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Fランク荷物持ちのバズりキャンプ飯 〜無能と追放され最深部でヤケクソ配信したら、ラスボス神獣が餌付けされました〜  作者: 伊達ジン


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第24話 超絶セレブの初体験、ジャンクな深夜ラーメン

 深夜二時。

 深淵の迷宮の最深部は、青白い発光苔の仄かな光に包まれ、水を打ったような静寂に支配されていた。

 エミリア、ユジン、籐子、久美子の四人はそれぞれのテントで深い眠りについており、ハクもかまどの灰の暖かさを背に受けて丸くなっている。


 俺は一人、静かにかまどの火を細く維持しながら、大きな寸胴鍋の前に立っていた。


「そろそろいい頃合いだな」


 鍋の中では、豚の背脂がトロトロになるまで煮込まれている。

 昼間のバーベキューで余った豚肉の端材や、久美子が調達してきてアイテムボックスに眠っていた未知の魔獣の骨を、ネギの青い部分や生姜と一緒に数時間かけてじっくりと煮出し、濃厚な動物性のスープを取っていたのだ。

 スープの表面には、分厚い油の層がギラギラと輝いている。


 明日の昼飯の仕込みを兼ねた作業だったが、立ち昇る豚骨特有の野蛮で強烈な匂いを嗅いでいるうちに、俺の胃袋がどうしても「アレ」を求めてしまっていた。


 深夜の、背脂ニンニク醤油ラーメン。


 探索の疲れを癒やすため、あるいはただの背徳感を味わうために、男の胃袋が定期的に欲する悪魔の食べ物だ。


 俺はアイテムボックスから、自家製のちぢれ太麺と、特製の醤油ダレを取り出した。

 醤油ダレは、チャーシューを煮込んだ際のタレに、昆布とシイタケの旨味を凝縮させ、さらに大量のすりおろしニンニクを溶かし込んだ劇薬のような代物である。


 別の鍋で湯を沸かし、麺を投入する。

 並行して、深めのラーメン丼に醤油ダレを注ぎ、寸胴鍋から白濁した熱々の豚骨スープを網で濾しながら流し込んだ。


 ジュワァッ!


 タレとスープが混ざり合った瞬間、むせ返るようなニンニクと豚骨の香りが、夜の澄んだ空気を一気にジャンクな熱気で塗り替えた。

 茹で上がった太麺をしっかりと湯切りし、スープの海に沈める。

 トッピングはシンプルかつ過激だ。極厚の炙りチャーシューを二枚。モヤシとキャベツをサッと茹でたものを山盛りにし、その頂上に、寸胴鍋でトロトロになった豚の背脂を、お玉でたっぷりとチャッチャと振りかける。

 仕上げに、刻みニンニクを追加でひとさじ乗せた。


「よし、完璧だ。背脂ニンニク醤油ラーメン、マシマシ」


 俺は割り箸を割り、立ち昇る湯気に顔を近づけた。

 深夜という時間帯のスパイスも相まって、視覚と嗅覚からダイレクトに脳の報酬系が刺激される。


「いただきます」


 まずは、レンゲでスープを一口すする。

 豚骨の濃厚なコクと、背脂の突き抜けるような甘み。そこに、エッジの効いた醤油ダレの塩気と、生ニンニクの強烈な辛味がガツンと襲いかかってくる。

 上品さなど微塵もない。ただひたすらに、食欲を満たすことだけを目的とした、圧倒的でジャンクな旨味の塊だ。


 たまらず、箸で太麺を持ち上げ、モヤシと一緒に一気にすする。

 ワシワシとした歯ごたえのある麺に、背脂とスープがネットリと絡みつき、咀嚼するたびに口の中に小麦と豚の旨味が弾け飛ぶ。


「美味い……っ」


 俺が無心になって麺をすすり、二口目のチャーシューにかじりつこうとした、その時だった。


「……こんな夜更けに、なんというテロリズムですの」


 背後から、静かだが震える声が響いた。

 振り返ると、俺たちのキャンプサイトの隣にそびえ立つ、超豪華な特大テントの入り口に、一人の女性が立っていた。


 クロエだ。

 彼女は最高級のシルクで設えられた、ネグリジェの上に薄手のガウンを羽織っただけの無防備な姿で、俺の持つラーメン丼を血走った目で凝視していた。


「クロエか。悪い、匂いで起こしたか?」

「当たり前ですわ! わたくしのテントの最高級の空調システムすら突破して、こんな……こんな下品で強烈な香りを送り込んでくるなんて!」


 クロエはツカツカと足音を立てて俺の前に歩み寄り、キャンピングチェアの背もたれを強く掴んだ。

 彼女の美しいダークスキンの肌は、怒りなのか、それとも別の理由からなのか、微かに上気している。


「あのバーベキューの日の豚キムチで、わたくしの舌はジャンクな味の虜になりかけていましたのに……なんとかフレンチの誇りで耐えていたというのに、夜食にまでこんな強烈なものを持ち出すなんて卑怯ですわ!」

