第49話 惡童
黒子衆が2階から飛び降りたあと、刑事達も続々と銃を構えながら階段から降りて鬼山達と羽山を取り囲む。
羽山は突然現れた葛西の率いる刑事達に困惑と焦りを隠せないでいた。
「いっ…一体どうなってる!?何が起こっているんだ!?」
葛西は銃口を鬼山達の方へと向けながら狼狽える羽山の方へ近付く。
ボディガードも何が起きているのか分かっておらず、葛西を止めることはできなかった。
「羽山勝信。あんたももう終わりや。人身売買で現行犯逮捕する。」
「そっ!そんな証拠どこにある!?私に楯突いて無事でいれると思っているのか!?こんなもの全て揉み消してやる!神代の女も手に入れたことだしな!!願いも叶えたい放題だ!!」
「あんたが何を言ってるんか分からんが、証拠ならあるぞ。」
葛西はジタバタと子供みたいな悪足掻きをする羽山に対して自信に満ちた表情で言い放った。
葛西がそう言ったあと、羽山の後方にいた三嶋がゆっくりと葛西の横へと移動した。
それを見た羽山が激昂する。
「お…おい三嶋!貴様何をしている!?」
「羽山さん、すいません。このスマホで全て撮らせていただきました。これが証拠になり…終わりです。反社会勢力との繋がりも全部収めています。」
スマホを見せながら語る三嶋を見た羽山は、全てを察して絶望したのか膝から崩れ落ちてブツブツと何かをずっと呟いていた。
もう抵抗する気力もない羽山に1人の刑事が手錠をかけようとした瞬間、羽山は突然立ち上がり凛桜の方へと全力で走り出した。
それを止めようと反応した刑事や黒子衆を火事場の馬鹿力なのか無理矢理振り払って羽山は凛桜の手を握りしめる。
「かっ!叶えろっ!!今の私の願いを叶えろ!!『全て無かったことにしろ!!』それが私の願いだ!!早くっっ!!!」
「離してください!!そんな願い叶えたくありません!!」
「凛桜さんを離すんや羽山っ!!脅しじゃなく本当に撃つぞ!!」
葛西の警告に一切聞く耳を持たない羽山。
凛桜はしがみつく羽山から逃げようとするが、凛桜の気持ちとは裏腹に握られた2人の手が白く光り輝き出した。
そして光が収まると羽山は凛桜から離れてフラフラと後退りをしながら高らかに笑い出す。
「ハハハハハッ!!!これで!!!これで願いは叶って全部無かったことになるっ!!!最後に笑うのは私なんだっ!!!」
両手を広げてそう宣言したと思ったら羽山は急に『うっっっ!!』と言いながら胸を押さえて倒れ込む。
声にならない程の苦痛を味わっているのか、『ギギギギ…』と目を剥き出しにして歯を食いしばりながら苦しんでいる。
それが10秒ほど続いただろうか、羽山の身体から急に力が抜けてダラリと地面に大の字になった。
近くに居た刑事が警戒しながら死亡確認をすると脈は完全に止まっていた。
「葛西さん…羽山は死んでいます…。」
「なんやとっ!こんなタイミングで心臓麻痺みたいなんが起きたっていうんか…。」
羽山の急死にザワいていると葛西の後方から雪がゆっくりと歩いて現れた。
「このおっさん頭悪過ぎるよね。これだけの出来事を『全部無かったことにする』なんてとんでもない願いの代償は『命』しかないよ。
でも良かったじゃん!死んで『全部無かった』事になったよ!」
雪は無邪気にそう説明するが、超常的なモノを想像していない葛西や刑事達は訳が分からないままだった。
そして雪は鬼山の方へと歩みを進め、愛用しているナイフの切っ先を鬼山に向ける。
「お兄ちゃんの仇…取らせてもらうから…。」
そんな雪の挑発にもずっと下を向いたままの鬼山の前へと金村が出てきて少々震えながら話し出した。
「なんで…こんな事になるんや…。ヤバいやろ…。」
「そうや!!お前らアップグルントも今日で終わりや!!長かったぞ!!こんな日が来ると信じ続け…ここまで来るのにどれだけの仲間の命が失われたかっ!!どれだけの犠牲がっっ…!!!」
葛西は熱くなり、感極まってしまったのか涙を堪えるように鬼山達へ今までの恨みが籠もった言葉を投げつける。
だが葛西の予想を裏切り、金村は徐々に口角を上げてまるでヒーローに憧れる子供のようなキラキラとした目で鬼山を見た。
