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第45話 絶対悪

全ての会議が終わり、葛西達が計画へ着手しようとした時に部屋の入り口から見かけたことがない男達が10人入ってきた。

訝しげな表情をしながら案内してきた婦警がその場を去ると、その一団の先頭にいた男が話し出した。


「葛西さん、遅くなって申し訳ない。花咲神社でご一緒させてもらった四宮です。戦える者たちを連れてきましたのでご自由にお使い下さい。」


「あー!四宮さんでしたか!あの黒子のような格好では無かったので気付きませんでした!」


「さすがにあの格好では目立ち過ぎますので…全員動きやすいジャージなどで連れてきました。」


照れくさそうに話す四宮に凛桜が駆け寄った。


「四宮さん!到着してすぐに申し訳ないのですが…雪さんが取り乱してしまったので落ち着かせに向かってもらえないでしょうか?」


そう聞いて四宮は加賀の方へと目をやると全てを察したのか、凛桜の肩にポンと手を置くと黒子衆の一人に雪の元へと向かうよう指示を出す。


「凛桜様、なんとなく状況を把握しました。あの男の顔には見覚えがあります…。雪が取り乱すのは仕方が無いかと…。でも大丈夫です。雪ならすぐに立ち直って戻ってきます。

今は計画を実行するのを優先しましょう。」


「そうですね…。四宮さん、ありがとうございます。」


こうして黒子衆と警察は合流を果たし、葛西から四宮達へ計画の再確認がされ、とうとう凛桜が鬼山の所へと向かう事になった。


そして三十分後、アップグルントの根城になっているClub Hell Holeの裏手にあるビルの裏口から葛西、凛桜、加賀、雪、四宮と黒子衆4人が入っていく。

黒子衆の残りは刑事達と共に双葉運輸第2倉庫へと先に向かった。


凛桜達は葛西の案内で、ビルの中のテナント募集と書かれた看板が掛けられた部屋へと全員入るが、1人だけとてつもない恐怖に震えていた。

加賀である。

それはこれから鬼山の所に行くのが怖いのではなく、ずっと背中に張り付いている雪に対してであった。

今にも襲いかかってきそうなほど鋭い目つきをした雪と小動物の様に震える加賀の間に四宮が入り込む。


「雪!さっきあれだけ説明しただろう!この加賀には協力してもらわなければならないと!それに凛桜様が今は赦すと言っているんだからそのダダ漏れの殺気を抑えろ!」


「分かってるって…。」


四宮にキツく諌められた雪は不服そうに部屋の隅の椅子に座る。

ここで葛西が凛桜に最終確認を取る。


「では凛桜さん。これから鬼山の所へ行ってもらいます。本当は小型の無線機などを忍ばせたいところなのですが、入る時確実に厳しい身体検査を受けるはずなので何も持たせることはできません。

