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第42話 嗤う鬼

場所はアップグルントの所要するClub Hellヘル Holeホールの2階に位置する鬼山達の本部。

その広い部屋の一番奥の大きな赤いソファーに鬼山が堂々とした姿で座っている。

謙信や雪と戦ってからまだ数日しか経っていないのにその身体には包帯や治療をした跡は無かった。

その時扉が開いて二人の男が駆け込んでくる。

1人はスキンヘッドにサングラスを掛けた筋骨隆々の男であり、もう1人は背は高いが体の線は細い赤髪の男だった。

スキンヘッドは『金村かねむら』、赤髪は『棒崎ぼうざき』という。

そして少し慌てた様子で金村が鬼山に尋ねる。


「鬼山さん!大丈夫っすか!?俺らがタイに行ってる間にややこしい事になったって聞いて飛んで帰ってきたんです!」


金村を押しのけて棒崎もボソボソと小さな声で会話に入る。


「かなりの…重傷を負ったと…聞いたんですが…。」


「おい!俺が今喋ってるやろが!入ってくんなや!」


「うるさい…お前はタイに残ってたら良かったんや…。」


いがみ合う2人をニヤニヤしながら見ている鬼山は吸っていた巻きタバコのようなものを灰皿で消すと2人に状況を説明する。


「ほんまうるさいのー…お前らは。あとな、あんな軽い怪我もう治ったわ。そんな事より全国に散ってるメンバー全員大阪に集めろ。」


「全員って…。そんなでかい案件抱えてるんっすか?ってか中島と加賀はどこ行ったんすか?」


「中島は殺した、加賀は知らん。」


「なんやあいつら事務作業みたいなんばっかして私腹を肥やして死んでもうたんか!こすい事ばっかしてるからやで!まぁでも鬼山さん安心して下さい!俺が帰ってきたんで大丈夫ですから!」


「金村…うるさい…。鬼山さんが話してる途中やろうが…。あとお前やない…俺が帰ってきたから大丈夫なんや…。」


「黙っとけや棒崎!!お前のひょろい身体をバキバキに折ってまうぞ!!」


また言い合いを始めた2人だったが、奥からただならぬ殺気を感じて直ぐ様喧嘩を止める。

その方向を見ると鬼山がとんでもなく恐ろしい表情で2人を睨みつけていた。


「お前ら…うるさいって言うてんねん。殺すぞ。」


鬼山の凄まじい殺気が込められたその一言で2人は深々と頭を下げる。鬼山の暴虐ぶりを1番近くで見てきた2人には『殺すぞ』の一言が嘘偽りない事を知っていたからだ。


「すいませんでした…。気を付けます…。」


「まぁええわ。これ以上人が減ると厄介やからな。」


そして鬼山は今までの凛桜達との一連の流れを2人に説明した。


「そらどえらい案件っすね。ほなその女をもう一回捕まえに行ったらええんっすか?」


「そうしたいんやがな。警察に潜らしてる奴から連絡があってな。また葛西のアホが動き出すみたいやわ。だからメンバー全員揃わしときたいねん。」


「あいつも…しつこいですね…。やはり殺しておくべきだったのでは…?」


「葛西は最高のタイミングで喰うんや。そのための下ごしらえであいつの周りを殺しまくったんやからな。」


鬼山は葛西を最高の場面で殺すことを想像したのか天井を仰ぎながらニヤニヤと笑う。

その鬼山を見て金村達は背筋が凍っていくのが分かった。


「じゃあメンバー集まり次第こっちも動くんっすか?」


「せやな。そうしよか。でもなぁ…どうしよか迷うなぁ…。」


「なにが…ですか…?」


「実はな…その神代とか言う所で人の希望や夢や努力ってのを1つも喰われへんかったんや…。

その全ての想いを託されたんが凛桜と雪っていう女なんや。俺が喰う前に全部持っていきよったわ。そんな色んな人間の想いを託されてる奴を喰ったら…とんでもなく美味いやろなぁ…。羽山のおっさんに渡すのが勿体ないぐらいや…。」


そう言うと鬼山はテーブルの上にあったリンゴを無造作に手に取り簡単に握り潰す。

手に残ったリンゴの残骸を口に運び、おぞましい表情を浮かべる。

金村達はこうなった鬼山を止めることはできないのを知っているので全ての決定を鬼山に委ねる。


「俺たちはどちらでも構わないっすけど。その女を生け捕りにするとこまではどちらにしろすぐ実行するんっすよね?」


「そうやな…。全部捕まえてから考えよか。捕まったそいつの顔見てから喰うか引き渡すか決めたらええわ。美味そうな顔してたら…。」


『ククク…』と鬼山が肩を揺らせながら不気味に笑う。


「では…私達は準備をしてきますので…。」


「また連絡しますわ!それまでは鬼山さんはゆっくりしていてください!」


金村と棒崎は気持ちが高ぶった鬼山が危険な事を知っていたのでそそくさと部屋を出ていってしまった。

葛西の動きがバレていて、凛桜も捕まれば鬼山に殺されてしまう可能性が出てきた。

こうなってきては三嶋が予想していた通りには事が運ばなくなってきたのだが、この事を三嶋サイドが把握することはできない。


「今回こそ俺が求めた最高のモノやったらええなぁ。いつになったら俺の夢は叶うんか…。ほんでその先にあるもんは一体何なんか…。」


鬼山が望むはとてつもなく大きな人の想いを踏みにじり、その夢をグチャグチャにする事だろう。

脳が壊れている鬼山はそれでしか快楽を得られなくなっている。

しかし本人はまだ気付いていない。

鬼山が抱えている大きな大きな矛盾に…。


そんな事を考えもせず、この先訪れるであろう最高の時間を想像し、鬼は静かに嗤うのであった。


凛桜達と再び相まみえるまであと1日…。

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