でも二人とも、熱くなりすぎては駄目なのですよ」


 どうやらヴェルナも観念したようだ。


 そして羊子ちゃんが俺とヴィロサ嬢の中間辺りの横に立ち、戦闘開始の合図を送る。


「ヴィロサ様も紳士さんも、あまり無茶しないよう戦って下さいね。では行きますよ。始めっ!」


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