なので危険を感じたり、緊急を要することが起きた時は確か…。」


葛西が雪の方へと目をやると察した雪がそれに応える。


「お嬢が何かあった時は雪が分かるから大丈夫!」


「それなら良いですが…。方法はやはり教えては貰えないのですね?」


神宿みじゅくの手の力とハカナバナの羅針盤について知らない葛西はその部分だけ疑心暗鬼になっていたが雪の言う事を信じるしかなかった。


「それでは始めましょう!何かあった時は我々がすぐに駆けつけますので!」


「はい!必ず成功させましょう!」


葛西と凛桜は固く握手を交わした後、凛桜はそのまま加賀を連れて出ていく。


「加賀さん!よろしくお願いしますね!」


そんな何の恨みを持たない凛桜の笑顔に加賀はまた涙ぐみ、小さな声で『はい…』とだけ呟くのであった。

そして凛桜と加賀はHell Holeの前までやって来た。大きな黒と赤で装飾された扉は正に地獄への門といった感じだ。

そして加賀はゴクリと固唾を呑んだ後に凛桜へある事への許可を願った。


「凛桜さん、たぶん中に入れば凛桜さんにキツイ言動などをするかもしれませんが…バレないためと思って分かってもらえると助かります…。」


「大丈夫ですよ。いつも通りの加賀さんで居てください。」


2人がそう会話をしていると、扉が開いて1人の男が出てきた。

その男は加賀の顔を見るなり駆け寄ってくる。


「加賀さんやないっすか!もう死んでもたって噂流れてたとこっすよ!生きて帰ってきたんですね!」


「当たり前やろが!ほんで鬼山さんはおるか?例の女連れてきたから通してくれや。」


「おー!すごいやないっすか!あらー、結構な美人さんやないっすか。」


男は舌舐めずりをしながら凛桜の顔を覗きだした。

それを加賀が胸ぐらを掴んで引き離す。


「おい!ええ加減にせーよ!中に入るぞ!」


「冗談やないっすか…。加賀さんだっていつもなら乗っかってくるくせに…。」


加賀は男を振り払い扉を開けて凛桜と共に中に入っていく。

するとまだオープンしていないホールにはチラホラとアップグルントのメンバー達がたむろしていた。


「おう!お前ら久々やな!例の女捕まえたからちょっと上の鬼山さんのとこまで通してもらうで!」


そう言って流れでその場をスルーしようとした加賀だったがスキンヘッドの男がそれを止めに来る。

それは加賀でも少し尻込みしてしまう金村だった。


「なんや加賀ぁー、生きてたんか。ほんで…その女が鬼山さんが探してた奴かいな。まぁ上に行ってもええけどボディチェックはせんとあかんわなぁ。」


金村はそう言いながら外の男と同じ様にニヤニヤしながら凛桜を触ろうとする。

だがそんな巨体の金村に臆することなく凛桜は金村の手を叩く。


「触らないでもらえますか。」


「おいおい!気強い女は嫌いやないで!ちょっとこっち来いや!」


頭に血が上った金村は凛桜の手を無理やり引っ張って連れていこうとするが、それを加賀が体をねじ込んで阻止した。


「金村!ちょっとやり過ぎやぞ!この女が鬼山さんにとってどれだけ大事か分かってるんか!?」


そして加賀はホール内を見渡すとカウンター席に座っているアップグルントの女メンバーを見つけた。


「おい!そこの女!こっち来てこいつのボディチェックしろ!」


そうやってその女に加賀は凛桜へのボディチェックを命じると、面倒くさそうに女は凛桜の頭から足まで入念にチェックをする。


「なんも持ってないっすね。」


チェックが終わると女はそそくさとカウンターへと戻っていった。

そして加賀は凛桜の手を引っ張り上にあるアップグルントの本部に繋がる階段を上っていく。

その後ろ姿を腕を組みながら見ていた金村が大きな声で叫ぶ。


「加賀ぁー!!俺に偉そうにした事忘れんなよ!!」


金村の怒声に振り向きもせず無視をして階段を進む加賀だったが、心の中では金村への恐怖が広がっていった。

そして2人は鬼山のいる本部のドアの前に到着した。

加賀はドアノブに手をかけようとするが、手が震えて中々掴めないでいる。

この後に起こることを想像するとどうしてもドアを開けられない。あの鬼山が凛桜を連れてきたからといって自分を無事に済ませるだろうか…。

そんなネガティブな事ばかり考えていると震える加賀の手にそっと凛桜が手を重ねてきた。


「加賀さん、一緒に乗り越えましょう。全部上手くいきますから。」


加賀は、大事な人の命を奪った自分に何故ここまで励ましの言葉などを掛けられるのだろうかと凛桜を不思議に思う。

本当なら殺したいほど憎いはずなのに、凛桜の目には打算などが全くない純粋な目をしている。

そこで警察署や先程のビルを出る時に誓った想いを思い出す。

『純粋で優しいこの子のためにどんな事をしてでも罪を償う』

これを思い出した加賀の頭から嫌な想像は消え、震えが止まった手でガチャリとドアノブを回してドアを開けた。

そしてそのドアの先には真っ赤なソファーに座る鬼山と、そこから少し離れたイスに座る棒崎がいた。


鬼山は加賀と凛桜を一瞥すると、凄まじい殺気と悪意を前面に押し出しながら話し出す。


「よう来たな。お前を殺すか羽山に渡すかまだ迷ってたから丁度良かったわ。」


凛桜の目の前に、概念でしか存在しないとされてきた『絶対悪』が存在している。

凛桜の隣の加賀は先程までの気持ちはいとも簡単に吹き飛ばされて、どうやればこの場から助かる事ができるのかという考えだけが頭を支配する。


(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!やっぱり鬼山さんだけは敵に回したらアカンかった!なんやねんこの寒気!あの人は絶対に人間ちゃうやろ!)


加賀は口を大きく開け、冷や汗が顔を覆い尽くすほど流れ慌てふためいている所に、隣の凛桜が鬼山に対してポツリと一言言い放つ。


「私は…もうあなたが怖くない。」


加賀がバッと慌てて凛桜の表情を見ると、鬼山に臆することもなく、凛とした目で鬼山の方を見ていた。

そんな凛桜の希望に満ちた真っ直ぐな言葉を聞いた鬼山は悪意が最大限に込められた笑顔でこう呟く。


「ほな……喰うか……。」

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