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女神の喪失

 ―――マグス達はプラハド村へ来て一週間になる。

 村の人々はとても親切で食べ物を毎日運んでもらったり、風呂を借りたりと満ち足りるほどであった。

 一行は礼を言い、村を出て行こうとすると必ず誰かが怪我をし、誰かが熱でうなされたりと村へ留まざるを得なくなっていた。

 ラプラは毎日教会へ誘われ、神父レモンドと共に村人に教えを説いて信仰を深めていた。


「……いつまでここに留まらなければいけないのだ」


 ラルは苦々しい顔をして教会の離れの室内から外を眺めて言った。

 室内から外を見ると、ラプラと快活な子どもたちが一緒に教会へと同行をしている。

 ラルの部屋にはあぐらをかいて剣の手入れをしているマグスと、ベッドの上で寝転がってごろごろしているリントの姿があった。


「別にいんじゃねーの?食いもん食い放題だし。ベッドも毎日ふかふかだしよ。なんの不便もねえ」


「我も初めて友達が出来たのだ。アーサーだろー、シキルだろー、フォークスだろー」


 嬉しそうにリントは子どもたちの名前を指折り数え上げる。


「そういう問題ではない。姫様が女神に祭り上げられている事が問題なのだ。村で術式を使ったのは失敗だった。我々には一刻も早くここを抜けださなくてはいけない。魔獣の主インフェルノを封印するためにな」


「村の人たち、めちゃくちゃ親切じゃねーか。インフェルノを封印しなくちゃいけねーとか、俺はもうどうでもよくなってきた。魔獣が居なくなったら困るのは俺だしな」


 ラルは怪訝な顔をして両腕を組みマグスへ反駁した。


「貴様、雇われている身でよくそんな事を言えるな。呪い返しの古書は諦める事になるぞ?……しかし、あのレモンドという神父があやしい。あやつが村人を騙し、我々を永久にこの村から出さないよう言いくるめているやもしれん」


「おいおい、封印の件は冗談だ。……神父か……そうは見えねえがな。まあ、村から出られないって所は同意しとくぜ」


 マグスは肩をすくめると、「腹減ったな」と話題を逸らした。

 ベッドで寝ていたリントはあくびをし、眼に涙を溜めて、


「……オイ、アホなす。姫サマを呼んでこい。我も腹が鳴っているのだ」


 目尻を吊り上げ厳しい顔をしたラルがマグスへと視線を移し、


「確かに今日の礼拝は長い。マグス、教会へ行ってこい。姫様が心配だ」


「わーったよ……過保護にも程があるぜ」


 マグスは頭を掻きながら部屋を出た。

 外へ出ると礼拝堂までのんびりと歩きながら、青く澄み切った空を見上げる。


 この村は平和だ……。エファが治ったらこの村で二人で暮らすのも悪くねえ。信仰には興味ねえが、人間がこんなにやさしいなんて感じた事なかったな。ジャカランなんかとは大違いだぜ……。


「とっ……。静かに入らなきゃな」


 教会のドアを少しだけ開けると、ラプラの涼やかな声が礼拝堂に響いている。


「―――神より命を与えられた我々は、神よりいただいた食のある暮らしに感謝し、自らを捧げようとする者だけに訪れる幸福を―――」


 ……なんだ、まだ礼拝やってんのか。ま、ここまで来たんだ。


 マグスは音を立てないように慎重にドアを開けた。

 礼拝堂の中を眺めやると様子がおかしい。おかしいのは村人が全員机に突っ伏して寝ているからだ。ある者は両手をだらりと下げ、ある者は床へ倒れている。目線をラプラへ向けると、その横で神父が倒れていた。

 木椅子に座っていたラプラは、読んでいた本を閉じると微笑み、


「マグス、どうしたのー?」


 礼拝堂の中にラプラの一声が反響し木霊する。


「はあ……?どうしたのじゃねえ。なんで盗賊ん時や、シェーカーの時みたいに術式使ってんだよ。早く全員起こしてやってくれ。昼飯が食えねえだろうが」


「起きないよ?」


「……なんでだ」


「全員、死んでるから」


「……嘘をつくな」


「嘘じゃないもん。触ってみたら?」


 マグスは老婆の近くへ行き顔を覗いた。

 顔は青白く、眼を見開き、口は半開きの形相をしている。マグスは逡巡しつつも老婆の手を触ってみた。

 手は人の温もりではなかった―――。

 老人、子供、大人、表情は仰天するわけでもなくありのままの状態で冷たくなっている。

 マグスは苦痛の表情をうかべて慄然する。


「……なぜ……殺した」


「そんな事より、この本ねえ、面白いこと書いてるんだよ?我慢して生きなさいとかー愛が情け深いとかーお説教ばっかりなんだよ。誰に向かって言って―――」


「なぜ―――殺したかって聞いているんだ!!」


 礼拝堂にマグスの大音声が響き渡る。ラプラは首を傾げ、


「マグス、なんで怒ってるの?……ただ、村の人たちが面倒臭くなっただけ。だから、殺しただけだよー?。それに、あたし、女神なんかじゃないもん」


 悪びれる事ない明朗なラプラの奇矯さに、マグスは苛立ちを積もらす。


「ざけるな……ふざけるんじゃねえ!村人全員殺しておいて、おまえは女神なんかじゃない!悪魔だ!金輪際、俺に関わるな!契約も破棄だっ!……じゃあな!」


 激怒したマグスはそのまま教会を出ると村から去っていった―――。


 マグスの言ってる意味が解らないラプラは、礼拝堂の中で呆然と立ちすくみ身を震わせる。

 しばらくして、教会のドアが開くとラルとリントが現れた。


「―――姫様、これは……」


「……ラルどうしよう。マグス、怒らせちゃった。なんで人間を殺したら悪魔なの?……解らない……あたし、解らないよ……」


 青ざめたラプラはうつむき加減で、身体の震えを両腕を抱き合わせ必死で抑える。

 ラルは冷酷な顔をしラプラを抱きしめこう言った。


「……姫様は間違った事は致しておりません。姫様の判断はいつでも正しいのです。マグスは所詮傭兵、なんら苦悩する事はありません。その為に我々が居ます。……リントよ。死体の処理をする。手伝え」


「うん……わかったのだ……」


 リントの目線は机や床に横たわっていてる、動かない子どもたちに向けられていた。

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