第50話 仁王と紅姫
数日前、マリアは花咲神社を三嶋と共に出た時に1つの提案をしていた。それはミナミに着く直前の車内での事だった。
ほとんど会話も無いまま帰りの車を走らせていた時である。いつもは明るく周りを楽しませるマリアであったが、今は眉間に皺を寄せた厳しい表情で窓の外をずっと眺めている。
そんなマリアを心配して三嶋は運転をしながらチラチラと様子を伺っていた。三嶋が気を遣って何か今回の事とは関係のない質問をしようと思った時、マリアが重たい口を開いた。
「三嶋ちゃん…計画の決行日に連絡ちょうだい。それまでに昔の仲間を集めるから。」
「それは構わないですが、昔の仲間とは?」
「若い頃にちょっとヤンチャしててな。その当時の腕っぷしの強い仲間に声掛けてみるわ。」
「分かりました!手練れの方が仲間になるのは心強いですから!でもですね…命の危険や今までの生活が大きく変わる可能性もありますので…そこだけはお伝えして下さいね…。」
「大丈夫よ!そんな事でビビる奴なんかいないから!でも〜…あたしの三嶋ちゃんが他の人に目移りしないか心配よね〜♡」
マリアはそう言いながら運転をしている三嶋の首筋を人差し指でツツーとエロくなぞる。
「ちょっ!ちょっと!やめて下さい!そのお仲間って『オカマ会』とかそんな集まりじゃないでしょうね!」
「んなわけあるかい!!」
こんな事があった後日、三嶋からマリアへと計画決行日の当日に場所や時間の連絡があり、今現在凛桜や葛西のピンチに駆けつけたのである。
三嶋がチラチラと時間を気にしていたのはマリア達が来る事を知っていたためであった。
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「囲まれてる仲間を助けるぞ!!!お前らぁぁぁ!!!」
マリアの気合の入った号令に合わせて惡童連合が凛桜達を取り囲むアップグルント目掛けて『オラぁぁぁぁ!!!!』と怒声を上げながら突っ込んでいく。
アップグルント側も武器などを使い応戦するがどの場所も惡童連合が優位に戦いを進めていく。
「本物の惡童の連中や!!喧嘩慣れしててタイマンやと歯が立たんぞ!!1人に対して複数人で囲んでボコれ!!」
あちらこちらで叫び声が聞こえる阿鼻叫喚な状況を見て金村は大声で全体に指示を出す。
そして興奮した金村は持ち上げていた三嶋を地面に放り投げるとその乱戦の中へと笑い声を上げながら突っ込んでいった。
尻もちをついた状態の三嶋へ葛西が手を差し伸べて立ち上がらせた。
葛西はマリア達の助勢でなんとか気持ちを持ち直したみたいで、三嶋にこの状況の説明をするように促す。
「三嶋!こんな作戦があったならなんで言わんかったんや!?」
「お前が電話で内通者云々の話をするから言えなかったんだよ!この事が鬼山側に漏れると対策されて意味がなくなるからな!」
「そういう事かい…。それでも俺ぐらいには言うとけよ!まぁでも助かった!これでまだ鬼山逮捕への望みは繋がった!」
すると凛桜達の後方を囲んでいたアップグルントのメンバーがドーンッと勢いよく吹っ飛んでそこに囲いの外へと逃げ出す道ができた。
その道からマリアと赤スカーフの女性が凛桜達の元へと駆け寄ってくる。
「間に合って良かったわ!さぁ!ここから一旦囲いの外へ出るわよ!」
マリアがみんなの無事を確認すると大きく手を振って全員を誘導する。
そしてみんなは順番にその道から逃げ出すが、後方からのアップグルントの追撃を警戒し、雪と四宮が列の一番後ろに移動して殿を務める。
雪がチョロチョロとやってくるアップグルントの連中を撃退しながら少しずつ進んでいると、先程の赤スカーフの女性が雪を抱きしめてきた。
