ep.20
待っている間、レイはずっとそわそわと辺りを見渡していた。
「ね、ねぇ…もうすごく帰りたいんだけど…」
レイは消えるようなか細い声で千陽にすがる。
「大丈夫だよ。そのうち涼訵さんも戻ってくるからね。」
胡渡の方に助けを求めるが、彼女はすこし楽しそうに周りを見渡している。
レイは仕方なく諦め、座敷に腰かけ足をふらふらとゆらした。
しばらくして、盆を抱えた男が戻ってきた。
「すまん、すまん。遅なったわい。」
ほれ、と湯呑を一人一人の前に置いていく。
中には少し濁った緑色の液体が注がれていた。
「いただきます。」
千陽が躊躇なく湯呑に口をつける。
少し苦い、よく飲みなれた暖かい液体が喉を通る。
「おいしいです。」
「じゃろう?知り合いの自慢の茶畑で採れた茶葉やからの。」
レイは湯呑を見て、一呼吸おいてから恐る恐る口を付けた。
「あ、おいしい…。」
その言葉に男は嬉しそうに、クァクァと声を上げて笑った。
「茶菓子もあるからの。好きに食べぇ。」
男は壁にある無数の棚を一つ開け、中から煎餅やおかきを目一杯敷き詰めた木のかごを取り出し三人の間においた。
見た目は不揃いで歪だったが、味はおいしかった。
男は座敷よりさらに高い位置にある番台のような場所で、たくさんの書物のようなものを広げながら算盤を弾いている。
と、座敷の正面の扉がギィと音をたてて開く。
「遅くなった。お、やっと開いたか。」
「久しい顔がやっと来たわ。おまえさんが早ぉこんから、この小娘震え上がっとるでぇ。」
男はニタニタと尖った歯を見せながら、レイを指さした。
「それは、メドツ、お前が脅かすからだろう。」
「そりゃあ、違いねぇわ」
メドツはクァクァと腹を抱えて笑い出す。
「あまり脅かすとその頭の皿たたき割るぞ。」
「おぉ、こわやこわや。そういうなて。ほれ、涼訵の分だ。」
メドツはどこからともなく現れた湯呑を涼訵に渡した。
「レイ、こいつはいたずら好きなんだ。大目に見てやってくれ。」
レイは、ゆっくりとメドツに視線を移す。
「すまんのぉ、小娘。おどおどしてるやつ見ぃと、脅かしたくなるけぇの。」
メドツはニタニタ笑ってる。
レイは返事をせず、心の中で絶対この人には関わらないでおこうと誓った。
「さて本題に入る前に、お前たちこの国に来るのは初めてだな。」
「そもそも、外も見てないので何とも…。」
「ここからの依頼はうちでは受けていないから来たことないはずだ。」
涼訵は湯呑を置き、入口の扉の前で三人にこちらに来るように指示をする。
「なら、この国がどういう国なのかまずは観光と行こうか。」
涼訵が重い扉を押す。
ゆっくりと開いた扉の先の、明るい光に一瞬目が眩む。
目が慣れた三人は外に出て、周囲を一望した。
空には火の塊や人の顔のついた提灯、燃え上がる滑車、地には骸骨や体の倍ほどの大きさの顔を揺らしながら歩く者たち、他にもたくさんの人とは違う者たちで賑わっていた。




