戦 闘
「ああん?……なんだ、インセイン・ボーイじゃねぇか」
厳つい顔をしたハゲ頭の筋肉質な男が、のっそりとガラクタの中から顔を出した。白いシャツが油で汚れて焦げ茶色になっている。
マグスは不満気な顔をし下から見上げ眉をひそめた。
「ドウルのおっさん言っただろ?おい!って。ああん、じゃねえっての」
「いつもうるせえガキだな。今日はなんだ」
大きな顔の男が、大きなスパナを肩にトントンと小刻みに叩きながら、マグスが何を言い出すか気にしている。
――ドウルは街の外れにある機械屋。
ほとんどガラクタばかりの店で新品は一つもない。店内と呼べるのは屹立しているガラクタの隅にある小さな掘建て小屋だ。
「……山岳用のバイクを借りに来た」
「魔獣ハンターだろうが。一台買ってくれよ。金儲けてるんだろ?噂に聞いてるぜ?」
「ああ、がっつり儲けてるが、こんな小汚い所で買う気にはなれねえ」
大男は渋い顔をしてポケットを探ると鍵を取り出し放り投げ、マグスは鍵を右手でキャッチした。
「右端の栗色のバイクだ。あんまり言いたかないんだがな、そうガメついといつかケチがつくぜ。世界の常識ってやつだ。いつも来てんだから俺の名前くらい覚えろよ」
「名前覚える変わりにレンタル料まけてくんないか?」
「いつもまけてんじゃねえか。早く行け!この疫病神め!」
意地悪そうにニヤリとマグスは笑うとバイクに乗り、目的地へと向かった。
砂漠に埃を巻き上げながら山岳を目指す。
身体にローブを羽織るも日光がジワジワ身体の水分を奪っていく。
途中、何度も水分補給をしながら疾走する。
遠くに岩山を確認すると、スロットルを回しスピードを上げた――
……たしかここだったはずだ。ここで襲われたら確実に死ぬな。
下方にはもうバイクの姿はない。マグスは急斜面の岩山を登り、山頂付近まで来ていた。
―――岩に手を伸ばすと目的の物を発見する。
丸いゴツゴツとした、いびつな卵。魔獣の卵だ。
依頼はファリグルと呼ばれる魔獣の卵を取ってくるというものだった。
栄養価が高く、砂漠の民には貴重なもので高く売れる。
ファリグルは獰猛で危険度が高く皆行きたがらない。並びに報酬も高い。
マグスにうってつけの仕事だった。
「ふ……楽な仕事……?」
岩陰に微かに動く物体がある。それはねっとりと動きながらこちらへ向かってくる。
平たく岩色をし、蛇のような長い胴体。
―――ファリグル! 一、二体……いや、三体か!
速と剣を取り出し、足場の悪い岩山で腰を落とし構える。右足を踏ん張り身体を猛然と魔獣へと突っ込んだ。
地面にへばりついているファリグルに下方部から切りつけ、緑色の血液が飛び散る。
すかさず空中から降ってきたもう一匹を剣を振り上げ力強く叩きこんだ。
もう一匹は……?
岩に同化したファリグルに気づくのが遅かった――。
右足を捕られ、力強く引きずり込まれ岩に叩きつけられる。
マグスは身体に激痛が走り口へ広がる血の味を感じた。
――くそっ!身体が動けねえ!パラライズかっ!
ファリグルの下腹部に円形の口が大きく開かれ迫ってくる。
剣は遠くへ飛ばされ取るのは不可能だった。マグスは抵抗出来ない身体を少しづつ動かし、腰に据えている鞘に右手を添えた。
瞬間――細い鉄針が飛び出しファリグルの身体を突き抜ける。
一度、もう一度、もっと。
幾度も鉄針を撃ち、すべて撃ち尽くしたあとファリグルはそのまま重音とともに倒れた。
同時にマグスはそのまま暗転し、暗闇の中へ落ちていった――