「いや、お前を起こすつもりはなかったんだ。ただ俺が食いたかっただけで……」


 俺が弁明し、再び麺をすすろうとした瞬間、クロエの手が俺の腕をガシィッと掴んだ。


「だ、誰が一人で食べろと言いましたの! これだけ匂いでわたくしの胃袋を刺激しておいて、一人で抜け駆けする気ですの!?」

「いや、深夜にこんなもん食ったら、お前の気にしてる美容とやらが……」

「美容より今は食欲ですわ! さあ、早くわたくしにもその……『らーめん』? をお出しなさい!」


 クロエは俺の隣のキャンピングチェアに座り込み、ドンッとテーブルを叩いて要求した。

 その瞳は完全に、未知のジャンクフードに対する抗いがたい好奇心と、深夜の空腹感に支配されている。


「……後で胃がもたれても知らないぞ」


 俺はため息をつきながら、アイテムボックスからもう一つの丼を取り出し、手早く二杯目のラーメンを作り上げた。

 クロエは箸の使い方がまだ不慣れなため、フォークとレンゲを添えて彼女の前に丼を置く。


「お待たせ。背脂ニンニク醤油ラーメンだ」


 丼が置かれた瞬間、クロエはフォークを持つ手を止めて息を呑んだ。

 真っ白な背脂が雪のように降り積もった、茶色く濁ったスープ。山盛りの野菜と、分厚い肉の塊。

 豚キムチ以上の、罪深いまでのビジュアルだ。


「……なんという、洗練の欠片もない見た目ですの。豚キムチの時も驚きましたけれど、これはそれ以上ですわね」

「見た目はな。でも、食えばわかるさ」


 クロエはおそるおそるレンゲを手に取り、背脂の浮いたスープをすくい、ふーふーと冷ましてから、少しだけ口に含んだ。


「…………っ!?」


 次の瞬間、クロエの肩が大きく跳ねた。

 彼女の端正な顔立ちが、驚愕に見開かれ、そのままカッと熱を持ったように赤く染まっていく。


「な、なんですの……この、脳を直接殴りつけてくるような旨味は……っ!」

「だから言っただろ、ジャンクだって」

「豚キムチの時も思いましたけれど……これ、本当にヤバいですの! 豚の脂の暴力と、ニンニクの刺激が、わたくしの理性を強引に剥がしにかかってきますの……っ!」


 クロエは震える声でそう叫ぶと、もはや上品な所作など完全に捨て去り、フォークで太麺を強引に巻き取って大口を開けて頬張った。


 ズズッ、ズズズッ!


「熱っ……! んんっ! 麺がすごくモチモチしてて、この脂たっぷりのスープと絡んで……もう、フォークが止まりませんわっ!」

「おい、クロエ。あんまり急いで食うと咽せるぞ」

「お黙りなさい! わたくしは今、集中していますの! あぁっ、このお肉、口の中でとろけましたわ! スープに溶け出したニンニクが、さらに食欲を……っ!」


 クロエはもはや、ただ深夜のラーメンという背徳の沼に頭まで沈み込んでいた。


 俺はそんな彼女の姿を苦笑しながら見つめ、自分のラーメンに戻った。

 深夜の静寂の中、二人分の麺をすする音と、丼の底にレンゲが当たるカチャカチャという音だけが響き続ける。


 数分後。

 クロエは、丼の底にわずかに残ったスープをレンゲですくい、名残惜しそうに飲み干すと、ふぅぅ……と深く、深く息を吐き出した。


「……負けましたわ」


 彼女は背もたれにぐったりと寄りかかり、天を仰いで呟いた。

 その表情は、極限の運動を終えたアスリートのような、深い疲労感と圧倒的な満足感に満ちていた。


「あの豚キムチで一度破壊されたわたくしの理性が、このたった一杯のラーメンで完全に粉砕されましたわ……。こんな、罪深い食べ物が、この世に存在してよかったんですの……?」

「大袈裟だな。ただのラーメンだぞ」

「ただのラーメン……。ヒロト、貴方は本当に恐ろしいシェフですわ。わたくしをこんな身体にしておいて、知らん顔だなんて」


 クロエはガウンの襟元を少しだけはだけさせ、上気した顔で俺を色っぽく睨んできた。

 セリフだけ聞けばとんでもない誤解を生みそうだが、彼女の口の周りにはまだ微かに背脂のテカリが残っているため、いまいち締まらない。


 俺は笑いながら、アイテムボックスから冷たい烏龍茶を出して彼女の前に置いた。


「ほら、口直しだ。これ飲んで、さっさと寝ろ」

「……ええ、そうさせていただきますわ。でも、ヒロト」


 クロエは烏龍茶を一気に飲み干すと、俺に向かって不敵な笑みを浮かべた。


「明日の夜も、わたくしが寝る前に、必ずこれを一杯、テントまで運びなさい。わたくしの専属シェフとしての、最初の命令ですわよ」


 フランスの超絶セレブ令嬢は、深夜のジャンクフードという抗いがたい快楽を完全にインプットされ、満足げに自分の城へと戻っていった。


 俺は空になった二つの丼を眺めながら、残ったスープを飲み干した。

 ニンニクの強烈な余韻が口の中に残っている。

 明日の朝、エミリアやユジンたちが起きてきた時、この匂いをどう誤魔化すか。俺は少しだけ頭を悩ませながら、かまどの火の始末を始めた。

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