ep.22
「どぉぉぉちゃぐぅぅ」
うめき声のような声でゆっくりと大きい口が動く。
言いおわる前に中からひどく怒った声が聞こえてきた。
「大きい声で言うな!あと、あれほど鳥居を飛び越えるなと何度言ったらわかる!」
牛車の前方にかけられた簾が開き、中から頭に二本の角を生やした青年が降りてきた。
「すぅぅみぃぃまぁぁぁぁぜぇん」
「もっとはっきりと喋ろと言ったろう!まったく…。」
ぶつぶつ小言を呟きながら、青年は涼訵の方に向き直る。
先ほどとは違い、落ち着いた声色で話し始めた。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ない。私は醇守と申します。本日は遠方からわざわざ足をお運びいただき、誠にありがとうございます。城主の命でお迎えに上がりました。どうぞ中へお入り下さい。」
見た目は一人を乗せるのがやっとな程の小さい牛車だったが、中は思ったより広々としており全員が入っても余裕があるほどだった。
乗せ終えたのを確認した牛車はガタガタと揺れながら階段をゆっくりと上がり始めた。
「確か鬼の長って、とてもお強いと噂で聞いたのですが。」
「左様でございます。私の知り得る中で彼の方の右に出るものは誰一人として存じ上げません。皆が恐れ、敬うお方でございます。」
「そんな人……が私達に依頼なんて、何でもできそうですけど…。」
「仰る通り、本来ならば何も問題ないのですが…そちらの方はご存知でしょうが…おそらくご覧になられた方が早いでしょう。」
あまり納得のいっていない様子でレイはしぶしぶ頷いた。
外は日が落ち、牛車の前方につけられた提灯がぼんやりと暗闇を照らしていた。
「遅くに訪問して迷惑じゃないんですかね。」
レイは涼訵に小さい声で話しかける。
「ここは妖の国だ。着いた頃が私達でいう早朝のようなもんだ。これからが活動時間だから大丈夫さ。」
「夜の任務ですか……。胡渡、うとうとしちゃってますけど大丈夫ですかね?」
先ほどから静かな彼女の頭はゆらゆらと牛車の振動に、合わせて揺れている。
「じきに着く。それまで少し放っておけ。」
「私だったらすぐに叩き起こすくせに…」
ぼそっと小さい声でレイは呟く。
レイは涼訵に睨まれ、千陽の隣へそそくさと移動した。
「朧車に乗車している人数が多い故、もう暫く辛抱願います。私の事はお気になさらず、どうぞお寛ぎ下さい。」
時折、鐘の音のような音が響く森の中を、ゆったりと暗闇を切り裂くように朧車は進んで行った。




