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第48話 晩餐会の始まり

鬼山達の車の後方をバレない程度の距離を保ちながら走るハイエースが1台あった。

それはHell Holeを監視していた黒子衆から凛桜と鬼山達が動き出したと連絡を貰い、急いで車に乗り込んで追跡を開始した葛西達だった。

運転は葛西が担当し、助手席には背もたれを倒して広々と快適な様子で雪が座っている。

真ん中の座席には四宮が、後ろの座席には加賀が、お互い黒子衆に挟まれて息苦しそうに肩を狭めて座っている。

堪らず四宮が雪に対して愚痴をこぼす。


「おい雪。なんでお前が助手席なんだ。」


「だって雪は女の子なんだよ。むさ苦しい男達と座るなんて言語道断。え?もしかして四宮は雪の隣に座りたかったの?そういうことなの?」


ニヤニヤとおちょくる口調で振り向いてきた雪を見て四宮は何も言い返すことなく目線を逸らす。

雪にこんな事を言っても何も意味が無いことを思い出したからだ。

そんな緊張感の無いやり取りを聞いていた葛西は、車内の気を引き締めるために雪に話を振る。


「雪さん、凛桜さんからは何の合図もまだないんですね?」


「うん。無いよ。羅針盤はなんの反応もしてないし。」


「分かりました。その羅針盤っていうのから目を離さないように!」


凛桜から何もアクションが無いという事は今の所は予定通り進んでいるということだろうと思い、車の進行方向も南港に向かっていることも踏まえてこのまま継続してバレないように追跡を続行する事を葛西は決めた。


そしてミナミを出てから数十分後、鬼山達の車は三嶋の言っていた双葉運輸第2倉庫へと入っていく。

それを横目に葛西達の車は違和感がないように通り過ぎていく。

その倉庫から数百メートル進んだ所にある廃倉庫の前で葛西は車を止めて、すでに待機している部下に無線で連絡を入れる。


「井上か?鬼山達が倉庫に入っていったがそちらで確認できるか?」


『はい…。今倉庫の敷地内に3台の車が入ってきました…。今…停車して…。あっ!中から鬼山と凛桜さんが降りてきました!金村と棒崎もいますね。その他は腕っぷしの強そうな奴らが6人降りてきました…。』


「そうか!分かった!鬼山の護衛が少人数で助かったな。そろそろ羽山も来るやろうから俺達もすぐにそちらへ向かう!」


『了解しました。』


葛西は鬼山達にバレないように車を廃倉庫の中に隠し、双葉運輸第2倉庫まで続いている海側の広い道を建物やコンテナや大きなクレーンなどの陰に隠れながら素早く目的の場所へと向かうのだった。



一方こちらは鬼山サイド。

車から降りて倉庫内で一服をしたりと各自で羽山が来るまでの時間を潰している。

そんな中、気の短い金村がイライラしながら部下の男の肩を殴ったりと落ち着かない様子である。


「くそ!羽山のおっさん遅過ぎやろ!もう17時過ぎてんちゃうんか!」


「い…いえ…金村さん。まだ10分前っす…。」


「大人やったらきっちり10分前行動が当たり前やろうが!!」


正論で返してきた部下に、これまた金村には似合わない正論を拳で部下に伝える。思いっ切り胸を殴られた部下の男はゲホゲホと咳をしながら金村から離れていく。

そんな茶番をしていると大きな倉庫の扉が開き、そこから1台の白い高級車が入ってくる。

その車は鬼山達の前まで来るとゆっくりと停車し、運転手の男が降りてくると急いで後部座席のドアを開ける。

そのドアからは葉巻を加えた羽山が眼光鋭く鬼山の部下達を睨みつけながら降りてくる。

その睨みは修羅場を潜ってきた者にしか出せない迫力があり、羽山をナメてかかっていた者達はそのオーラに面食らってしまうのであった。

三嶋は羽山が睨みを利かせたあと、コッソリと車から降りる。

そして三嶋とプロのボディガードの2人が車から降り終わると、羽山は咥えていた葉巻を地面に捨ててそれを踏みにじって火を消したあと、鬼山の前まで歩いて近づいてその肩をポンと叩くと感謝の言葉を並べ始める。


「おう!鬼山ー!良くやってくれた!やはりお前に頼んで正解だった!」


「そんなんええから金を早よよこせ。あとな、もう一回俺に触れてみろ。殺すぞ。」


羽山は鬼山とそんなやり取りをしている間も凛桜の方へとずっと視線を送っている。

凛桜は羽山と目が合うと、抑えていた復讐心が沸々と心の奥底から湧き上がってくる。


(こいつのせいなんだ…こいつがいなければ今頃平和だったかもしれない…。お母様も謙信さんも死なないで済んだかもしれない…。)


そんな復讐心からか自然と羽山を睨みつけていた凛桜を見て羽山はニヤリと笑う。


「凛桜…だったか?お前がしっかりと仕事をしていればこんな事にはならなかったのにな。百合さん達は残念だったよ。」


「お前っっ!!どの口がそんな事をっっ!!」


羽山の心無い言葉が凛桜の逆鱗に触れてしまう。

凛桜は羽山に飛び掛かろうとするがそれを鬼山の部下が力尽くで車のボンネットへと押さえ込む。

その様子を見て羽山はまたニヤニヤと笑って機嫌が良くなっていく。

しかし、そんなフザケた空気をブチ壊すような怒気が鬼山の方から発せられる。


「おい…羽山…。ええ加減にせーよ。早よ金出せって言うてるやろ…。こんな取引なんか無茶苦茶にしてまうぞ…。」


「わ…分かっている…。おい!金を持ってこい!」


日本のトップになるために数えられないほどの修羅場を越えてきた百戦錬磨の羽山でさえ、鬼山のとんでもない殺気には後退りをしてしまう。

そして羽山の命令でボディガードの1人が車からアタッシュケースを持ってきた。

それを開けると中には沢山の札束が入っている。


「これが残りの5千万だ!さぁ!その女をこちらに渡してもらおうか!」


羽山から渡された金を部下の1人が数えだす。そしてこのお金が本物できっちり5千万ある事を確認すると鬼山は顎で凛桜の方を指す。

すると羽山のボディガードが凛桜の方へと歩き出し、凛桜を受け取るとそのまま連れて羽山の方へと戻る。

それを胸が張り裂けそうなほど鼓動が速くなった三嶋が凝視している。


(と…取引が終わる…!終わると同時に…!葛西はしっかりと準備できているんだろうな…!)


そんな1人だけ目が飛び出るほど緊張した面持ちでいる三嶋を差し置いて、全ての行程が終わりを告げた。

すると羽山はパンッと手を叩いて嬉しそうに取引の終了を宣言する。


「よし!取引成立だな!それでは我々はもう行くとするよ!」


そう言って羽山が凛桜を連れて車に向けて踵を返した瞬間!

鬼山や羽山がいる位置とは正反対の方向から、銃を構えた葛西が正義感に満ちた大きな声を倉庫中に響き渡らせる。


「そこまでや!!!動くなよ!!!お前ら全員を誘拐と人身売買の現行犯で逮捕する!!!」


その葛西の咆哮を合図に、2階部分の壁際をぐるりと囲むように作られた吹き抜けの廊下から隠れていた刑事や黒子衆が姿を現す。

刑事達全員は葛西と同じ様に2階から銃を構え、黒子衆はそのまま廊下から1階へと飛び降りて鬼山達を囲む。


突然の状況に慌てふためく羽山に対して、鬼山は俯きながらあの悪意に満ちた顔で静かに嗤うのであった。

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