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第47話 矛盾

「で!?凛桜さんからの言伝とはなんや!?」


潜伏先のビルの室内で葛西が加賀へと乱暴な質問を投げかける。

加賀は自分の顔を見て少しは心配して欲しいという気持ちになっていたが、葛西達全員の真剣な目を見るとそんな事は口が裂けても言えなかった。


「り…凛桜さんは計画を続行してくれって言うてた…。ほんで次に緊急事態や計画が続行不可能な状況になったらまた雪に分かるようにするって…。」


「なに雪の事呼び捨てにしてんの?クソカス。」


やった事を思えば悪いのは加賀なのだが、加賀は鬼山に殺されかけた所を命からがら逃げてきた自分へ向けられる皆の冷たい態度に心が折れそうになってきた。

そんな事はお構い無しに葛西から加賀への質問は続く。


「それで!中の状況はどうなってる!?」


「たぶん…鬼山達に俺達の動きは完全にバレてると思う。だから鬼山は俺を殺そうとした…。凛桜さんが手の中にピカーッと光る道具を持ってなかったら逃げてこられへんかった…。」


「光る道具?用心のためにそんな物を持っていっていたのか?しかし身体検査はあったはずだ…。」


何の事か分かっていない葛西の横で、加賀の光る道具という言葉を聞いて雪は同情の目で加賀を見下ろす。


(お嬢は加賀を逃がすために力を使ったんだ…。可哀想に…死地からの脱出…どんな代償を支払わされるか…。)


葛西は部屋をウロウロ歩きながら頭を抱えて悩みに悩む。

凛桜が続行と言ってはいるが加賀から聞いた情報では計画がバレており、とてつもなく危険な状況に立たされているからだ。


「くそっ!判断を間違えれば凛桜さんの命が本当に危ない!やはり計画を中止にしてでも踏み込むべきなんとちゃうんか…!」


葛西が迷いで爆発しそうな頭を落ち着かせるため部屋の壁をドンッと殴ったその時だった、葛西の携帯がバイブで電話の着信を知らせる。

画面を見ると三嶋からの連絡であった。また何か緊急事態があったのかと急いでその電話を取ると。


「もしもし!三嶋!何かあったんか!?」


『もしもし…ってなんなんだ。そっちこそ何かあったみたいな喋り方じゃないか!』


葛西は加賀から聞いた事と現場の現在の状況を早口で説明する。


『そんな事になっているのか!?いや…しかし今さっき鬼山から羽山に連絡があって、予定通り17時に双葉運輸第2倉庫で凛桜さんの引き渡しをすると決まったみたいだぞ。その連絡をするためにお前に電話を掛けたんだ。』


「何っ!?本当か!?加賀の話を聞くと鬼山には完全に計画がバレているみたいやったが…。俺が動いているのがバレているだけで細かい事は何も分かってないんかもしらんな…。」


『どちらにせよ羽山と鬼山の間で話は決まったからこちらも予定通り動かないといけない。ただし、凛桜さんの命が最優先だという事を忘れるなよ!』


「お前に言われんでも分かってるわ!じゃあまた何かあった時は連絡する。」


『あぁ。こちらも変わった動きがあれば連絡するよ。』


こうして葛西と三嶋の電話は終わった。

そして葛西は全員に向けて計画続行の指示を出す。


「雪さん、あなたは凛桜さんからのSOSをキャッチできるのは信用していいんですね?」


「うん。大丈夫。お嬢が発信してくれたら絶対に分かるから。」


(本当はそのカラクリを知りたいんやが…三嶋が隠しながら話しとったんと関係あるんやろな…。まぁええ…俺の切り札もまだ切ってない。)


