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一人百物語 動物編

スイスイと

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/18


以前勤めていた職場に、事務担当の園山さんという女性が入社してきた事があった。

昼休みになり、私や他の社員たちは職場のテーブルで昼食を食べながら園山さんと雑談をしていた。

正面に座る園山さんをふと見ると。

テーブルの前に座る園山さんの前に…つまりはテーブルの天板に。

にょっきりと茶色の尻尾が出現していた。

それは中型犬の尻尾くらいの大きさで、日本犬の様な巻き尾ではなく、洋犬や雑種犬によく見られるピンとまっすぐな“差し尾”と呼ばれる尻尾だった。

その差し尾の尻尾だけが。お弁当を食べている園山さんの前の、テーブルの天板に生えていた。

(……?)

私は自分の目がどうかなったのかと思った。

しかしもう一度見直しても、茶色の尻尾は園山さんの前に生えてる。

そして私が見つめている中、尻尾は天板の上をスイスイと渡り、私の近くまでやって来るとくるりと向きを変え、また園山さんの前へと戻って行った。

私と園山さんの間の天板は幅1メートルと少し程で、繋ぎ目は無い。一枚もののテーブルの天板である。

尻尾だけの存在がテーブルの上をスイスイと渡ったというのに、園山さんも、他の人たちもそれに気付いていない様で、みな口々に談笑しお昼を食べている。

それに

(ああこれは)

と私は思い

「ね、園山さんは何か動物を飼ってますか?私は動物が好きで犬を飼ってるんですよ」

と言ってみた。するとその言葉に園山さんは

「ええ、うちもちょっと前まで犬を飼ってたんですよ。うちの子たちが拾ってきた雑種の犬でしたけど。でもこないだ老衰で死んじゃったんです。もう悲しくて」

「……」

「ああ、写真持ってますよ。うちの子たちと写ってるの」

そう言うと園山さんは持っていた鞄をゴソゴソとして定期入れを取り出し、私たちに見せた。

定期入れの中には。にこにこと笑う二人の小学生くらいの男の子と、茶色の雑種らしき中型犬が写った写真が入っていた。

犬の尻尾は差し尾だった。

写真を見せる園山さんのそばには依然として茶色の尻尾があり、ピラピラと尻尾を振った。



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