ep.31
朝からもう何枚の書類に目を通してきたのか覚えていない。
いつもならば、涼訵が半分ほど受け持つはずなのだが仕事で今はいない。
ふぅ、と息を吐き、窓の方へと視線を移すと空を飛ぶ鳥の群れが遠くに見えた。
ぼんやり眺めていると、群れの一羽が徐々にこちらへと降下してくる。
嫌な予感がする。
鳥は窓の淵に足をつくと同時に一枚の紙へと変わり、ひらひらと床に落ちた。
拾い上げ、ざっと目を通す。
深くため息をつき、紙を小さく折り畳み二つに裂こうとした時だった。
部屋の戸を軽く叩く音が聞こえ、綺麗な澄んだ声がした。
持っていた紙切れを机の上に放り投げて、扉に手をかけた。
みづくの言っていた祭りは数日後に行われるらしく、下町は準備に追われている様子だった。
大通りから細道に入ると資材置き場が見えてくる。
妖怪たちはそこでせっせとせわしなく働いていた。
「この時期の市場は少し活気が物足りなく感じますが、祭りにはドーンと盛り返すんでな。」
少し年老いた鬼は豪快に笑い、涼訵たちにほれほれと小さい盃に入った透明な液体を進めてくる。
涼訵と千陽はくいっと一気に飲み干すが、レイは口を付けようとしている胡渡の盃を取り上げ涼訵に渡した。
「胡渡は絶対だめ。」
胡渡は飲み干す涼訵を羨ましそうに眺めていた。
「悪い悪い、お前さんたちには早かったか!人間の年はいくつになってもわからん!」
はははと笑う鬼に涼訵が声をかける。
「その子らは酒が得意でなくてな。ところで、熟守。先ほど言っていた場所に案内をお願いしたい。」
「おうよ。しかしな、ちと遠いもんで案内は別の者に任せる。」
しばらく麓の鳥居で待っているとおおきな鳥が目のまえに降りてきた。
人のような顔に鋭く尖れた嘴がついていた。
体は羽毛で覆われており、長い尾に近づくにつれ蛇のような鱗がびっしりとはえている。
ぎょろりとした目でこちらは見下ろし、時折首を左右に傾げている。
「これ…に乗るんですか?」
レイは少し震えている手で目の前の怪鳥を指さした。
「その通り!移動にはこいつが便利でな!」
「あぁ、夢なら覚めて…。」
熟守に聞こえないような小声でぼそりと呟き、渋々鳥の背に装着された籠へと乗り込む。
「ドコマデ?ドコマデ?」
片言の言葉で怪鳥が喋り出した。
熟守が行先を伝えると、怪鳥は体の倍はある黒い翼を大きく羽ばたかせ空へ舞い上がった。
怪鳥の背は存外快適で、空から見る丹波国は夜灯りがちらちらと揺れていて綺麗だった。
「イツマデ、イツマデ」
不気味な声色でずっと繰り返し鳴いている怪鳥は城の反対側へと降り立つと、どこかへと飛んで行ってしまった。
辺りは暗く、灯りは熟守が持っている提灯のみだった。
迷いなく前を進む熟守が立ち止まり、前方に明かりを伸ばす。
「ここが先ほどの場所だ。」
灯りに照らされ、無数の糸のようなものが幾重にも絡まりきらりと反射しているのが見えた。




