快晴
そのまた一週間後、日曜日。
柏木仁の葬式が行われた。
9時。
私は、短い関係だったけど柏木の葬式に行く事にした。
喪服に着替え、御香典を持って柏木宅に向かう。
柏木宅は、あの電話から数日経って柏木の姉から教えてもらった。
11時。
柏木仁の葬式が終わる。
私は、涙一つ流さなかった。
流れなかった。
何も考えてなかった。
柏木姉に柏木の部屋に連れて行ってもらうようにお願いした。
柏木の部屋は本当に音楽が好きな男の子の部屋という印象を受けた。
アーティストのポスター、ギター、CDの散乱、音楽雑誌。
その汚い部屋に一冊のノートがあった。
歌詞が書いてあるノート。
何回も何回も訂正がしてあるノート。
その中に、レコーディングするはずだった曲の歌詞があった。
『頑張らなくてもいい、自分らしくいけばいい』
私は、私の意志ではなく泣いた。
そのノートをそっと戻し、置いてあったアコースティックギターを手に取った。
一階に降り、柏木の遺影の前に立つ。
私は、ギターを鳴らした。
泣きながら歌った。
柏木仁が作った、歌を。
私と二人でやろうとしたバンドの曲を。
今日、初めてスタジオとは違う場所で歌った。
柏木の両親や親戚が私を止めようとしたが、みんな黙って聞いていた。
私の声はよく響いた。
今日は、雲ひとつない快晴でした。