ep.26
気づけば私は家から離れた場所で座り込んでいた。
嗅ぎ慣れた鉄臭い臭いが鼻をつく。
視線を下ろすと、服も手もすべて血でべったりと汚れていた。
生ぬるい感覚が地に触れている足元からも伝わってくる。
辺りを見渡すとあちこちに人だったモノが無残に散らばっており、そこら中血で染まっていた。
ひどく疲弊していたが、何故か心はとても満ちていた。
水瓶で手を洗い口をゆすいだ時、水面に反射した鬼が自分だと気づいたが、さほど驚くこともなくその姿を受け入れた。
それからは食料が枯渇し始めると次の村を遅い、また次へと色んな村を襲って生きていた。
どこからか討伐の命令を受けた術師らが幾度も奇襲をしかけてきたが、全て返り討ちにした。
その噂を聞きつけた妖怪が力比べを挑んできたこともあった。しかし、どんな相手でも私は負けることなど一度もなかった。
敗退した妖怪たちはまるで信者のように私をよく慕った。そやつらを従え、住処に選んだのがこの山だった。
妙な噂を耳にした。最近やって来た術師が襲うわけでもなく毎晩山に入ってきては見かけたヤツに話しかけ私の事を聞きまわっているらしい。
私はそいつがよく現れる場所で待ち伏せをし、少し遊んでやろうと企んだ。
草木の擦れる音が聞こえ、人が歩いてくる。
後ろからそっと手を伸ばし背中に爪をたてようとしたが、そやつらくるりとこちらを振り返った。
ツバの大きい帽子を深く被っていたため表情はよく分からなかったが、術師は一瞬静止しすぐに嬉しそうに口元を緩めた。
「やっと会えた!!いやぁ、誰に居場所を聞いても知らないの一点張りでね!」
背の高い女は両手で私の手を取りブンブンと激しく振りながら少し興奮気味に話している。
「私の名はアセト。君と話してみたくて探し回っていたのさ。」
「どうせ、貴様は我々を殺しにきたのだろう。」
「依頼主は確かにそうしてくれと言っていたけど、鼻からそうする気など微塵もなくてね。」
私はとうとう狂った奴をよこすようになったのかと少し憐れみさえ感じた。
最近はこの山を訪問する者もいなくなり暇を持て余していた。
まぁ暇つぶしくらいにはなるかと、しばらく術師の戯言に付き合ってやることにした。
その日から毎日私のところに来てはしつこく話かけてくるようになった。
アセトはよく笑うさっぱりした芯のある女だった。
彼女の話は以外にも面白く他国を知らない私はいつの間にか興味津々で聞いていた。
色々な国々を渡り歩いてきた彼女の話を行こうと、いつしか他の輩も集まりだした。
毎日月が夜空の真上に上がるまで、大勢の妖怪がわらわらと集まり彼女の話を今か今かと心待ちにしていた。
いつものように話終えると、皆はさっさと解散し気づけばアセトと二人っきりになっていた。
「なぁ、他の子達から聞いたのだが君はよく他所の妖怪達と力比べをして遊んでいるんだろう?私もそれやってみたいんだがいいかい?」
非力な人では勝ち目がないからやめておけと忠告したが、彼女が食い下がることはなかった。
「私が負けたら煮るなり焼くなり好きにしてくれていい。だがもし、私が勝ったら私の友人になってくほしい。」
「貴様はどうしようもない阿呆なのだな。」
アセトはそうかもな、と楽しそうに笑っていた。




