ep.12
恐らく10分くらいたっただろうか。
彼女から滲み出てくるものが幾分か和らいだ気がした。
歌声が止まり、レイが振り返る。
「これが今できる限界かな。ちょっと、いったんここから出ないと…。」
よろよろとした足取りで扉に向かうレイを千陽が支えながら部屋を出た。
店の裏口から外に出て潮風に吹かれる。
「今日はこれくらいが限界かな。一旦、涼訵さんに報告をしないと…。」
「それなんだけど、さっきから連絡つかない。全部送信エラーになってる。」
胡渡がレイにスマホの画面を見せる。
「ここじゃ届かないのかな?伝書使使うしかないかー。」
「それ飛ばしたんだけど、上見て。」
見上げると空を鳥がパタパタと飛んでいるのが見えた。
順調に高度を上げていくが、途中で溶けるように消えていった。
「え…これ、もしかして…」
「たぶん、何かしらの魔法がかけられてる。どちらにしろ、連絡が取れないのはまずい。」
「時間かければ浄化はできるから、何とかな…」
レイが言い終わる前に、裏口の扉が開き血の気の引いた店主が顔を出した。
「あんたら、まずいよ!他にも出たって、町が大騒ぎしている!」
表から町へ出ると、どこからともなく異臭が漂ってくる。
「これ…もう手に負えないよ…」
「だけど、外部と連絡つかないんじゃやるしかない。」
「でも!!」
レイは泣きそうな顔で胡渡をみた。
眉間にしわを寄せあたりを見渡していた彼女は、ある一点で視線を止める。
「大丈夫。きっとどうにかなりますよ。」
振り返り声の主を確かめる。
まだ少し痛々しい傷が目立つ、短い赤髪に似合わない大きな眼鏡をした少女がそこには立っていた。
「シューカさん!なんでここに…」
「母のところに行ったら、町の方が変に見えたんです。それで、私にできることないかなって。」
シューカはスンスンとあたりの臭いをかぎ持ってきた大きな鞄から小さな小瓶をいくつも取り出した。
中には薄い紫色をした液体が入っている。
「教会の周りに生えているヒソップって花から作ったものです。浄化作用があるのでこれを困っている人に使ってあげてください。気休め程度にしかならないのかもしれませんが…」
小瓶を千陽に預けた。
「私が行くと、きっとみんな怖がってしまうから。」
そういって微笑んだ彼女は、追加の分できたらまた持ってきますねと帰っていった。
呆然と立ち尽くしていた千陽に胡渡が声をかける。
「それ、早く持って行ってあげよう。」
先ほどの部屋に戻り、小瓶の中身を飲ませる。
すると、傷は薄くなり黒いものも消えた。
「すごい…これ魔法じゃないのに…」
「全部消えたわけじゃないから、また出てくるはず。根本をどうにかしないと…」
ずっと黙っていた千陽が口を開いた。
「この状況ってこうなった原因があるはずだよね。そして、それを見つけなきゃいけない。何かしらの妨害を感じもするけどそれは置いといて。事が深刻だし、それにもう使ってしまったから少し無理矢理にはなるけど辿ろうと思う。」
千陽は荷物の中から赤黒い球体を取り出す。
「げ、それやるの…?」
レイは顔をしかめる。
「そんなに嫌そうにしないでよ。傷つくなぁ。」
苦笑いを浮かべ、三人は人の寄り付かない場所を捜し歩いた。




