Interval~Dirge~
憎悪は抑えられた連続した怒りである
~デュクロ~
二人は生まれた時から共にあった。家は貧しく、毎日家族が食べるだけで精一杯だった。
二人はいつも少ないムサカを分け合って食べ、貴重な水も分け合って飲んだ。
遊び相手は互いだけ。毎日二人で家畜を世話して、夜は二人で眠った。常に二人は一人のように、共に生きてきた。
家では数頭のヤギと羊を飼い、母が羊の毛を紡いで織り、父が街へ売りに行くことで生計を立てていた。貧しいながらも、幸せな家庭だった。
二人が12歳になった頃、父が死んだ。数か月前、行商の帰りに黒い旗を掲げたジープの男達に無理矢理連れ去られた父は、戦場で死んだ。星条旗を掲げる国の兵士に殺されたと聞かされた。
父の無事を信じて家を守っていた母は嘆き悲しみ、絶望に痩せ細っていった。
二人は病床の母の為に必死で働いた。日々慣れぬ機織りと、家畜の世話に追われ、日が暮れるころにはくたくたに疲れ果てていた。二人は細い体を互いに励ましながら、母の回復を願った。
ある日の事だった。街で織布や糸が思わぬ高い値で売れ、二人は母の好物であるバクラヴァを買った。甘い香りが鼻孔を擽り、二人は久しぶりに笑った。
街から少し離れた丘を越えると、砂煙の中に灰色の煙が空高く立ち上っているのが見えた。
二人は走り出した。煙の立ち昇るその場所は、生まれた時からよく知っている。袋の中のバクラヴァがめちゃくちゃになるのも分からない程、二人は砂と石だらけの道をひた走った。
二人が家の前に着くと、焼け焦げ、バラバラになった家畜が至る所で散らばっていた。石造りの家は無惨にも崩れ落ち、柱からは炎が燻っていた。
二人は泣きながら母を呼んだ。瓦礫を押しのけ、投げ捨て、掌が血だらけになっても、母を呼び、叫び続けた。
だが、瓦礫の中に二人が見たのは、黒く燃え尽きた、か細い腕らしき物だけだった。
二人は泣いた。泣いて泣いて、泣きつくした。夜は震えながら抱き合って眠り、昼は涙を流しながら、黙々と瓦礫を掘り起こした。
涙が枯れた頃、二人の中で激しい怒りが渦巻いた。父と母を奪った全てが憎かった。世界、いや、神すらも憎んだ。
その日から、二人は神を捨て、シャイターン(悪魔)となった。
ある日、彼等は人を殺した。父を奪った奴らに復讐するために。だが、奴等は同胞を殺され怒り狂い、血眼になって二人を探した。匿う人間は容赦なく殺すため、彼らに手を差し伸べる人間はいなかった。
だが、ある男が二人の前に現れた。不思議と印象に残らない平凡な顔だったが、その声は悪魔の囁きのように人を惹きつける何かがあった。
男はこう言った。
「今、この手を取るならば君達の願いを叶えよう。断るならば、私は何も見なかったことにして此処を去ろう。」
二人は迷わず男の手をとった。四つの黒い瞳が男のヘイゼルの瞳を見つめ、全く同じ顔が口を開いた。
「僕達は力がほしい。何者にも負けない力が。それで世界に復讐する。」
それを聞いた男の眼が、初めて愉快そうに歪んだ。寒気がするような、歪な笑顔だった。
「いい眼だ。全てに絶望した眼だ。いいだろう。私が君達を何者にも負けない戦士にしてやる。その代わりに、その怒りを私に貸してくれ。」
―――私達が世界に復讐するために。




