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朝の挨拶 お題†懐中時計 お題提供者†しろう

 野鳥がけたたましいほど鳴く朝。

安野先生の学級の7人、全員が早起きだ。

(はじめ)は自分の散歩する散歩道があり、1人で出かける。乙彦(おとひこ)は歌の練習のために、学舎の庭にある東屋の側までいく。留衣(るい)は各学年で一頭ずつ、飼育されている馬の世話をしに厩舎に向かう。美環(みわ)は朝の写生を。右京(うきょう)は写真機の点検を、今日も素敵な写真が撮れるようにと、心をこめて。遠音(とおね)は軽く走りながら。双一(そういち)は朝の食事の準備のことを考えながら。

 学舎は朝焼けに包まれて、いつもの学舎とは趣を違えていた。双眼鏡を手にして鈴川の畔に1人出かけた哉は、7人ではない静けさと淋しさに浸るのだ。

 野鳥は鳴き朝の新しさが、一層際立つのだった。野鳥の鳴き声と、自分の歩く足音だけが耳にとどく。 

「縦笛無くしたのだれ? 哉くん。哉くん、どうして縦笛無くしたの? 」

「先生、貴女には話したくありません。ぼくは今から、貝になります」朝の空気の中で、忘れたはずの過去が蘇っては消えていく。『あの時、先生は心からぼくを許してくださったのだろうか? 』哉は1人、苦笑した。『先生、ごめんなさい』心の中で声にしてみる。すると、現実の朝に引き戻される。 鈴川の堤に着くと、林檎の樹に止まって歌を唄うように鳴いている鳥を、双眼鏡で覗いた。哉は

「おはよう」

を言いながら

「pip.pip」

と、別れの挨拶もしていた。留鳥には、朝の挨拶を。そして、渡って行く鳥には

「さようなら。ご機嫌よう」

を意味する、pip.pipを言うのだった。哉は渡って行く鳥たちに挨拶がきちんと出来たら、その1日が実り多いものになるような気がした。 今度は、堤伝いに歩いてカモミールが香るなだらかな丘に出た。夏の間、カモミールの芝生は、裸足で歩く生徒たちの足の火照りを鎮めた。哉は芝生の上に寝転んでみた。これから、芝生の上を歩いたり、芝生刈りをすれば、香りはもっと強くなるだろう。哉はつぶやいてみる。「ウィリアム・モリスの家の庭、赤い小鳥におはようを」 どこからか飛んできた鳥がギィギィと鳴いて、哉は我に返った。内ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認した。

「もう、こんな時間だ」

哉は起き上がり、双眼鏡を覗いた。ギィギィと鳴く鳥は、どこにも見当たらなかった。哉は自分の部屋へと戻る道を辿った。そして、今日も1日、皆が大切なことを見つけられるといいと願わずにいられなかった。 Fin

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