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第4話 代償の法則

凛桜は奏の言った『夢を叶えてあげる』という言葉に心底救われた気がした。

出会って間もない奏にこんな感情を抱くのが不思議で仕方なかった。

それだけ奏に人を惹きつける何かがあったのかもしれない。

しばらく凛桜は奏の胸を借りて泣き崩れていた。


「お〜、よしよし。凛桜ちゃん辛かったねぇ〜。なんか…エロいおじさん達の気持ちがすごく分かってきた気がする…。」


「ご!ごめんなさい!もう大人なのに子供みたいに泣きじゃくってしまって!」


「いいよいいよ、人間泣きたいときは気が済むまで泣いた方が良いんだよ。」


凛桜はサッと奏から離れて涙を拭く。奏はまだ触り足りない様子でおっさんのように凛桜を見つめている。


「あ、あの奏さんの目…怖いです…。」


「奏って呼び捨てでいいよ。敬語も気持ち悪いからタメ口でね。しかし脱出かぁ〜、さっきの神代村の話聞いてると簡単にはいかなさそうだよね…。」


「そうなんで……そうなんだ、ここから抜け出すのはやっぱり不可能なのかも…。『黒子衆』っていう黒装束の人達もいて…。」


敬語で話しそうになるのをなんとか堪えてぎこちなく凛桜は話す。

『う〜ん』と悩んでいた奏が何か思いついたのかパッと顔をあげる。


「そうだ!その神宿の手の力でなんとかならないの!?」


「だからダメなんだよ!代償を伴うから危険過ぎるの…。それに自分の願いは叶えることできないから…。」


「あたしが願えばいいじゃん。簡単じゃん。」


当たり前のようにドヤ顔で即答する奏に凛桜は驚く。


「どんな代償が待っているのか分からないんだよ!?絶対に奏にそんなことさせられない!」


「あのさ、今まで凛桜が聞いてきた願い事と代償って分からないの?何か法則性が分かればなんとかなりそうなんだけどな。」


「私が聞いた願いは3つなんだけど…」


凛桜が今まで叶えた願いと代償の結果をできる限り細かく話し出した。


・1人目の願いはある大企業の会長のもので、


『盲目になってしまった目を治し、もう一度愛する妻の顔が見たい』


であった。その願いの代償は、


『妻への愛する気持ちの消失』


目が見えるようになって妻の顔を見ることができたが、あれほど愛していた妻への気持ちが消えてしまったのだ。


・2人目の願いは大物政治家のもので、


『もう一度選挙に出るために全身に転移してしまった癌を治してほしい』


であった。その願いの代償は、


『癌は治り選挙に出ることもできたが、選挙演説中に車が突っ込んできて事故死』


その政治家が死亡した日にちは癌の時にされた余命宣告よりもかなり早かったらしい。

癌のままでいた方が長く政治家人生を歩めていただろう。


「3人目の人は昨日願いを叶えたばかりでまだ代償などの結果は聞いてないの。羽山さんって総理大臣が内閣の支持率を上げたいって願いだった。」


「はっ!?日本のトップがそんなクソみたいな願いしにきてんの!?闇が深すぎるでしょ…。」


「なにか…分かりそう?」


「例が少なすぎるけど…共通するのは願いが叶った後にその願いを生んだ『理由』が代償になってるよね。1人目は『愛』、2人目は『時間』。この『理由』が代償になる事によって願いをした事自体の意味がなくなってる。」


凛桜の話した少ない情報だけで奏は力についてどんどん推測を立てていく。

鼻をほじったり、エロいおじさんになっていた奏からは想像もできなかった。


「奏ってさ、頭良いの?」


「ん?あたし一応京都大学だよ。歌うのが好きで歌手を目指しながらだけどね。」


「京都大学がよく分からないけど…考え事してる時の奏は凄く格好良かった!」


「ふふふ、歌ってる時のあたしはもっと格好良いんだぜ!……って今はこんな事話してる場合じゃないか。もう少し情報があればなぁ…。」


そんなやり取りをしている中、凛桜がふと時計を見ると朝の8時をまわるところだった。


「ごめん、もう朝食の時間だから行ってくるね。行かないと怪しまれるかもしれないから。」


「分かった。その間にいい方法がないか考えとくね!」


そう会話を交わした後に凛桜は部屋を出て広間の方に向かう。こんなに清々しい気持ちで1日が始まった事は今までなかった。


広間に着き、中に入るとすでに百合が食事を始めていた。

広い部屋の中にいるのは百合と凛桜と2人の女中だけだった。


「お母様、遅れて申し訳ございません。」


「良いんですよ、お友達と夢中で話をしていたら時間を忘れるなんて当たり前のことです。」


「え………。」


百合の返答が予想外すぎて、凛桜は百合の言っている言葉の意味が理解できなかった。ただ食事に遅れた事を謝ったことに対して百合はとてつもなく恐ろしい返答をした気がする。

