ep.25
みづくはピシャリと扇を閉じ、胡渡に視線を移す。
「そこの術師、この部屋の音が漏れぬよう結界を張れるかの?」
「可能だが、竹葉に感知されるのはいいのか?」
胡渡の代わりに涼訵が答える。
「構わん、頼むぞ。」
胡渡は頷くと両手を重ねて床へと着ける。
ふっと魔法陣が浮かびどこからともなく鉱物を叩くような音があちらこちらから聞こえだす。
襖や天井の所々に青と白が入り混じった宝石のような花が咲いた。
「ほぅ。美しい…。」
みづくは少しの間うっとりと術を眺め、気が済んだのか座りなおすと話を始めた。
「さて、依頼の話をする前に少し昔話に付き合ってもらうとするかの。」
この国が建国されるよりずっと昔、私がまだ人であった頃の話。
生まれた場所も親の顔も人の頃の名前すらも、もう忘れてしまったがこの記憶だけはよく覚えていた。
私は生まれた時から美しく、皆に蝶よ花よと育てられていた。
物心つく頃には、その異様な程の美貌からまるで神のように信仰するものまで現れた。
私にとってそれはとても心地が良く、そして都合のいいモノでもあった。
願えば何でも叶えてくれ、拒否されれば暴力をふるった。
止めるものなど誰もおらず、倫理観は徐々に崩れていった。
或る日、若い旅人が村に来た。
その男は村の事情を察すると、私に忠告をしてきた。
「これ以上罪を重ねると二度と後には戻れなくなる。引き返すならば手を貸してやる。」
私を好いた男にその生意気な男を処分させようとしたが、翌日にはどこかに消えてしまっていた。
男の言葉の意味を理解したのは暫く後だった。
月明りの眩しい夜にソレは急に現れた。
夜も更け込んだ頃私は眠れず縁側で夜風にあたっていた。
その時、視界の隅ので何やら黒くうごめくものが見えた。
始めは猫でも迷い込んだかと思ったが、それは次第に膨らんでいき人の形を成していった。
黒く血の塊のようなソレは徐々に顔を形成し、言葉にもならない音を発しながらゆっくりとこちらへ近づいてくる。
声を上げようとして気づいた。
体が石のように固まり、全く動かすことができない。
視線を逸らすこともできず、ただソレを見ることしかできなかった。
一人、また一人と顔が別のモノに次々と変わっていく。
少しずつ発していた声が聴きとれるようになり、何を言っているのかわかるようになった。
その声はずっと私を繰り返し呼んでいた。
一音発するごとに顔が変わっていくため、呼ぶ声は非常に気味が悪かった。
もうすぐそこ、手を伸ばせば届く距離まで迫ったソレが急に視界から消えた。
体も動くようになりほっとし、とにかくその場を去ろうと立ち上がる。が、
しかし何かに引っ張られ立つことができなかった。
足元を見下ろすと、目の前に無数の顔がついたソレと目が合い全ての口がにたりと笑い一斉に動く。
「「ドコマデモゴイッショイタシマス」」




