ep.27
次の日いつもの場所に行くとすでにアセトがいた。
声をかけようとしたが、彼女の陰に隠れるようにぴったりと引っ付いている人影が見え躊躇した。
こちらに気づいた彼女は、やぁと手を挙げる。
「貴様まさかその小娘を身代わりにするつもりではないな?」
アセトは笑いながら、隣にいる小さい背をバシバシ叩いている。
「申し訳ない、一人で来るつもりだったのだがこの子が着いてくると聞かなくてな。」
彼女の横でこちらをじとっと睨む少女が獣のように唸っている。
アセトはその少女の頭をわしわしと撫でた。
「心配性でな、見届け人と思って許してくれ。」
しぶしぶ了承し、彼女の前に斧を一本落とした。
「おっと、危ない。随分と物騒なもの持ってきたな。」
「それは貴様のだ。貸してやる。」
普通の物より倍はあるであろう斧を私はひょいと担ぐ。
周りには野次馬たちが集まり始めていた。
「決まり事は簡単だ。どちらかがこの斧を手から離すか、参ったと言わせるまでだ。そもそもそれが持てればの話だがな。」
周囲の暗闇からせせり笑う声が聞こえる。
アセトはふう、と息を吐き斧を片手で軽々と肩に担いだ。
「思ってた力比べと違ったが…これでいいかい?」
「これは面白くなりそうだ。早々に壊れてくれるなよ。」
久々に楽しめそうな予感に胸が躍る。
アセトはそばにいた少女を野次馬達に預け、私の正面に立つ。
「さぁさぁ、力を振おうぞ!!!」
開始の合図が暗く落ちた山にこだまする。
私が斧を振り下ろす度に周辺の木々は薙ぎ倒され、木片が飛び土煙が立ち込める。
仕掛けてくる様子もないアセトはそれらを舞うように軽い足取りでかわしていく。
いったい何時間、同じ様なやり取りを繰り返しただろうか。
いつの間にか山の反対側まで来ていた。
私は少し立ち止まり呼吸を整える。
山は霧が出だし少し視界が悪くなってきた。
アセトの香の匂いを辿ると、彼女の姿がぼんやりと見えた。
人である彼女は私以上に視界が悪いはず。
これは好機。
勢いをつけ、アセトに飛び掛かる。
振り返った彼女は初めて斧で受け止めたるが、衝撃に足元が崩れる。
その時、彼女の後ろが崖になっていることに気づいた。
勢いよく振り下ろした斧と共にアセトが崖に落ちていく。
霧であまり見えないが確かここはそこが見えないくらい深いはずだ。
万が一にでも這い上がってくることはないだろう。
勝利を確信するこの瞬間が堪らなく好きだった、はずなのだが。
なんだ、この、やるせない気持ちは。
人なんていくらでも食らってきた、それ以上に殺してもきたはずだ。
今更後悔などするわけもない。
なのに、何故少し惜しいと思っているのか私には理解ができなかった。
濃い霧が深い崖に重くねっとりと落ちていくのを私は呆然と眺めていた。




