ep.1
海岸から吹き上がる風が少女の短い髪をさらさらと通り抜ける。
あれから、もうひと月は経っただろうか。
丘の上に立つ教会が太陽に反射して神々しくも見えた。
教会から見下ろす町はいつもとかわらない様子で、何事もなかったかのようだった。
後悔がないとは言い切れないが、きっとこれでよかったのだろう。
私だけでも忘れなければそれでいいのだ。
きっと。。。
「只今、帰還しました!!」
ハツラツとした声が静かだった部屋中に響く。
「レイちゃん、おかえり。今回は早かったんじゃない?」
「いやぁ、イベントやっと収まってー」
レイは深くかぶっていた帽子をぽいっと放り投げ、乱れたピンクの髪をわしわしと整えた。
「それに集合かかってたじゃん?流石に行かないとかなぁって」
「ずっと参加してなかったからね。そろそろ涼訵さんに本業に専念しなさいって強制帰還されそうではあったね。」
レイは気まずそうに笑い、ずっと座って本を読んでいる少女の肩に手をかける。
「胡渡は元気?ちゃんと食べてる?」
本に視線を向けたまま、胡渡はこくりと頷いた。
そっかとわしゃわしゃと胡渡の黒髪をなでる。
ドアが開き、眼鏡をかけた女性がツカツカと入ってきた。
「集まったか。仕事の話をするぞ。」
帰ってきたばかりなのにー!と文句を言うレイを無視して話は進んでいく。
「今回は、人探しの依頼だ。依頼主の名前は『シューカ』港町に住む女性らしい。行先は、非魔法区域のため許可なしに使用しないこと。私は別件で同行できないが、問題が発生次第即報告すること。依頼内容の詳細については、現地で依頼主から直接聞いてくれ。以上、質問は?」
「出発は何時なんですか?」
「明日の早朝には出発してもらう。手続きはこちらで済んでいるので…千陽」通行書はお前が持っておけ。」
紐の先に鈴のような透明な球体が3つゆらゆらと揺れている、通行書をひょいと千陽に投げた。
「情報はスマホに共有しておく。依頼人には集合場所と時間は確認済みだ。くれぐれも遅刻をしないように。」
他に何かあるか?と続ける。
「何もないならこれで終わるが、お前たち焦らずきっちり務めなさい。」
それぞれの返事を聞いた涼訵は、さっと部屋を出ていった。
「人探しかー。なんか毎回いなくなったペットだの、買い出しを手伝ってほしいだの、なんでも屋みたいになってるじゃん。」
「まぁまぁ、人探しは初めてじゃない?それに、港町ってことは海が見えるよ!」
「海見たことない。」
「胡渡ないの!?それなら見に行くしかないかー!」
「いやいや、仕事だからね?忘れないでね?」
さっきまで全く乗り気ではなかったのに、今は嬉しそうに荷物の整理を始めている。
「さて、それぞれ準備もあるだろうし今日は解散しようかな。」
みなそれぞれの部屋に戻っていく。
静まり返った部屋を、夕影がほんのり照らしていた。