こうして一時は計画中止に追い込まれそうになった凛桜達だったが、なんとか綱渡りのような状態だが続行する方向に話は決まった。

そして葛西達はHell Holeへの監視を強めながら約束の時間まで待機する事になるのだった。


そんな中、1人も加賀を病院に連れて行こうという人間がおらず、人知れず加賀は涙を流すのだった。

しかし、これが願いの代償に繋がると分かるのはまだ少し先の話。



葛西達が続行を決断してから数時間後、場所はHell Hole。時計の針は16時を指そうとしているところだった。

凛桜はあれからずっとアップグルント本部の部屋で棒崎と共にひたすら無言の中監禁されていた。

棒崎はずっとパソコンとにらめっこで凛桜には全くといっていい程興味が無さそうである。

加賀に使った力の事をもっと質問されると思っていた凛桜は少し拍子抜けだった。

すると部屋のドアが壊れるかという勢いで思いっ切り開く。

ドアの先には下のホールで金村と呼ばれていたスキンヘッドの男であった。


「おい!女と棒崎!車の用意ができたから行くぞ!鬼山さんももう車で待ってる!」


「命令…すんな…金村…。」


「やかましいわ!!早よせな鬼山さんに殺されるぞ!!」


こうして凛桜は金村と棒崎に挟まれてHell Holeの外へと連れ出される。

外には窓まで黒い黒塗りの車が3台並んでいた。その真ん中の車の後部座席の窓が開くと鬼山が顔を出し、金村と棒崎に指示を出す。


「女はこの車に乗せろ。金村は前、棒崎は後ろの車に乗れ。」


鬼山は指示を出すとすぐに窓を閉めてしまう。金村達はすぐにその指示を実行するために素早く動く。

凛桜は怪力の金村に半ば無理矢理車に放り込まれ、それを確認すると金村と棒崎はそれぞれ言われた通りの車へと乗り込んだ。


鬼山と同じ後部座席に放り込まれた凛桜はできる限り鬼山と離れて座るようにした。

そして車が発進すると同時に鬼山が凛桜に悪意の笑顔を向ける。


「そんな緊張すんなや。ここまできたら最高の舞台が整うまでお前を喰う事はせんから安心しろ。」


「なんで…私達が怪しい動きをしているのに見て見ぬふりをするの…?光の事についても何も聞いてこないし…。」


「どうでもええからや。お前や葛西がどれだけ頑張ろうが俺には何の影響もない。むしろお前達が必死になればなるほど…喰う時が楽しみなだけや…。」


「そんなの分からないでしょ!今夜であなたは終わるかもしれない!いえ!終わらせてみせる!」


凛桜がそうやって強気な態度に出た瞬間、車内をとんでもない殺気が充満する。

それは運転している人間までも反応してしまいハンドルを取られるほどであった。


「おい…女…。俺の気まぐれで生かされてるって事…忘れんなよ…。」


凛桜は百合や謙信、そしてここまで支えてきてくれたみんなの想いを背負って強くなったはずだった。だからこそ鬼山の元で一人になっても耐えれていた。

しかし、この男の悪意は底が見えず、途方もない深淵と向き合っているような気分になる。

この時点で凛桜はまだ鬼山との間にとてつもない差がある事を思い知らされた。

その証拠に鬼山が少し凄むだけで全身から汗が止まらなくなる。

だが、ここで心を折られては何もかもが水の泡になってしまうと思った凛桜は今持てる力を振り絞って鬼山に言葉を返す。


「あなたは自分の抱える矛盾に気付いていない。それに気付いた時…あなたは喰われる側になる。」


「意味分からんわ。俺に矛盾なんてない。なぜなら常識もルールも俺が全部塗り替え、作り替えるからや。」


凛桜の言葉に鬼山は神のような考え方で返す。これは強がりや勘違いなどではなく、鬼山は心の底から本当に自分は神に近い存在だと自覚しているからこそ出た言葉であった。

それについて凛桜は何も答えずに真っ直ぐ前を見る。その鬼山の唯我独尊の考え方を打破する算段が頭の中にあったからだ。


こうして凛桜達を乗せた車は決戦の場へと刻一刻と近づいていく。

待ち受ける混沌は大きく口を開いているかのように凛桜達を飲み込んでいくのであった。

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