第9章 白の奇跡
湖の光はますます強さを増し、ブレスレットの六色を照り返していた。
赤、青、黄、紫、橙、緑──集めてきたすべての輝きが、今この場所に集約されている。
そして、まだ満たされぬ“ひとつの色”が静かに呼び覚まされる。
白。
「ついに……来るぞ!」
肩の白い鳥がバタバタと羽ばたき、興奮気味に叫ぶ。
「いや、あんたが一番落ち着いて!」
「無理だ! クライマックスなんだ! 観客全員が立ち上がるやつなんだ!」
(観客って誰……?)
ツッコミを心に留めつつ、私は湖へ歩み寄る。
その瞬間──。
ブレスレットが強く脈動し、白い光が解き放たれた。
六色はすべてその光に溶け込み、七色の輪となって空へと昇っていく。
湖面が大きく波紋を広げ、やがて白い光の筋が町の方角へと走った。
「……あれを見ろ!」
誰かの叫びに、人々が一斉に振り返る。
遥か昔に水を失った泉。
長い間沈黙していたその泉から、水音が響き始めた。
ゴゴゴ……と大地が震え、やがて透明な水がこんこんと湧き出す。
「泉が……戻った!」
歓声が夜空に広がる。
失われていた神秘の湧き水が、再び町を潤し始めていた。
その光景を背に、白い鳥の姿がゆっくりと変わっていく。
羽が広がり、七色の光が一枚ごとに重なり合う。
すべての色が鳥の羽に溶け込み、やがて全身が虹のようにきらめいた。
「私は……七色を受けて、本来の姿に還ったのだ」
その声はもう、ただのボケ好きな鳥ではなく、
町を見守ってきた“神秘の鳥”そのものの響きを持っていた。
「え…?」
思わず漏れた私の声に、鳥は小さく笑ったように見えた。
泉から湧き出す清水が町を潤し、空へ伸びる七色の光が大地を包む。
町の人々は拍手を送り、歓声を上げていた。
その笑顔は、七色の光に照らされてさらに明るく見えた。
──こうして、七色の奇跡は完成した。
鳥は真の姿を取り戻し、泉は再び命を育んでいく。