夜中の騒動
―――ドアを激しく叩く音がする。
「……一体なんだ……」
マグスは弱々しくベッドから起き上がり、夢うつつにドアを開けた。
黒い異型の服を着た赤髪の女が、血相を変え突っ立っている。――ラルだ。
その隣に宿屋のオヤジと、おさげを下ろしたボサボサ髪のリントがいた。
「ふあぁ……こんな夜中になんだよ……。俺は熟睡中だ」
「アホ!起きとるダロ!とっとと着替えろ」
「リントちょっと待て。……着替えだと?何故だ」
「――馬車が……盗まれた」
血の気が引いたラルの心細い言葉に、マグスは余裕の表情で言い放った。
「俺には関係ねえ。ちょうどいいじゃねぇか。おまらなら車両の一台や二台楽勝で買えるだ……」
眼中にラルのうっすら涙を浮かべた顔が迫る。マグスの首筋に短刀があてがわれる。
「あの馬車は……姫様に頂いた大事な物だ。貴様は土地勘があるだろう。探すのを手伝え」
「……嫌だと言ったら……俺の首を切るんだろ?」
「そうだな。ついでに耳も削ぎ落としてやろう」
「……そりゃおっかねえ。そうだな、報酬があるなら手伝ってやってもいい。護衛の契約は街へ来た時に切れてるからな」
「いいだろう。契約は我々が無事に街を出るまでだ」
「オーケーだ。……まずその危なっかしい物を収めてくれ……」
マグスは寝間着の上に皮の胸当てとシェーカー、左腕に小型の皮バックラーを付け、黒いロングブーツを履き腰にプレアキメデルソードを装備すると、宿屋のオヤジに話を訊くことにした。
ちっ……寝間着だと格好がさまにならねえな……。
「……すいやせん。叫び声がしたんで外に出てみると見張りが倒れてまして……格子鍵が壊されてたんです。車庫はもぬけの殻でした。いま、息子に保安課へ盗難届を出しに行かせてまさあ」
「……犯人に何か心当たりはあるか?マグス」
「そうだな一応はある。だが、今どき馬車を盗むなんて理解に苦しむぜ。ラル、その前に報酬の件だが……」
――下方からリントの蹴りがマグスの膝に入った。
「……っいってえな!このチビ助!」
「報酬はあとだ!オマエは家来になったからドレイ同然なのだ。従え!」
「このガキ。あとで泣かしてやるからなっ!くそ……まず、情報屋へ行って聞くしかねえ。この辺界隈は盗賊なんて腐るほどいるからな」
「――承知した。リント、お前は姫様のお側にいろ。絶対に部屋から出るな」
「我も行きたい!アホがバカやらんよう見張ってやらんとな!我はアホの先輩なのだ!」
「私を困らせるな。いいな、リント」
リントは顔を上げてラルの表情を見ると「うんわかった……」と小さく答え頷いた。
外灯に照らされた薄暗い街へと出ると、メインストリートから外れた小さな通りを道なりに行き「MAJESTY」と書かれた小さなバーへ二人は入った。
店内は薄暗く音楽が大音量で流れている。店の照明は席を照らす程度。辺りはタバコの煙が立ち込め、ラルはむせ返り顔をしかめた。
マグスは初老の緑色のシャツを着た情報屋を見つけて話しかけると、陽気な顔をして老人は答えた。
「はっはっは、久しぶりじゃないか!インセイン・ボーイ。今日はなんの話だ?……なんだぁ?その、変な女は」
ラルは形相を変え、むっとして眉間にシワを寄せる。マグスはラルを隠すように前へ出ると、
「久しぶりだな、ダープラ。こいつは俺のツレだ。今晩の情報が欲しい。白馬の馬車を宿屋から盗んだ盗賊を知らねぇか?」
「うん……?そうだな、もう夜明け前だ。今のところそんな情報は入ってないな。どこの宿屋だ?」
「旧ストリートのラプリートと言う宿屋だ。そこで馬車が盗まれた」
「あん?ラプリート?そんなところに泊まったのか。よく物を盗まれるって評判の宿屋だ。関与しているのは西の鉱山にいる盗賊一味って話だ。行ってみたらどうだ?」
「たぶんそれだな。ありがとうな」
ダープラが座っている席に金を置くと「またよろしくな、ダープラ」と言い、マグスはラルに合図を送り外へ出た。
「マグス、インセイン・ボーイというのはなんだ?」
「ああ、この街じゃ俺はその名で呼ばれている。意味はイカれてる野郎って感じだ」
「フ……。貴様らしいな。さあ、西の鉱山へ案内してくれ」
―――情報得た二人は西の鉱山へ向かった。