「雪ちゃん!無事で良かった!さぁ!もうここは大丈夫だから一緒に行くよ!」
「えっ!?ママ!?」
なんとその赤い特攻服に赤いスカーフを巻いた女性はアマネだったのだ。
いつものメイド服姿の優しいアマネからは想像がつかないほどの姿だったので誰もアマネだとは気付けなかった。
そうして囲まれていた凛桜達は全員無事に囲いの外に出れたので、マリアは惡童連合に次の指示を出す。
「よっしゃっ!!一先ず救出は成功や!!全員一旦手を止めてこっち側に集合しろ!!」
そのマリアの指示に惡童連合全員が戦いを止めて素早く対応し、リーダーのマリアのいる方へと集まる。
この指示はこのまま乱戦を続けると人数の少ない惡童連合側が不利だと判断したからだ
こうしてアップグルントと惡童連合は倉庫の中央線を境に向かい合う形となり、睨み合いのような状況になった。
惡童連合側の先頭にはマリアとアマネ、アップグルント側の先頭は鬼山と金村と棒崎が立っている。
そんなマリアとアマネを見た金村は、先程鬼山に対して向けていたものと同じ様なキラキラとした笑顔で興奮している。
「ほんもんや!!『仁王 』佐々木則夫に『紅姫』雨宮ねねや!!伝説の2人とやり合えるなんて最高や!!後ろの連中も相当な有名人ばっかりやで!!」
「ほんとにもう……やめて……恥ずかしいから……。」
マリアに特攻服を無理矢理着せられたアマネは顔まで真っ赤にして両手で顔を隠す。
アマネの隣にいた雪は、よく意味が分かっていないのか悪気なくアマネに質問をする。
「ママ、紅姫って何?さつまいも?」
「雪ちゃん!もうほじくってこないで!」
ゴリゴリの暴走族のレディースだった事をアマネは黒歴史だと思っており、昔の仲間以外にはひた隠しにしてきたのだ。
「しかしなんで伝説の惡童がポリ側におるんや!俺らと変わらんやろが!」
金村のその同類発言にマリアは真っ向からそれを否定する。
「一緒にすんなハゲ!元々惡童連合は大阪府内に山程あった暴走族を纏めて平和にするために作ったんや!お前らみたいな弱いもんをイジメてヘラヘラしてるようなんと一緒にすんな!」
そんなマリアと金村の問答がヒートアップしようとした時、惡童連合が突入してからずっと大人しくしていた鬼山が金村の顔面を思いっ切り殴った。
「金村…うるさいぞ…。」
「すいません鬼山さん…つい興奮してしまいました…。」
あれだけうるさかった金村をたった一発で黙らせた鬼山は一歩だけ前へと足を踏み出す。
鬼山がただ単にたった一歩動いただけで惡童連合や黒子衆の身体の重心は少し後ろにかかる。
それほどとてつもない圧力を鬼山から感じたのであった。
「雑魚共が…もうすぐ葛西を最高の状態で喰えたのに邪魔しやがって…。全員殺す…。」
鬼山の『殺す』に相対する全員の体中を鳥肌が止まらなくなる。
人数もアップグルント側は惡童連合の倍以上の人数がいる。量より質でどうにかなると思っていたマリア達だったが甘かった。鬼山という存在が居る限り戦況がマリア達に傾く事はないと悟らされた。
そんな中葛西は切り札の事を思い出していて、それを使うタイミングを見計らっていた。
(さっきはこっちが劣勢過ぎて使えなかったが今なら使えるやろうか…。いや!一気に勝負をかけるには今しかない!)
そして意を決した葛西はある男の名前を大声で叫んだ。
「棒崎ぃぃぃ!!!!今や!!!!」
それとほぼ同時に凄まじい電流が鬼山の全身を駆け巡る。
痛みと衝撃に耐えながら鬼山が後ろに目をやると、そこには改造されたスタンガンを持った棒崎が『はぁはぁ』と肩で息をしながら立っていた。




