セックスロボット アゲインスト ザ マシーン
「セックスロボットはオナニーよりも社会的に健全」
それが子供家庭庁が出した政府としての見解であった。ホワイト革命による男女の断裂はもはや修復不可能で、出産はもとより、結婚する男女などレア中のレアとなっていた。男女交際すら禁止されている。いや、厳密には禁止されてはいないが不同意性交の判例や非モテ事件の判例が数限りなく積み重なった結果、実質的に男女交際は違法となっていた。
とは言え、若い男の性欲が0になったというわけではない。そりゃそうだ。ホワイト革命なんてこの50年程度である一方、人類の歴史はアウストラロピテクスから数えて500万年あるのだ。いくら草食化したとは言え性欲が無くなるはずがない。若い男達はマスをかいてかいてかきまくった。その中で、ちょっとしたレジスタンス運動が起きた。
「これがホントのホワイト革命だ!」
犬が電柱に小便でマーキングするが如く、公共物に向けて精液を撒き散らす事案が多発した。街中が白濁液に塗れ、腐ったソレは醜悪な臭いを放っていた。女性にぶっかけた奴は過激派として指名手配される一方、義勇軍として尊敬を集めた。
結婚しないんだから子供なんて生まれるわけがない。今年の出生数は100人を切りました・・疾うの昔に年金制度は崩壊し、氷河期世代の老人が町中を徘徊していた。とにかく子供を作らなければ・・なりふり構わなくなった政府が打って出た奇策が上記の大臣発言である。
ドクター・ペロペロ・スケベッチが発明したセックスアンドロイドはアメリカのデルモオ社とフェイラー社が大量生産に成功していた。それを日本政府が大量購入した。ロボットを介在してでも日本人の血筋を残さなければ・・愛国者であり日本の未来を憂う一人の国士、創部総理大臣だからこそできた策であった。
「はい勃起しましたねー。それではサクッと挿れますよー。はい、出ました。」
当初は各体育館や区市の施設でのセッ種が行われた。しかし管理セックスの効率は著しく悪かった。生まれた子供の管理費用もバカにならず、生まれた時から孤児院という成育環境も悪かった。ただ子どもが生まれれば良い・・そういう問題では無かったのだ。さすがの創部総理も匙を投げた。もう全て民間に任せよう。そう決断し、セックスアンドロイドを民間に払い下げた。
それから数年後、民間の研究開発によって安価なジェネリック・セックスアンドロイドが市中に出回るようになった。その間に出生数は爆上がりした。政府は保育所や学校などのインフラ整備に専念し、万全な子育て体制が築かれた。
「新たなる家族」が流行語となった。子供はセックスアンドロイドで作って、子育てのみを行う疑似家族だ。男と男、女と女の家庭に子供が迎えられる。しかもセックスアンドロイドの発展により人工子宮や人工精子によりそれぞれの遺伝子を受け継いだ子供を作れるようになった。ホワイト革命の理念にも反せず、少子化も止まる。日本には素晴らしい未来が待っているように思えた。
春の陽射しが窓から差し込み、リビングを柔らかく照らしていた。私はソファに座り、6歳の息子・翔太が幼稚園で作った折り紙の恐竜を眺めていた。彼は目を輝かせて作品の説明をし、私の膝の上で楽しそうに身をよじらせた。
ドアが開き、パートナーの拓也が帰宅した。彼はスーツ姿のまま翔太の隣に座り、折り紙を褒めながら笑顔を見せた。拓也は遺伝子工学の発展により、私と彼の遺伝子を受け継いでいる。彼の瞳の色は私に似ており、笑顔は拓也そのものだ。最初は不安もあったが、彼は無理に「父親」になろうとせず、翔太のペースに合わせて関係を築いてくれた。
夕食の準備をしながら、私はこの数ヶ月を振り返った。拓也との出会い、交際、そして彼が家族の一員として受け入れられていく過程。翔太は拓也を「拓也パパ」と呼び、二人の絆は日に日に深まっていった。
食卓を囲み、拓也が翔太に幼稚園での出来事を尋ねると、彼は目を輝かせて話し始めた。その様子を見ながら、私はこの穏やかな時間がいつまでも続いてほしいと願った。
夜、翔太を寝かしつけた後、拓也とリビングでくつろいだ。彼は「翔太、最近ずいぶん笑うようになったね」と呟き、私は「拓也が来てくれてから、彼の表情が明るくなった気がする」と答えた。拓也の優しい笑顔に、私は胸が温かくなった。
窓の外では、月が静かに輝いていた。新しい生活は始まったばかり。これからも笑いあり、涙ありの日々が待っているだろう。でも、この二人と一緒なら、どんな未来も切り開いていける気がする。新しい家族の形は、決して平坦な道のりではないが、この瞬間を大切にしながら、一歩一歩進んでいけばきっと大丈夫――そう思えた。