ep.14
男は背負っていた薬箱を下ろし、ひれ伏した獣をちらと見る。
「米鑼…さん?」
「おぉ!少し見ないうちに大きくなったなぁ。」
米鑼はシューカの頭をわしわし撫でる。
「あの!その人は…」
「こいつか?死にはしないさ。後はあいつが来るのを待たんとなんとも…。おい、そこのねぇちゃん、これ預かりもんだ。嬢ちゃんにつけてやんな。」
ポケットから赤い何かを取り出すとひょいとレイに投げた。
それは弾けたはずのブレスレットだった。急いで胡渡の手首につける。
レイにもたれかかるように倒れた胡渡から白い毛は抜け落ち、爪も髪も元に戻っていった。
「そっちはこれでよしと。後は…そこの君、腕みせな。」
米鑼は千陽に近づき、左腕をまじまじと眺める。
「だいぶ酷いな。神経までやられてるか…いや、あれを使えば…」
煙草を片手に何やらぶつぶつと考え込みだす。
「あの、多分大丈夫です…今は厳しいですが、治せるんで…。」
ほぅと煙を吐き、ぐっと千陽に顔を近づける。
「あー、君ははあれか。膏血か。…って、おいおい、そう睨むなよ。」
「別に、慣れてるんで今更なんとも思いませんよ。」
千陽は冷たく言い放ち、そっぽを向いた。
「まぁ、ほれ、増血剤。気休めくらいにはなるだろ?」
「どうも。」
千陽は右手で受け取り少し臭いの強い小さな赤い球を飲み込むと、近くの木にもたれ掛かり目を閉じた。
米鑼は吸い切った煙草を消し、吸殻を指ですり合わせ塵にした。
「またどこかで道草食ってるな…。」
「あら、失礼でしてよ?」
耳元で少し低い女性の声が聞こえた。
「はぁ…ルージュ、お前は普通に出てこれないのか?」
米鑼の後ろに、灰色のふわっと膨らんだドレスを着た女性が立っていた。
「いつも通りでしてよ、叔父様。」
ふふっと笑い、レイたちの方を見る。
「お初にお目にかかりますわ。私、トプ・ランシュルージュと申します。どうぞ《ルージュ》とお呼びください。」
差していた真っ黒の日傘を閉じ、スカートの裾をつまみお辞儀する。
彼女の短く毛先がくるっと内側に巻いた金髪が揺れる。
「あぁ、皆様のことは存じておりますので。早速お仕事いたしましょうか。」
ルージュは持っていた小さな鞄に手を入れ、分厚い本を取り出す。
「レイさん、あなたお歌がお上手でしたよね?」
はぁ、と困惑した返事をする。
ルージュはページをめくり、書かれている文字を指さす。
「あなたくらいの人でしたら、これだけでも可能ですわね?」
「確かに唄えますけど…今魔力なくて、流石に無理が…」
レイの右肩にずしっと何かが乗る。見ると真っ白な長い耳の垂れたウサギが乗っていた。
「足りない分はその子から貰ってくださいな。後でその子も働いていただきますので、ほどほどにお願いしますね。少々お待ちいただけます?」
ルージュは閉じた日傘で地面を二回たたく。
持ち上げた傘の石突きから青く透き通った線が引かれる。
くるっと傘を回し、宙に円を描く。中に稲穂のような模様を付け足していく。
再度傘で地面を一度叩く。すると出来上がった魔法陣は形をどんどん小さくしながら幾重にも重なった。
「レイさん、よろしくお願いしますわ。」
レイは頷き、深く息を吸い込み文字を唄い出す。




