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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Goodbye darling

作者: たなか

誤字脱字の指摘大歓迎です。









「久しぶりだね」


半年ぶりに彼女に挨拶をし、しゃがんだ。

今日は日差しが強いのでキャップを被ってきた。

彼女の好きだった阪神のそれは、2003年に優勝した時に一緒に買ったものだ。

「似合わないね」と君は笑うだろうな。

お腹を抱え、やや低い声で「アハハ」と豪快に笑う姿を思い出す。

何も言わず、ただじっとしている彼女に話しかける。

「本当に君は規格外な人だったよ。

まったく筋の通っていない理論を、得意げに話すし。

顔が派手な割に服は地味で、

スーツ以外の時は「動きやすいから」といつも履き古したスニーカーだし。

そうそう、公園でキャッチボールをしてたら、

君が暴投して近所の家の窓を割って、二人して叱られたこともあったね」

過去であるそれらは、今でも最初から最後まで鮮明に思い出せる。

君は惚けて「そうだったけ」と忘れたふりをするんだろうね。

線香と彼女の好きだった駅前の洋菓子のお店のシュークリームを供える。

喜んでくれるといいな。

君が先に死ぬなんて、今でも信じられない。

あんな約束をしたからかな。








○○○3年前○○○







――セー太。もしセー太が先に死んでも、わたしはこの部屋に帰ったら「ただいま」って言うね

――なんだよそれ。縁起でもない

――アハハ。もしもだよ、もしも。でも、もしもわたしが先に死んだら「ただいま」って言わなくていいよ

――だから縁起でもないこと言うなよ。というか、なんで僕は言わなくていいわけ? 意味がわからない

――だって、わたしはセー太以外に好きになれないけど、セー太は違うじゃん

――はぁ? ほんと理解不能。いつものことだけど。僕だって君以外好きにならないよ

――ううん。セー太は大丈夫だよ。だって、頭いいじゃん

――だからそれ理由になってないから。もうこの話終わろう。頭痛くなってきた

――じゃあ約束だよ。絶対ね

――はいはい



その二週間後、彼女は死んだ。

交通事故だった。よくある信号無視が原因だ。

そしてよくあることらしく、彼女は帰らない人となった。

当時の僕は信号無視をした車の犯人を恨んだ。

そう殺したいほどに。


しかし判決は無期懲役。

納得はしなかった。死刑にならないとわかっていたけれど、やるせない。

君は人生を奪われたしまったというのに、犯人はたった十数年の間刑務所に入るだけだ。

それなら、いっそこの手で殺そうかと思った。

結局、君はそんなことしても喜ぶどころか、激昂するだろうと思い、止めた。

それからずっと、僕は心に霧がかかったかのようにぼんやりしていて、

そんな僕を取り残すように、時はすぎていった。

僕たちの部屋に帰ると「ただいま」と言い、位牌の前で過ごすのが習慣となった。

窓の外を眺める。最近ずっと雨だ。

それが僕の憂鬱に拍車をかける。

そんな時ふと、君が大事にしていた写真立てが目に入る。

無理を言って残してもらった、唯一の形見だ。

中にあった、二人が笑っている写真を抜き取る。

すると、裏に挟まれてあった紙が落ちてきた。

折りたたまれたそれは、彼女のものだろう。

セー太へ、と書いてある。

紙を開くと、彼女の字で「まぁ元気出して。明日へ向かって今日を生きてよ」と短く書かれていた。

本当にこれだけか、と何度も読み返したが、本当にこれだけだったので、

呆れを通りこして笑ってしまった。

「君にはかなわないな」心底そう思った。

そしていつの間にか外の雨もあがり、日の光が窓から降ってきた。

同時に僕の心も晴れて、生きる気力を取り戻した。




結局ぼくは最後まで君に頼りっぱなしだったわけだ。

まぁそのおかげで、今のぼくがあるのだけど。


「君との約束、ずっと破り続けてきたけど、それも今日で終わりにするよ」


墓石に刻まれた彼女の名前を見る。

もう呼ぶことのない、今は亡き君の名前。



「今さ。社内で僕のこと好きだっていう女性がいるんだ。君とは違ってお淑やかなタイプだよ」


「余計なお世話」と憤慨する君の姿が浮かぶ。

思わず笑いが込み上げてくる。


「彼女と付き合うことにしたんだ。だからもうここには来ないよ。先に進みたいから、ね」



さよなら、と手を振る。そして、ありがとう、と。

先ほどまで風一つなかった墓場に、突然激しく風が吹いた。

それはまるで、彼女が「いってらっしゃい」と言っているようだったので、

僕はまた笑って「いってきます」と、返事をした。

















なんとなく思うがままに書いてみた。

公開はしている。

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