ep.15
レイの澄んだ綺麗な歌声が静寂な森に、町に響いている。
魔法陣から尾の長い鳥飛び立ち、町の上空で旋回し始める。
軌跡をなぞるように、青く光る雪のようなものが町へと降り注がれた。
ー広がる海原 靡く芒
燃えゆく原 愛しき者の傍へ
巡り廻りて たゆたもうー
ルージュが制止するまでレイは唄い続けた。
「流石、主が一目置くだけはありますわ。助かりました。」
ルージュは胸の前で小さくパチパチと拍手をする。
「こちらの方も大丈夫そうですわね。」
いつも間にか抑えつけていた術も解かれ、獣から人の姿に戻っていた。
あちこち怪我をしていたはずだが、どこにもその跡が無く今はすやすやと眠っている。
シューカが不安そうにその男に寄り添っていた。
「これは…人なんですか?」
「いいえ、違いますわ。おそらくここの鎮守の神なのかと。ですが、長らく忘れ去られていたのでしょう…。ここまで存在が保たれているのが不思議ですわ。」
ルージュは黒いレースのオペラグローブをつけながら、米鑼の方に近づく。
「叔父様、こちらお借りしてもよろしくて?」
地面に打ち込まれていた杭を指先でつまみゆらゆらと揺らしてる。
「構わんが、ちゃんと返せよ。」
「もちろんですわ。町の方も問題なさそうですわね。この子返していただきますね。」
レイの肩からひょいとうさぎを取り上げ、小さな鞄に杭と一緒に放り込む。
「さて、そちらのお嬢さん。申し訳ありませんが、森の入口でお待ちいただけます?治療が終わり次第すぐにお呼びいたしますわ。」
シューカは頷き、とぼとぼと歩いて行った。
彼女が見えなくなったのを確認して、一つだけ手元に残しておいた杭を地面に打ち込む。
「恐らくあなた方は初めて見る光景でしょうから先に説明いたしますわ。これから今回の件に関して、記憶の一切を削除する工程に入りますわ。もちろん、シューカさんもその対象となります。そちらの方は戒めとして対象には入りませんわ。」
「それって、シューカさんがこの人とかかわった記憶も全部ってことですか…?」
「もちろんそうですわ。例外などあってはならないのですから。」
「でも、せっかく会えたのに…少しだけでも残してあげても!」
彼女の声がより一層低くなる。
「なりません。先ほども言いましたが例外などあってはならないのです。この世に絶対などという言葉は存在しませんので。リスクは最小限にしなければなりません。」
レイは黙り込み、うつむいてしまった。
「同意していただかなくて結構ですわ。ですが、いつかあなた方も私と同じ立場になる時が必ず来ることを努々忘れぬよう。」
ルージュは教会の方に向き直り、地に埋まった杭を傘でたたいた。




