ep.2
薄く霧がかった町並みが昇ってきた朝日に照らされて、きらきらと輝いて見える。
綺麗だねと胡渡に微笑みかけながら、千陽が呟いた。
霧の向こうからこちらに向かって走ってくる人影が見える。
「ごめん!少し寝坊しちゃった!」
「昨日帰ってきたばかりだから疲れてたんだよ。さぁ、出発しようか。」
三人は受付で通行証をみせ、転送門をくぐる。
レイは先導してゆったりと泳ぐ真っ赤な魚をじっと見ている。
周りは真っ暗で魚の周りがほのかに明るいのと足元がかろうじて見えるくらいだ。
「ここ何回通ってもやっぱり慣れないんだよね…。」
「ちょっとわかるなぁ。灯りといったら道案内してくれてるこの子だけだからね。」
「足元なんて、水たまり歩いてるみたいだし。いつか沈みそうで…」
「レイ、そんなにくっつかれると歩きにくい。」
それでも彼女は、胡渡の腕にしがみつきながらあたりを見渡している。
少し歩くと前を泳いでいた魚がくるくるとその場で旋回し始める。
そのまま花が散るように魚は消え、目の前に扉が1つ現れた。
千陽が扉を押し開ける。
三人が入ると扉はそっと閉まり、風船が破裂したようにパッと消えた。
扉の先はどうやら小さなレストランらしく、中年のウェイトレスが声をかけてきた。
「いらっしゃい。三人かい?」
「そうです。あの待ち合わせをしているのですが…」
「あぁ、それなら一番奥のテーブルで待ってるよ。」
ウェイトレスは店の奥を指さして、別のテーブルへ注文を取りに行った。
早朝にしてはちらほらと客の姿が見えるが、奥の方は依頼者だけみたいだ。
テーブルや椅子をよけながら奥の方に進むと、年季の入った茶色の椅子にちょこんと腰かけた少女の後ろ姿が見えた。
千陽が声をかけると少女は勢いよく立ち上がった。
「あ、あの、はじ…はじめまして、しゅ…シューカといいます!」
深々とお辞儀をし、こちらを窺うようにゆっくりと頭を上げた。
「初めまして、ご依頼ありがとうございます。私は千陽、こちらが胡渡その隣がレイです。」
呼ばれた二人は軽く会釈をする。
それぞれ席に着き、注文したものが届き終わったころ、シューカが口を開く。
「噂でなんでも引き受けてくれる人たちがいるって聞いて、情報通のここの店主さんにお願いしたんです。本当に小さなことなので引き受けていただければいいのですが…」
少しうつむいた少女に優しい笑顔で千陽が答える。
「私たちができるだけ力になりますから、なんでも仰ってください。」
シューカは嬉しそうに顔をあげ、話を続けた。
「私、この町の少し外れたところで薬師をしているのですが、材料を調達するために町に出たり丘の方の森に入ったりすることがあるんです。あまり行きなれていなくてよく迷ったり…トラブルに巻き込まれてしまうことが多くて…。」
「トラブル?」
「えっと…迷わないように目印になるようなものを置いたりしてたんですけど、いつの間にかなくなってるとかよくあって。ま、まぁ、私ドジなんで、そもそも目印まで戻れていないことも多いと思うんですどね。」
シューカは困ったように笑う。
「こういうトラブルは慣れっこなので、別にいいのです。でもここ最近、迷ったりすると助けてくれる人がいて。あ、毎回同じ人で声も聞いたことないんですけど、森の出口まで案内してくれたりとにかくすごく親切にしてくれて、けど家の近くに着いた頃にはもういなくなってるんです。」
「え…幽霊?私ホラーはダメって言ったじゃん。」
レイはこそっと千陽に耳打ちした。
千陽はにっこり微笑んだまま、レイの腕を軽くつねった。
「いたっ!ちょっと!」
「シューカさん、続けてください。」
シューカは二人を交互に見ながら小さい声で返事をした。
「その、お礼がしたくてその人を探していたんですけど見つからなくて、ここの店主さんにも聞いたんですが町でそんな人見かけたことがないって…もしかしたら町にたまに来る商人の人たちなのかもと思って聞いたのですが心当たりがないみたいで。それで、あの、その人を探してほしくて。」
「なるほど。名前とかわかりますか?」
「それが名前も知らなくて、いつも後ろをついて歩くだけで会話をしたことがないんです。」
「じゃあ、特徴を聞いてもいいですか?」
シューカはうーんとうなりながら聞かれた質問に答えていった。