「なんでこんな事になるんや!全部鬼山さんが予想してた通りやないか!ヤバいやろ!あんたはやっぱバケモンやで!!」
その場に居たアップグルント以外の人間は、その突拍子もない金村の発言に考えが追いつかなかった。
金村が何故そんな発言をしたのか答えが出る前に倉庫の扉が開く。
そこから様々な凶器を手に持ったカタギには見えない男達がゾロゾロと倉庫内に入ってくる。
数十人…いや、それは百人を超えるものだった。
そんな大人数に逆に囲まれて葛西側のメンバーは段々と後退させられて自然と一箇所にまとめられて追い込まれてしまう。
「こんな…人数が集まっているなんて情報は無かったぞ…。」
葛西はそう呟くと、予想外の襲撃に銃を構える気力が無くなった。
さっきまでの勝利の空気とは反転して、絶望に打ちのめされた葛西を嗤うように周りを取り囲む男達の間から鬼山が現れた。
「おいおい…。どうした葛西?誰が終わりやって?さっきまではまるで刑事ドラマの主人公みたいにウキウキしてたな…。楽しんでくれたみたいで良かったわ。
こいつら全員昨日からこの場所に伏せとったんや。大阪以外のメンバーやから動きを把握できてなかったみたいやな。」
頭が回らなくなった葛西は、切り札の事も忘れて目から涙を流しながら口をポカーンと開けたままで何も言い返せないでいる。
それを見た鬼山は嬉しそうに葛西の顔を覗き込む。
「これこれこれこれ、これやがな!葛西のこの顔見るためにずっと生かしといたんや!積み上げてきたもの全部ぶっ壊された気分はどうや…?こんな情けない姿見せて…死んだ部下もガッカリしてるで…。
ククク…喰い頃やなぁ…。」
鬼山からおぞましい悪意がばら撒かれ出し、ほとんどの人間が『ここまでか…』と諦めかけている中、正気を保っている人間が3人居た。
それは凛桜と雪、そして残る1人は誰も予想していないであろう三嶋であった。
三嶋はこんな状況でも腕に付けた時計をチラチラと気にする様子を見せる。
そんな三嶋に気付いた金村が三嶋の胸ぐらを掴んでグイッと持ち上げた。
「おいお前!さっきから何をソワソワしてるんや!!なんか企んでるんかっ!!」
金村に無理矢理持ち上げられて首が絞まっている三嶋は『カ゚ッ…グハッ…!』と苦しそうに暴れる。
そして金村がそのまま三嶋を地面に叩きつけようとしたその時だった!
ブォンブオン!ボボボボボ…ブォンブオンッ!!
バババババッ!!バババババッ!!
パンパパパパパッ!!パンパパパパッ!!
と、遠くからこちらへと近付いてくる爆音が聞こえてきた。
それは誰もが聞いたことのある暴走族がバイクをフカしながら走らせている時の音だった。
音からして相当な数のバイクが倉庫の方へと向かっているようだ。
「俺の楽しい時間を潰すんは誰や……。」
怒りが込み上げてきた鬼山は、もうすぐ来るであろう邪魔者を確認しようと倉庫の大きな入り口を凝視する。
そしてしばらくすると、爆音を倉庫中に響かせながら暴走族仕様のバイクが続々と倉庫内に侵入してきた。
特攻服を着た人間が乗るその全てのバイクの後部には『惡』と書かれた旗がバタバタとはためいている。
その旗を見たアップグルントのメンバーが戦々恐々としながら呟く。
「あ…惡童連合や…。」
その名前を聞いた他のメンバーもどんどんと恐怖が伝染していく。
いつのまにか20台以上のバイクが倉庫内をゆっくりと威嚇するように走り回っている。
そして、最後に入り口から2台のバイクが入ってくるとあれだけうるさかった全てのバイクがエンジンを止めてそちらへ注目する。
最後の2台のバイクに乗っていた人物はバイクを置いてツカツカと前へと出てくる。
そのバイクから降りてきた人物はマリアと、三角に折った真っ赤なスカーフを口元に巻いて顔を隠している女性だった。2人共『惡』と背中にでかでかと書かれた特攻服を着ている。
そして特攻服を身に纏ったマリアが鬼山達に対して天を突くような大声で宣戦布告する。
「俺らは惡童連合じゃぁぁぁ!!!仲間を傷つける奴らは全員ぶっ潰すから覚悟しとけよっっ!!!
クソガキ共がぁぁぁ!!!」
マリアのその咆哮によって、この大人数が入り乱れる中心に居て絶体絶命だった凛桜達の心にまた戦う気持ちの火が小さく灯るのだった。




