ep.10
シューカの横に座り直し、海を眺めながら話し出す。
なぜ母がこうなったのか。これからどうするのか。
そして、最後にジーアから預かっていた手紙を渡した。
少女は手紙を抱きしめるように抱え、声がかすれるほど叫び泣いていた。
男はシューカに寄り添い優しく背中に手を当てた。
「まだまだ幼いお前には理解できないことの方が多いだろう。それでもこれからは生きていかなくちゃいかん。町を出るならその後の面倒も俺がしっかり見る、だから明日には…」
「わたしは、ここにいたい…です。」
低く、静かな声で男は少女に言う。
「町の人がどんな危害を加えてくるかわからんぞ。それにお前の母はこの町に殺されたようなものだ。恨みだってあるだろう。その気持ちを抱えて生きていけるのか?」
少女は涙を拭い、男の目をまっすぐ見つめた。
「母は本当の娘じゃない私をとても愛してくれました。それと同じくらい、この町の人たちも愛していたんです。その気持ちは最後の最後まで変わることがなかったんだと思います。今ここで離れてしまったら母の愛した町はきっともっと歪んでしまいます。私の存在が戒めになる間はここに残ります。」
泣き腫らした瞳で少女は微笑んだ。
小さく幼い非力な小娘だと思っていたが、似なくていいところまでそっくりだ。
ジーアはここまでわかっていて手紙を寄こしたのか。
親子そろって…本当に。
「だから、米鑼さん。私に母と同じものを教えてください。お願いします…。」
米鑼は深いため息をし、煙草に火をつけた。
「もとからそのつもりだ。だが長くは一緒にいてやれない。それでもいいな?」
シューカは嬉しそうに顔を上げ、大きく返事をした。
それから約1年ほど、米鑼との生活が続いた。
薬のこと、生活のこと、他の国のこと、たくさんの知識をシューカに与えた。
町には米鑼がくれたフードを被って行けば、特に問題はなかった。
レストランの店主と米鑼は知り合いらしく、買い出しはすべて店主がしてくれた。
米鑼が去ってからたまに理不尽を受けることもあるが、何とか問題なく暮らしていた。
「あれから、町は平穏で次第に貿易も以前ほどではありませんが、戻りつつあります。作物もよく育つようになりましたし…。母のお墓の前にたまにですが花が供えられていることもありました。きっと母の愛していた町に戻りつつあるんです。すみません、関係ない話を長々としてしまって…。」
「とんでもないです、辛い話をしていただきありがとうございます。あの…あなたのお母さんは特別な力をもっていたのでしょうか?」
千陽の問いに、少し考え込んでシューカは口を開く。
「あの時見た光景は、本当に魔法のようでした。とても綺麗で暖かかった。本物だったのかもしれませんね。もしそうだとしても、あんなに優しい魔女はどんな絵本にも出てこないと思います。」
少女は悲しそうに微笑む。
「少し疲れてしまいました。しばらく休みますね。」
少女の言葉に3人は静かに部屋をでた。
傍に置かれたランタンの灯りが滲み、ぼやけて映った。