そして百合の言葉をなんとか理解した凛桜の背筋が凍る。


「お母様!!まさか!!」


凛桜がそう叫ぶと同時に奏の『離せよ!』という声が遠くから聞こえてくる。

その声はどんどん近づいてきて広間の入り口の前で止まった。

襖が開くとそこには、謙信に捕まりジタバタ暴れている奏の姿だった。

その2人の横にはゴスロリ調の服を着た『本多ほんだ せつ』という可愛らしい女の子もいる。


「ごめん!凛桜!突然こいつらが部屋の中に入ってきて!」


奏がそう叫ぶと雪が首を傾げながら顔を近づけてくる。幼い顔立ちには似合わない殺気に満ちた目で奏を睨む。


「こいつらってさぁ…言い方ヒドくない?雪って名前があるんだけどなぁ…。お兄ちゃん、もうこいつ殺していいんじゃない?」


雪が奏の首元に派手な装飾のついたナイフを突きつける。


「やめろ雪。この女をどうするかは百合様が決めることだ。」


そう言うと謙信は奏を部屋の方に投げ入れる。

百合は何事もないかのように飲んでいた湯呑みをゆっくりと置き凛桜に目を向けた。


「凛桜、バレていないと思っていましたか?」


「お母様!隠していたことは本当に申し訳ございません!ですが彼女はただの迷い人でして!」


「いいえ、彼女は知りすぎました。天井裏で雪が全て見聞きしていましたから。なんと神宿の手の法則なんて考えていましたね。」


凛桜はすぐに雪の方を睨む。

すると雪は凛桜をおちょくるかのように舌を出してダブルピースをしていた。


「雪ちゃん大活躍だったもんね!お嬢にはごめりんこだったけど♡」


「やっぱり私はあなたの事が大嫌いです!」


「あん?いくらお嬢でもムカつくんですけど。」


雪を睨みながら怒りを抑えきれない凛桜は手を握りしめる。

この凄まじい殺気と空気の重さを切り裂くように百合が話し始める。


「凛桜、残念ですがこの方を帰すことはできません。こうなったのもあなたが神代の事を話し、そしてあなたがいらぬ『憧れ』を持ってしまったからです。反省なさい。」


「私はここから出るなんてこと絶対にしません!だから奏だけはどうか助けてあげて下さい!」


百合と凛桜が話している間、奏は必死で考えていた。この状況をどうにか突破する方法を。


(もうここから逃げるには凛桜の神宿の手の力を借りるしかない。でもいけるかな?情報が少なすぎて法則性に自信がない。あー、でもやらなきゃ駄目か…。覚悟を決めろ。あたしはまだ死ねない!)


奏は痛む右足にグッと力を込める。

一気に勢いよく凛桜の方に走れば数秒時間に余裕ができる。

その間に願いを叶えてもらえば逃げる事ができるかもしれない。


そして奏は痛みを堪えて凛桜の方へと走り出す。


「凛桜!!手を伸ばして!!そしてあたしの願いを叶えて!!」


「えっ!?でも代償が!!」


「いいから!!あたしを信じて!!」


それを見た謙信と雪はすぐに奏を止めるため動き出した。およそ人が出せるスピードと反応ではなかった。これだけで謙信と雪が尋常ではない身体能力を持つと分かる。


「あはは!お兄ちゃん!もう良いよね!殺しても!」


「あぁ、これはもう仕方ないな。」


それでも奏が凛桜の元へと辿り着くのがほんの少し早かった。

すぐに凛桜は奏の手を握る。


「いいの!?奏!?」


「いいから!あたしを信じて!」


奏の手を凛桜が両手で包み込む。奏の手が少し震えていた。

それに気付いた凛桜はもっと強く奏の手を握りしめる。


「分かったよ奏…、願いを心の中で強く想って!」


それを聞いた奏は静かに目を閉じて先程考えた願いを思い浮かべる。きっと大丈夫、うまくいくと自分に言い聞かせながら…。


そして2人の繋がった手が強く白く光る。

まるでこの地獄のような状況から抜け出し、2人の夢を叶える希望の光のように。


それを見た百合は『なんてことを…』と呟いた。

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