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列国の秘史録  作者: sleet
有形無形
2/37

ep.1

海岸から吹き上がる風が少女の短い髪をさらさらと通り抜ける。

あれから、もうひと月は経っただろうか。

丘の上に立つ教会が太陽に反射して神々しくも見えた。

教会から見下ろす町はいつもとかわらない様子で、何事もなかったかのようだった。

後悔がないとは言い切れないが、きっとこれでよかったのだろう。

私だけでも忘れなければそれでいいのだ。

きっと。。。




「只今、帰還しました!!」

ハツラツとした声が静かだった部屋中に響く。

「レイちゃん、おかえり。今回は早かったんじゃない?」

「いやぁ、イベントやっと収まってー」

レイは深くかぶっていた帽子をぽいっと放り投げ、乱れたピンクの髪をわしわしと整えた。

「それに集合かかってたじゃん?流石に行かないとかなぁって」

「ずっと参加してなかったからね。そろそろ涼訵(スズチ)さんに本業に専念しなさいって強制帰還されそうではあったね。」

レイは気まずそうに笑い、ずっと座って本を読んでいる少女の肩に手をかける。

胡渡(コト)は元気?ちゃんと食べてる?」

本に視線を向けたまま、胡渡はこくりと頷いた。

そっかとわしゃわしゃと胡渡の黒髪をなでる。


ドアが開き、眼鏡をかけた女性がツカツカと入ってきた。

「集まったか。仕事の話をするぞ。」

帰ってきたばかりなのにー!と文句を言うレイを無視して話は進んでいく。

「今回は、人探しの依頼だ。依頼主の名前は『シューカ』港町に住む女性らしい。行先は、非魔法区域のため許可なしに使用しないこと。私は別件で同行できないが、問題が発生次第即報告すること。依頼内容の詳細については、現地で依頼主から直接聞いてくれ。以上、質問は?」

「出発は何時なんですか?」

「明日の早朝には出発してもらう。手続きはこちらで済んでいるので…千陽(チハル)」通行書はお前が持っておけ。」

紐の先に鈴のような透明な球体が3つゆらゆらと揺れている、通行書をひょいと千陽に投げた。

「情報はスマホに共有しておく。依頼人には集合場所と時間は確認済みだ。くれぐれも遅刻をしないように。」

他に何かあるか?と続ける。

「何もないならこれで終わるが、お前たち焦らずきっちり務めなさい。」

それぞれの返事を聞いた涼訵は、さっと部屋を出ていった。


「人探しかー。なんか毎回いなくなったペットだの、買い出しを手伝ってほしいだの、なんでも屋みたいになってるじゃん。」

「まぁまぁ、人探しは初めてじゃない?それに、港町ってことは海が見えるよ!」

「海見たことない。」

「胡渡ないの!?それなら見に行くしかないかー!」

「いやいや、仕事だからね?忘れないでね?」

さっきまで全く乗り気ではなかったのに、今は嬉しそうに荷物の整理を始めている。

「さて、それぞれ準備もあるだろうし今日は解散しようかな。」

みなそれぞれの部屋に戻っていく。

静まり返った部屋を、夕影がほんのり照らしていた。



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