ep.8
きっとみんな限界だった。
現実があまりにも残酷過ぎてこれは悪夢ではないのかと疑わずにはいられなかったのだろう。
この町の人たちは裕福ではなかったが、みな逞しく生きていた。
異国から来た私でさえも快く迎え入れてくれた。
強く生きる彼らに、この町に惹かれ私はここに定住を決めたのだ。
彼らにもらったたくさんのものを少しでも返したかった。
私はこの町が好きだ。
私は彼らが好きだ。
それは今でも変わらない。
この呪いを悪夢を終わらせることができるならば、命など惜しまない。
あぁ、でも、せめてシューカが無事かどうかだけでも…。
目を開いてみえた景色はほんの少ししかだけだったが、半壊した教会を背に木に括り付けられているのが分かった。
足元には針山のように積まれた木々が見える。
その周りを町の大人たちが輪になるように囲んでいた。
男が一歩中に歩み、松明を掲げる。罵声と怒号が沸き立つ。
掲げた松明は足元の木々の中へ放り込まれた。徐々にパチパチと音をたて炎が移っていく。
みんなの憎しみも苦しみも全て私に移ってくれないだろうか。
視線を上げる。憎しみの越えた暗闇から何かが炎に照らされ、チカチカと光っている。
暗闇から少し明るい場所に一瞬出てきたその影は、あちこち汚れてしまっていたが、私の可愛い娘だった。
再度暗闇に引きずり込まれていく。娘の後ろに懐かしい人影がみえた。
よかった。間に合った。
これでもう何も心配することはない。
シューカはきっとひどい母親だと思っているだろう。
それでもどうか幸せであってほしい。
最後に、いつか…あなたに伝えたかったことを…。
師匠、ごめんなさい。あなたとの約束、破ってしまいます。
熱も痛みももう感じない。
薄れゆく意識の中、唄を歌う。
『ー暗闇の丘 風に靡く稲穂
灯る月 愛しきは儚く散る者
たゆたえ巡りゆらゆらとー』
燃え盛る炎に交じり、青白く光る蝶々が一斉に舞いだす。
足元には白い稲穂があたり一面に咲き乱れ、その異様な光景に町の人たちは怯えだした。
炎の中から聞こえる歌声は、しばらくやむことはなかった。
シューカ、シューカ…。
あいしてる だいすきよ
わたしのたからもの
火が燃え尽きた頃、闇は消え失せ、水平線から朝日が昇り始めていた。




