第40話 また1人変わりたいと願う…
三嶋は自分で立案した計画を実行するために大阪の難波にあるBarでとある人物と密かに会っていた。
その人物とはアップグルントを壊滅させるために尽力している大阪府警捜査4課の『葛西 翔平』という刑事だった。
三嶋とは学生時代からの友人であり、今回の計画には葛西の協力が絶対に必要だった。
Barの隅っこのテーブルに向かい合って2人は座って話を始める。
「葛西、すまないな…こんな所に呼び出して…。」
「なんか久々に楽しい話でもあるんかって思って来たけどどうもちゃうみたいやな。」
三嶋は神代村の事は隠しながら羽山と鬼山の関係性について話し、その2人を逮捕するための計画を葛西に説明した。
三嶋が話をしている間、何も言わずにビールを飲みながら聞いていた葛西は話を聞き終わると友人の目から刑事の目へと自然と変わる。
「おいおい、それほんまに言うてんのか?」
「あぁ…全て本当の事だ。今週の土曜日に決行する。」
葛西は三嶋の嘘偽りのない真剣な眼差しを見て『ハァ…』と溜め息をつく。
長年刑事をしていて身についた人を見る目が本当の事だといっている。
そして葛西はビールを飲み干してからおかわりを頼んだ後、三嶋の方に眉間にしわを寄せた顔で振り返る。
「ほんまにやるって言うんやったらとんでもない事やぞ。こんな凶悪な事件で現内閣総理大臣を逮捕なんて前代未聞や。お前の立場も危うくなるぞ。」
「そんなのはとっくに覚悟はできている。俺はいつしか目標のために手段を選ばなくなっていた。汚い奴と汚い事をやって…自分の立場を上げて維持して…。今回の事で目が覚めたよ。人の不幸の上に成り立つものなんて良いわけがない。今までしてきた事の罪滅ぼしに少しでもなればと思っている。俺も…変わりたいんだよ…若い頃に憧れてた自分にな…。」
「そうか…。それなら協力してやらんでもない。鬼山は俺がずっと狙っていた奴やしな。」
「本当か!?」
三嶋はテーブルに手をつき勢いよく立ち上がる。
だが、『ただし!』と言いながら葛西は三嶋を制するように手を伸ばす。
「動かせれる人間は多くても10人もおらんと思う。なんせ情報の出処が不確かな上に相手がでか過ぎて府警本部にこんな事話したって動くわけがない。それにな、お前なんか隠しながら喋ってるやろ。話ししてる事が所々おかしいねん。」
「そ…それは…。」
「まぁそこはええわ。人が動かん1番の理由はな…。みんな鬼山にビビってんねん。正直言うと俺の部下、同期、上司、結構な人数が鬼山と絡んで殺されとる。それでも逮捕できてへん。それほどの巨悪なんや…あいつは…。笑ってまうやろ?天下の桜の代紋掲げた警察がこれや…。」
淋しげな笑みを浮かべて葛西は遠くを見つめる。
常に強気で前を向いて生きてきた葛西のこんな姿を三嶋は初めて見た。
「それでもやらなければならないんだ!このまま羽山を放っておいたら日本は…。」
「分かってる。ある情報筋から手に入れたんやが、鬼山も近々東南アジアの方に拠点を置くらしい。そうなったらそれこそ手を付けられん。お前が言う今回が最後のチャンスやろ。ただな…人数がな…。」
10人そこそこで鬼山らアップグルントを壊滅させれるほどの逮捕者を出すには圧倒的に人数が足りない。
そこで三嶋は神代村の黒子衆の事を思い出した。たぶん凛桜のために力になってくれるはずだ。
「こちらで人数はもう少し増やせると思う。詳しい事が分かり次第連絡する。」
「そうか。ほんでどこで鬼山らをパクるんや?」
葛西のその質問に三嶋は鞄からスマホを取り出して地図アプリを開いて説明をする。
「南港の今は使われていない『双葉運輸第2倉庫』。ここが受け渡し場所になる。」
「確実なんか?」
「羽山が関西で怪しい動きをする時は必ずこの場所を使う。それに用心のため、その日は俺が羽山の傍にいてその場所へと誘導するようにする。」
「分かった。ほな一回そこに行って配置をどうするかとかはこっちで決めとく。しかしなぁ…。」
葛西は腕を組んでまだ何かを悩んでいる。
ここにきてまだ足踏みをする葛西を見て三嶋は明らかに不機嫌さが含まれた言い方で質問をする。
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「いやいや、渋ってるわけちゃうから怒るな怒るな。
いやな、今週の土曜日はこの倉庫の近くのだだっ広い空き地でなんちゃらフェスっていうでっかい音楽のライブが開催されるらしくてな。俺ら大阪府警にも警備の依頼がきとんねん。
当日人がわんさかおる所の近くに羽山は来るんかと思ってな。」
これは三嶋の盲点だった。日にちを延ばそうかと考えたが来週以降は羽山がどこへ隠れてしまうかも分からない。
計画は今週の土曜日が1番成功率が高いのは確かだった。
「大丈夫だ。この倉庫の周りは人の寄り付く要素のない寂れた場所だ。土曜日の晩ならトラックの出入りなども全くない。羽山は必ずそこに連れて行く!」
「分かった。ほんでその誘拐されるお嬢さんは大丈夫かいな?危険やゆうもんやないぞ。」
「その点も大丈夫だ。その女の子は羽山にとって今最も価値のある子だからな。聞いた話では鬼山との間に一億の金が動いているらしい。鬼山も受け渡しするまでは危害を加える事はしないだろう。」
「しかし根性のある子やな。その子のためにも俺らは全力で動いたる!」
こうして三嶋は葛西との話をつけて、詳しい事はまた後日と言ってこの日は別れたのであった。
そして三嶋はスマホを取り出して羽山に電話を掛ける。
「あっ!もしもし!羽山さんは今どちらにおられますか?…はい…はい…分かりました!私も今すぐそちらへと向かいます!……何をおっしゃいますか!羽山さんがピンチの時は私が傍におりますので!一蓮托生ですよ!では後ほど!!」
いつも通りのゴマすりをして今週はピッタリと羽山の傍につく準備はできた。
三嶋は今になって思い知る、周りを巻き込んだとてつもない事を発案したのだと…。
その証拠にさっきから動悸は激しくなり、息も荒く冷や汗のようなものが止まらなかった。
(ビビるなビビるな!俺は変わると決めたんだ!そしていずれはこの日本を変えるために…!!)
三嶋はそんな弱気な気持ちを抑え込み、ギュッと目を瞑り、気合いを入れるために思いっきり自分で自分の頬を両手で叩いた。
鼻息荒く目の前を通ったタクシーを止めてもう1人の巨悪である羽山が潜伏している場所へと向かう。
「きょっ!きょの住所まれ!」
タクシーの運転手に対して、気合いが入りすぎてしまったのか噛んでしまった三嶋である。だがそんな肝心な時に締まりがない所が周りから好かれる所以なのだろう。
しかし、全てを背負う覚悟の三嶋の目にはもう迷いは無くなっていた。
計画実行まであと4日……。




